第34話 望月ちゃん、出るってさ
当たり前の話ではあるのだが、ダンジョンは広く、そしてそこに出現するモンスターの種類も多岐に渡る。
とはいえ、どれだけバリエーションに富んでいてもダンジョンに応じた強さになるわけで。
「竜乃ちゃん、そこだよ!」
『ええ、任せなさい!』
探索者のレベルがモンスターのそれを上回っていれば、勝つことは容易だ。
今も望月ちゃんの魔法で強化された竜乃はドラゴンブレスをサソリ型のモンスター、スコーピウスに放ち、HPを削り切った。
一撃で敵を倒すほどの火力。それを実現するくらいには望月ちゃんのレベルは上がっていた。
(……かなりレベルが上がったな)
俺自身、昨日から望月ちゃんの要望で戦闘には参加するものの、なるべく攻撃はしないようにしている。
だが俺が攻撃をするまでもなく、中層のモンスター相手ならば竜乃一人でお釣りがくるだろう。
以前優さんも言っていたが、望月ちゃんは他の探索者とは一線を画する勢いで成長している。
一つの理由としては、格上の相手でも俺というカードを切ることで対応できること。
格上のモンスターを撃破した場合、入ってくる経験値の量は多くなる。
レベルの差があればあるほど、それは大きい。
普通の探索者ならば、入る経験値はモンスターを倒した探索者のレベルが基準となり、それよりもレベルの低い探索者に入る経験値は減少する。
だが望月ちゃんの場合、倒している俺は彼女のテイムモンスターであり、俺が倒した経験値がそのまま望月ちゃんに入る。
制限のないパワーレベリングが出来ている、というのが一つの理由だろう。
(けれど……それを考慮しても強すぎる)
一つの戦闘が終わり、安心して息を吐く望月ちゃんを見ながら思う。
少し前に望月ちゃんが端末で自分のステータスを見ているのを覗き見たことがある。
その時の数値は中層には挑めるものの、楽々とモンスターを倒せるような値ではなかった筈だ。
けれど今、彼女のテイムモンスターである竜乃は余裕を通り越して一撃でモンスターを倒している。
(おそらく望月ちゃんはシークレットスキルを所持しているはず)
以前スールズの群れで望月ちゃんと繋がったときから感じていたこと。
そしてあくまでも予想ではあるが、望月ちゃんと俺が繋がれたそもそもの原因。
彼女は普通のテイマーと違うスキルを所持しているのではないか、という説だ。
シークレットスキル。
政府が提供する端末では確認することのできない力。
それは確認できないがために立証はできないが、確かにあるとされる。
俺は持っていなかったが、世界の上位の探索者達は所持している。
望月ちゃんも、おそらく。
(望月ちゃん自身気づいてはいないけど、多分テイム関連のシークレットスキルだろう)
テイムモンスターを愛する彼女に相応しいシークレットスキルだ。
あるいは彼女の愛がシークレットスキルを目覚めさせたのかもしれないが。
“竜乃ちゃん、今日も一撃の巻”
“虎太郎君なしでこんだけ戦えるならもう十分やろ”
“どうなんですか!? キミーパイセン!”
戦闘終了によりコメント欄も沸いている。
実力的にはもう中層ボスに挑んでもいいんじゃないか、そんな意見も出てきた。
その中で、尋ねられたキミーパイセンが返信コメントを打ってくれる。
“キミー:そうだね、皆実力的には十分すぎるくらいだと思う。中層のボスモンスターの情報をまとめて、望月ちゃんに送っておくよ”
“流石っすパイセン!”
“キミーパイセンの情報は安心”
“そろそろボスに挑む頃か……”
「あ、優さんありがとうございます! そうですね、しっかりと準備をして、竜乃ちゃんと虎太郎君、そして私のコンディションも整えてボスに挑んでみたいと思います!」
もうお分かりかもしれないが、優さんは探索者を引退はしたものの、望月ちゃんの配信には顔を出してくれていた。
望月ちゃんはすぐに優さんに配信の一部の権限を渡した。
コメントなどを監視、そして場合によっては削除するモデレーターという権限だ。
事情を視聴者に説明すれば、すでに一度コラボした相手という事で受け入れられた。
元々望月ちゃんにダンジョンの情報を渡していたのも優さんらしく、その提供の場に配信が加わった。
その情報量に、一部の視聴者からはキミーパイセンと呼ばれ親しまれているくらいだ。
ちなみに君島なのでキミーというニックネームにしたらしい。
な、なんて安直なんだ。
“それにしても、リスナーも増えてきていい感じね”
“むしろ少ないねん。モッチーのポテンシャル考えたらもっと多くていい”
“それはそう”
“[コメントは削除されました]”
“キミーパイセンw 対応速すぎw”
チラリとコメント欄に目を向けてみれば、優さんが不適切なコメントを丁度削除したところだった。
現在、配信を見ている人の数は50人程度。
初期から比べれば、多くの人が見てくれている。
けれど人が多くなれば不適切なコメントも増えるという事で、そういったものに優さんが対応してくれていた。
ちなみに昨日はセクハラ紛いのコメントが紛れていたので視聴者を威嚇しておいた。
オマエ、ナマエ、オボエタ。
そんなわけで困ったこともあるが、嬉しいことの方が多い。
視聴者の数が増えたことで俺や竜乃を褒める言葉も多く、望月ちゃんはニッコニコだ。
(でも……もう少し人気になってもいいよな)
望月ちゃんという女性テイマーに、俺と竜乃という2体のテイムモンスター。
それにTier2ダンジョン中層を楽々突破できるほどの強さ。
もっと人気になってもいい気がするのだが、伸びはゆったりとしていた。
一度見てくれた人は次の日も引き続き見てくれることが多いのだが。
“キミー:あぁそうだ望月ちゃん、JDCって知ってる?”
「J……DC?」
優さんのコメントに、望月ちゃんが首を傾げながら返事をする。
“キミー:うん、Japan Dungeon Cup(ジャパン ダンジョン カップ)って言って、政府が主催する参加自由のイベントのようなものだよ。戦士のイベントや魔法使いのイベントとかがあるんだ”
確か数年前からやっているイベントの筈だ。
探索者界隈を盛り上げるのと、もっと知ってもらおうというのが目的だったはず。
確か戦士イベントは支給された武器でTier3ダンジョンのボス相手にどれだけスタイリッシュな攻撃をできるか、魔法使いイベントはダンジョン内で魔法で芸術的なことをするみたいなことだった気がする。
あくまでも探索者を周知するのが目的の印象だったが。
「JDC……あ、これですね。すごい、専用ページがある。あ、もう始まってるんですね」
端末で情報を調べ始めた望月ちゃんは、大会のページを開いて驚いていた。
“キミー:うん、そして今JDCでは初のランキング戦をしているんだ。ダンジョン内でどれだけ多くの、そして強い敵を倒せるかっていうランキング”
「ランキング……すごい」
“キミー:そして政府は今回のJDCにはかなり力を入れていて、期間終了直前には、ランキング上位者の配信を公式の配信で映してくれるらしいよ。どう? 参加してみない?”
「公式の配信……竜乃ちゃんと、虎太郎君が……人気に……」
ボソボソと何かを呟く望月ちゃん。
やがて彼女は顔を上げ、横からでも分かるくらいやる気十分な雰囲気を出した。
「やります!」
うぉ、普段の望月ちゃんからは想像もできないほど大きな声だからびっくりした。
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