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第30話 どうやら早とちりだったようです

 望月ちゃんは学校の先輩と言っていただけで、女性とはもちろん言っていない。

 でもまさか男だなんて思わないじゃないですかー!


「じゃあ優さん、配信はじめますね」


「うん、お願い。はじめてだから緊張するな……」


 半ば放心状態の俺を他所に望月ちゃんは配信の準備を進める。

 呆然とする俺の視界の先では、少年と笑いあう望月ちゃん。


 俺達に向けるのとは少し違うが、浅倉の時よりは打ち解けているようだ。

 そ、そんな……。


「皆さんこんにちは。今日はコラボという形で、学校の先輩に来てもらってます」


「は、初めまして、君島優と言います。今日はよろしくお願いします」


“初めましてー”

“これでモンスターと人間の比率が1:1になって、いい感じかもしれない”

“君島さんの活躍、楽しみにしてる”


「ありがとうございます。あ、名前で良いですよ。望月ちゃんも優さんと呼んでいるので」


 早速打ち解けている優さん。

 名前の通り、優しい人オーラがにじみ出ている。


(…………)


 浅倉の時、もっと性格の良い人ならば望月ちゃんを任せられると思っていた。

 不本意だけど、望月ちゃんが幸せならばOKだと。


 けれど……ショック……


『虎太郎? ちょっと、大丈夫?』


『……あぁ』


『?』


 ショックや……





 ×××





『虎太郎! 行ったわよ!』


『はい』


 俺の元に殺到する2匹の獣、名前は確かデザード・ハウンドだったか。

 そのうちの1匹を爪の一撃で吹き飛ばし、もう一匹を体を横に回転させて尻尾を横っ腹に叩き込む。


 吹き飛んだ獣に対して素早く魔法を行使し、光の剣を創造。

 プリズム・ソードは正確に2匹の獣を貫き、それらのHPを削り切った。


『ナイスよ虎太郎! 残り一匹もこれで、終わり!』


『はい』


 視界の隅では竜乃のブレスと望月ちゃんの魔法、そして優さんの刀により最後の1匹が絶命していた。


 2人と1匹には特に傷もなく、今回も余裕の勝利だ。

 いや、優さんが加わったことでさらに安定しているようだ。


「竜乃ちゃん、虎太郎君、お疲れ様!」


『はい』


 優さんが……加わったことで……。


「動画で見た時も驚いたけど、実際に見ると凄いね。

 虎太郎君の力は、下層でも十分に通用するよ」


「ほ、本当ですか!?」


『はい』


 いや、望月ちゃんだって年頃の女の子。

 優しくて強い先輩に憧れるのも無理はない……ないのだ。


 娘が彼氏を紹介したときの父親の心情って……コレ?


“虎太郎くん、マジ最強”

“見たことないモンスターだけど”

“でも能力値はこのパーティでずば抜けてる”


「配信を見てくれてる人たちも同意見みたいだね。

 僕は誰かと一緒に上の階層を探索することは多いけど、正直望月ちゃん達に教えることは何もなさそうだよ」


「い、いえ、優さんが組んでくださって、とっても戦いやすいです!」


『はい』


 望月ちゃんも優さんに心を許している。

 心を……許して……


“優さんもありがとうございます!”

“積極的に前に出てモッチー護るなんて、ナイス!”

“これはモテる男の所作”


「……え?」


 不意にコメントを見ていた望月ちゃんが声を上げた。

 その声で、俺はようやく現実に戻ってくる。


 なんだかぼーっとしていたような、気が。


「あぁ、やっぱり勘違いされちゃうんだね。僕、女なんだけどなぁ」


 女なんだけどなぁ。

 女なんだけど。


 女。


『少年ではなく、少女!?』


「うわぁ! びっくりした」


 急に吠えたために、優さんを驚かせてしまったようだが、それどころではない。


“え、女性?”

“少年だと思ってた”

“俺は最初から分かってたよ”

“うそつけ”


 コメントも同じように驚いている様子だ。

 今この瞬間だけコメントの数が加速したのがその証拠だろう。


「まぁ、確かに女らしくないってよく言われるけどさぁ………」


 不貞腐れた様子の優さんをじっと見る。

 確かに中性的な顔立ちの少年だと思っていたが、言われてみて注意深く見てみれば優くんではなく優ちゃんだ。間違いない。


(ってことは……)


 望月ちゃんが親しげにしていたのは、文字通り頼れる先輩だという事で。

 全ては俺の勘違いだったという事か。


 それは……それは本当に。


(本当に……良かったぁ……)


 脱力し、ペタンと地面に伏す。

 その姿に、コメントが少しだけ加熱した。


“虎太郎君、安堵の様子”

“なんか様子おかしいと思ってたら、優さんが男性だと勘違いしてた?”

“俺達みたいな思考回路してんな、この獣”


「……あ」


 コメントを見て、そして俺を見た望月ちゃんが何かに気づいたように声を出した。

 彼女はしゃがみ込み、俺の頭を優しく撫でてくれる。


「虎太郎君、浅倉さんの事思い出して、心配してくれたんだよね」


 俺にしか聞こえない声量でポツリと呟いた彼女。

 慈しむような視線が、俺の胸に突き刺さる。


 心配もそうだけど嫉妬というか、なんというか。


「でも大丈夫だよ。私もあの一件以来、男の人が苦手になっちゃって……」


 えへへと笑う望月ちゃんに、俺の中での罪悪感が増えていく。

 もちろん望月ちゃんを心配したのもあるけど、ほとんどは俺の心の問題なんです。


「すみません優さん。実は私、以前男の人の探索者さんとちょっとトラブルがありまして、それを虎太郎君は心配してくれていたみたいです」


「そうだったのか。それなら最初に言っておくべきだったね。ごめんよ、虎太郎君」


“虎太郎君、モッチーを気遣うナイトだった”

“モンスターに邪な気持ちがあるわけないか”

“同じとか言ってごめん”


『虎太郎……あんた……』


『…………』


 望月ちゃんに優さん、そしてコメントをくれる人達。

 さらにはいつも軽いノリで話してくれる竜乃すらも優しい目で俺を見てくる。


 心が……心が痛い……


(結果としては良かったけど、なんか騙しているみたいだ……)


 お詫びというわけでもないのだが、残りの探索ではこれまで以上に頑張ろうと、そう心に決めた虎太郎です。


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