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第29話 コラボ配信

 ダンジョンとは異世界である、というのは昔から言われていることである。

 地下に広がる広大な空間でありながら、入り口付近を掘ってもダンジョンには入れない。


 そして内部には、この世のものとは思えぬ光景が広がる。

 地下なのに光の射しこむ砂漠、熱気に包まれた噴火山帯、そして今俺達が居る湖などだ。


 果てしなく続く広大な湖のほとりで、俺達は今日も戦っていた。


『虎太郎! 突進来るわよ!』


 竜乃の焦った声に視線を上げれば、俺達が戦っていた敵、レイクホースが前足で地面を蹴っている最中だった。

 通常の馬と同サイズの、だが美しい水色の体毛のモンスターだ。


 もちろん話は通じることなく、獰猛で、突進や後ろ足でのキックは探索者に致命傷を与えることすらありえる。

 特に突進は威力が高い攻撃で、避けなければならない。


『止める! だから援護してくれ!』


 けれどレイクホースは縦横無尽に湖のほとりを走り回る。

 足止め魔法で動きを封じるのが定石だが、俺達の中に使えるメンバーは居ない。


 だからこそ、ここで一石を投じる必要があった。

 探索者ではなく、今の俺だからこそ取れる一石を。


『しょ、正気なの!?』


 驚く竜乃の言葉を無視し、俺は駆ける。

 成長した俺の体の大きさはほぼレイクホースと同じ。


 一直線に向かってくる奴と、それに真正面から突貫する俺。

 獣が大地を駆ける足音が複数響き、そして。


「虎太郎君!」


 心配する望月ちゃんの声が掻き消える程の、ズシンッという重音が響く。

 頭に痛みが走り、僅かに体が後退しそうになる。


 けれど全ての脚に力を入れ、ぐっと踏みとどまった。

 額合わせになったレイクホースは、驚いたように目を見開いている。


 奴としても、まさか突進を止められるとは思ってもみなかったのだろう。


『止まればこっちのものよ!』


 遥か高く跳びあがった竜乃が頭上からドラゴンブレスを放つ。

 中層でも十分通用する竜乃の炎。


 さらにそれを望月ちゃんの支援魔法で強化すれば、身を護る術を持たないレイクホースを焼き尽くすには十分だ。

 ただ一つ誤算があるとすれば。


『あっち! 熱い! 竜乃! お前!』


 咄嗟に魔法を放ち、頭上から水を降らせることで火を消す。

 ずぶ濡れになるくらいの水量だったので火は問題なく消えたが、毛先は少し焦げた。


『ご、ごめんなさい、当たるようにはしてないんだけど……』


『こいつに当たって跳ね返った火の粉で毛が燃えるわ!』


 まあ多少焦げただけだし、仮に竜乃のブレスで火だるまになっても時間が経てばダメージは回復するので、実はそこまで怒ってはいない。


「虎太郎君、大丈夫?」


 すぐに望月ちゃんの魔法による温かい光が俺を包んだので問題ない。

 あぁー、癒されるー。


「竜乃ちゃん、次からは気を付けてね。虎太郎君は頑丈だから大丈夫だと思うけど」


『はーい……まぁ、次からはもう少しブレスを細く吐くわ』


 俺が頑丈であるために竜乃はやや微妙な心境のようだったが、それでも今後の対策を講じてくれるようだ。

 こいつ、結構お調子者に見えてよく考えているというか、見ているというか。


 そんな事を思いながらチラリと配信ドローンに目を向ける。

 ドローンが示す数字は15となっていて、俺が配信に参加した4日ほど前から考えると7倍近くになっていた。


 もちろんまだまだ人気配信者には程遠いものの、2人と15人では大きな違いがある。

 さらに、今カメラドローンはコメント表示モードになっていて、先ほどの戦いの感想が書き込まれていた。


“虎太郎君、正面からレイクホースの突進を止めた!?”

“うっそだろ?w そんなことできんのw 流石モンスターw“

“竜乃ちゃんのブレスも中々ですね”


 現在コメントをくれている人は3人。その中には最初にコメントをくれた人も居た。

 つまり俺達は、固定リスナーを獲得したのである。


 これには望月ちゃんもニッコニコ。俺も竜乃もニッコニコだ。


『それにしても、成長してから本当に力が増したわね』


 俺に近づいてそう告げるのは、以前よりも一回りだけ体が大きくなった白い竜だ。

 中層でモンスターを倒しているうちに望月ちゃんのレベルが一定値を超えたらしく、竜乃もそれに合わせて成長した。


 大きくなったのは体だけでなく、スキルの攻撃力や防御力も向上しているだろう。

 先ほどのレイクホースも、成長前の段階ではギリギリ火力が足りずに倒しきれなかったかもしれない。


『これを何度も経験しているっていう虎太郎が羨ましいわ』


『は……はは……』


 俺も元探索者という観点からするとこの体は羨ましいよ。

 所持している俺が言うのもなんだけどな。


 望月ちゃんがレイクホースからの戦利品を回収する横で竜乃と何気ない会話をしていた俺は、不意に湖の方に目を向けた。


 自分の姿が確認できないときに思い描いた光景が目の前に広がっている。

 今となっては姿を確認する必要もないし、あの頃とは姿も変わってしまったけれど。


 着実に一歩一歩進んでいることだけは確かなことだ。





 ×××





 その日も、いつも通り望月ちゃんの用意してくれた探索者用テントで休んでの探索終了となった。

 いつもくれるモンスター専用ご飯に舌鼓を打った後に、ちらりと視線を向ける。


 望月ちゃんはいつものように動画で中層の情報を見ていたが、俺が食べ終わるのを確認してから立ち上がってこちらへと近づいてきた。

 ちなみに竜乃は食べるのが早いので、もう食べ終わってぼーっとしていた。


「竜乃ちゃん、虎太郎君、お話があるんだ」


 近づき、床に腰を下ろした彼女は交互に俺達を見る。


「配信も見てくれる人が来てくれて、本当に良い感じになってる。

 それでね、実は前からコラボを打診していた人がいるんだけど、明日なら大丈夫って返事をもらったんだ」


 ほう、と俺は望月ちゃんの言葉を受け止める。

 他のダンチューバーとコラボをするという文化は以前からあるものだ。


 現在も多くのダンチューバー達がコラボし、共同でダンジョン攻略を行っている。

 さて、それじゃあ望月ちゃんのコラボ相手はどんなダンチューバーなのだろうか?


「あ、でもその人は配信したことのない探索者さんなの。

 私の学校の先輩なんだけど、学校で一番ダンジョン攻略を進めていて、このダンジョンの下層にも行ける人なんだよ」


 どうやら配信をしているダンチューバーというわけではなく、純粋な探索者らしい。

 それにしてもこのダンジョンの下層となると、いよいよもってダンジョンの最後の層。


 そこを探索できるという事は、学校で一番攻略が進んでいるのも頷ける。

 大人でも、今居るようなTier2ダンジョンの下層を安定して探索できる人は一気に減り始めるからだ。


「上層ボスや中層でおススメの動画を教えてくれたのもその人なの。

 明日から土日で、まずは二日間コラボって話になったから、覚えておいてね」


 コラボをすることで探索が安定するのはもちろん、望月ちゃんと竜乃の良い刺激になるだろう。

 メリットしかないために、俺はガウッ、と鳴いてはっきりと頷いた。


 のだが、その翌日。


「こんにちは皆。動画で良く知っているよ。竜乃ちゃんと虎太郎君だね。

 僕は君島優(きみしまゆう)って言うんだ。よろしくね」


 俺の目の前には探索者らしく動きやすい格好に身を包んだ少年が立っていた。

 少年……男だ。


「よろしくお願いします。優さん」


 優さん!?


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