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第41話 勝利、それは最も油断する瞬間

 光が俺を包み、上から羽ばたく音と風が伝わってくる。

 敵は6体居るのに対して、こちらは一人と2体。


 数には倍の差があるが、負けるつもりは毛頭なかった。


『直接触れるのはまずそうね。大丈夫?』


 顔を上に向けてみれば、心配そうな表情で竜乃が見下ろしていた。


『とりあえずはな。望月ちゃんの魔法のお陰で痛みは引いてるよ。

 でも、こうなると魔法しかなさそうだな』


 竜乃と違い、遠距離攻撃の直接的な手段を持っていない俺には触れずに敵を攻撃する手段が魔法しかない。

 ただこの階層の事を考えると、あまり魔法にばかり頼りたくないという気持ちもある。


 まぁ、その結果さっきは出し渋って返り討ちのような形になったのだが。


『……弓の奴が一人いるわね。あと杖を持っている奴も。

 そっちは私が牽制するわ。前衛はお願い』


『頼んだ』


 顔を上げたまま竜乃に頷き、俺は正面を向いて大地を蹴る。

 攻撃手段を魔法に切り替えるつもりだが、止まったまま撃つような真似はしない。


 俺が止まるという事は後ろに居る竜乃や望月ちゃんにも被害が及ぶという事だ。

 だからこそ、走り回りながら魔法を放つ。


 昨日ヘル・ドッグに放った炎の上級魔法、イグニッション。

 黒い犬を消し炭にした火の竜巻が、6体の兵士達を丸ごと飲み込んだ。


 けれどその炎の中にあって、一体のダーク・ソルジャーが素早く動いた。

 まるで燃える体を気にしないように、構えた槍を突き出してくる。


(当たるか!)


 しっかりと見定め、切っ先から目を離すことなく横に跳ぶ。

 しかし突き出された槍は90度だけ回転し、刃が跳んだ俺に向いた。


 水平の薙ぎ払い。こうした攻撃手段を取ってくることも、俺はよく知っている。

 だからこそ岩の壁を魔法で作り出し、それを受け止めたのだが。


 聞こえたのは予想通りの金属と岩がぶつかる音。

 そしてその直後に聞こえた予想を越える轟音。


 それが岩を砕いた巨大なこん棒によるものだという事は、岩の破片が頬を傷つけたときに気づいた。


(うっそだろ!?)


 確かに咄嗟に出した岩壁だったが、まさか破壊されるとは思っていなかった。


 目と口を開くしかない俺は自身に影が射したことに気づき。

 降り下ろされた剣の軌道を上手く避けるために前に跳んだ。


(あっぶね!)


 跳んだ先には、剣を振り下ろした状態のダーク・ソルジャー。

 このままでは激突すると感じ、すぐに風の魔法で俺自身の体を横から打ち付ける。


 すんでのところで避けることが出来たが、すぐに別のダーク・ソルジャーの剣が襲い掛かってくる。


(キッツいな……これ!)


 戦場を走りまわりながら、俺は思った以上の疲労に内心で苦言を漏らす。

 乱戦は今までにも経験がある。


 今も記憶に新しいあのスールズの群れとの戦いだって、かなり苦しい戦いだった。

 最後には袋叩きにあったのだ。結果としてはあの戦いは窮地と言えただろう。


 あの頃に比べれば俺自身は成長しているが、それは敵も同じこと。

 けれどそれ以上に、敵に直接的な攻撃が出来ず、触れることもできないということが苦しかった。


(魔法の効きは悪いし……少しでも油断したら攻撃が当たるし、自分から突っ込んだらアウトだ。気を付ける事多すぎだろ!)


 脳のリソースに関してはスールズの時よりも使っている。

 正直、頭が痛くなってくる。


 けれどそれでもまだ戦えているのは、残り2体のダーク・ソルジャーを竜乃と望月ちゃんが戦ってくれているからに他ならない。


 この様々な武器が入り乱れる苦しい戦場に弓矢と魔法が加わると考えるだけでぞっとする。


(とはいえ、慣れてくればどうということはない)


 戦いの中で目が慣れてきたのか、武器の動きを捉えられるようになってきた。

 魔法に関しても威力の高い魔法ではなく、スピード重視の初級、中級魔法を使用することで効率的にダメージを与えることができるようになってきた。


 そうなってしまえばあとは流れ作業のようなもの。


(ここだ!)


 もっとも攻撃に隙があり、動きが遅い棍棒持ちのダーク・ソルジャーにやや強めの魔法を当ててHPを削り切る。

 1体でも倒してしまえば、一気に楽になった。


 この時点で勝利の可能性はほぼ100%。攻略完了と言っていいくらいだ。


(こうなって……しまえば!)


 水の魔法でダーク・ソルジャーの動きを一瞬止めると共に、視界の端に弓と杖を構えるダーク・ソルジャーを捉えた。


(そこっ!)


 二体のダーク・ソルジャー目がけて、準備していた火の上級魔法イグニッションを放つ。

 湧き上がる火の柱を見て、しまったといった風に前衛職のダーク・ソルジャーの動きが止まったのを見た。


 同じダーク・ソルジャーとはいえ、探索者の中ではダーク・ソルジャー(剣)やダーク・ソルジャー(弓)のように別モンスターとして扱われている。


 前衛職と比べてやや魔法耐性が低いだけあり、弓を手にしたダーク・ソルジャーを削り切ったことは確認した。

 しかし、杖を持っている方は適性が高いために、僅かにHPが残った形だ。


 けれどそれも、竜乃のブレスが焼き払ってくれた。

 これで敵側の後衛は全滅。数も3対3と並んだ。勝ったも同然だ。


(畳みかけさせてもらう)


 数が減ったこともそうだが、慣れてきたことでかなり余裕も出てきた。

 残っているのは剣持ち二人と槍持ち一人。


 剣持ちのダーク・ソルジャーの体を火の魔法で作り出した剣で突き刺し、もう一体の剣持ちの足を氷漬けにして風の刃を放つ。


 最後なので油断して斬り裂くような真似はせずに、丁寧にもう一つの風の刃を魔法で作り出してその首を斬り落とした。


 これで残るはあと1体。

 槍持ちのダーク・ソルジャーに向き直ると同時に、火の奔流が奴を飲み込んだ。


(終わりだ)


 竜乃の支援に感謝しつつ、ライトニングの魔法でとどめを刺す。

 少し長引いた戦いではあったが、なんとか勝利を収めることが出来た。


 それに初回だったからこそダーク・ソルジャーに手こずったが、次からはもっと効率的に対処できるだろう。

 そう思ったとき。


 体を傾けるダーク・ソルジャーが槍を握る手に力を込めたのを見た。

 奴の腕が緩やかに動き、そして。


 投げ槍の要領で、凶器が放たれた。


 ――え


 奴の一連の動きも、飛ぶ槍も、全て視界に収めていた。

 やけにスローに映っていたが、対処することはできなかった。


 もう終わったと、そう思ってしまっていたから。


 ――しまっ


 思えたのは、そこまで。

 俺と同じように安心しきっていた白い竜に、深々と奴の槍が突き刺さった。


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