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第26話 やはり黒の獣だったようで

 ボス討伐の報酬はレアな装備品と消耗品だった。

 テイマーの望月ちゃんには装備できない品だったので、売りに出すらしい。


 消耗品は大事に所持しておき、俺達はボス部屋を通り抜ける。

 これでこのダンジョンの上層はクリア。あとはこの先にある階段さえ下ってしまえば、中層へと進むことができる。


 モンスターが出現することのない通路を進めば、下へと向かう階段が見えてくる。

 そしてその前には、2人の男性が立っていた。


「お疲れ様です!」


 敬礼をする二人の男性に望月ちゃんはビクっとしたものの、ペコリと頭を下げた。


「……お一人ですか?」


「は、はい……」


「ソロでこのダンジョンの上層を突破するなんて、凄いですね」


「は、はぁ……どうも……」


 手放しで褒める男性に対しても、望月ちゃんは曖昧な返事を返すだけだ。

 決して二人に近づくことなく、一定の距離を取って二人をチラチラ見ている。


「あぁ……ご安心ください。政府の者です。

 初めてお会いするかもしれませんが、Tier2以上のダンジョンでは階層を下る階段に配置されていることがほとんどなんです。

 探索を進めるなら、次の下層に向かう階段でも同じ服装の人たちに出会うはずです」


「えっと……な、なにをしているんですか?」


「注意喚起のようなものです。実力が伴っていないのに実力以上の階層に潜る方がいらっしゃいますので、念のために探索者レベルを確認させてもらっているんです」


「お、お疲れ様です?」


 望月ちゃんはしっくり来ていないようだが、彼らは上位ダンジョンでは良く目にする政府の職員だ。

 Tier2以上のダンジョンでは階層を下るポイントに検問のような形で彼らが待ち構えている。


 探索者の中には強い人とパーティを組んで進んできた結果、実力が足りていないのに危険な階層へと足を踏み入れてしまう人も居る。

 その階層に入ってしまえば次の探索からは該当の階層から進むことができる。


 つまりやろうと思えばソロでも潜れてしまうので、レベルがあまりにも足りていない場合はここでダンジョン外に強制的に帰還させられることもあり得るのである。

 まだ整備が行き届いていない時代に、多くの探索者が身の程知らずの階層に挑み、亡くなったことで出来た関所。


 だが、今回は問題ないだろう。


「ど、どうぞ……」


 おずおずと端末を取り出した望月ちゃんから丁寧に受け取り、職員は彼女のレベルを確認する。


「失礼します……高いレベルですね。ソロで攻略するだけあって大丈夫だとは思っていましたが、問題はないようですね」


 端末を返してもらえば、無事に許可が出た。

 やり取りを見守っていたもう一人の職員も異論はないようで、うんうんと頷いていた。


「そうですね……それにしても、テイムモンスターが2体ですか」


「…………」


 職員の言葉にピクリと望月ちゃんが反応するのが見えた。

 テイマーが使役できるモンスターは1体まで。


 けれど望月ちゃんの近くには俺と竜乃の二体が居る。

 政府の職員は俺と竜乃を見て、ニッコリと微笑んだ。


「特別なスキルをお持ちなんですね。羨ましいです」


「これからもその力をダンジョンで遺憾なく発揮してください。

 あ、もちろん探索は十分お気をつけて。それでは中層へ行ってらっしゃいませ」


 深々とお辞儀をする政府の職員たち。

 彼らからすればダンジョンを攻略して、利益を生み出してくれる探索者はありがたい存在だ。


 そんな中でも特別な力を持っている(と誤解された)望月ちゃんへの評価は高いだろう。


「虎太郎君と……特別……」


 うわごとのようにそう呟いた望月ちゃんは、はっとした表情になり、頭を下げる。

 道を開けた二人の職員の間を通り抜けて、俺達は階段へと足を踏み入れる。


 あっさりと階段を降りきってしまえば、そこはもうダンジョンの中層だ。

 ピコンッと音が鳴ったので見てみれば、望月ちゃんの端末が光っていた。


 これで次回の探索ではこの場所から探索が開始できる。

 これからは中層の探索者となるのだ。


「……ふぅ。竜乃ちゃん、虎太郎君、お疲れ様。

 それじゃあ少し休んで今日は終わりにしようか」


 探索者用のテントを展開しながら、望月ちゃんはねぎらいの言葉を俺達にかけてくれる。

 いつも通り何の問題もなく展開したテントに、俺達は足を踏み入れた。


 今まで何度も休んだテントの中。

 けれど今日は見え方が少し違っている気がした。


 それはおそらく望月ちゃんや竜乃も同じだろう。

 誰からというわけでもなく、俺達は床へと座り込んだ。


 望月ちゃんはお淑やかに正座。

 俺は伏せ、竜乃も羽を休める姿勢だ。


「まずは二人ともお疲れ様。色々危ない場面もあったけど、勝てたのは竜乃ちゃんと虎太郎君のお陰だよ」


 ニッコリと微笑む望月ちゃんに目を合わせる。

 そうしないと、どうしても視線が下を向いてしまいそうになるからだ。


 望月ちゃん、テイマーだしあんま動かないから、ひざくらいのスカートは別にいいと思うんだ。

 でもテイムモンスターの前で少しガードが緩いと思います。


「私や二人に使えるようなアイテムはドロップしなかったのが少し残念かな。

 うん、でも勝てて良かった。中層もよろしくね」


『ああ!』


『ええ!』


「あ、そうだ! 二人のために少し高いご飯を買っておいたの!

 気に入ってくれるといいんだけど……用意するからちょっと待っててね」


 なんと、望月ちゃんは俺達のために勝利のご褒美を用意してくれていたらしい。

 これは楽しみだ。


 テントの奥へと向かう望月ちゃんの背中を見ていると、ちょいちょいと体を触られた。


『お疲れさま。かっこ良かったわよ』


『……どうも』


 面と向かって褒められると照れ臭いものがあるのは探索者の時から変わらない。

 けれど嬉しいことに変わりはないので正直に受け取ると、竜乃は望月ちゃんの方を見た。


『本当、虎太郎が居てくれて助かった。理奈のミスをカバーしてくれて、本当にありがとう』


『助け合うのがパーティだからな。いや、俺らはパーティじゃないけどさ』


『そうね。これからも頼りにしてるわ……頼り過ぎにならないように』


 竜乃が最後に何かを呟いたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。

 聴覚が発達した今の俺でも聞き取れないので、本当に聞かれたくない発言だったのだろう。


 そう思い、俺は気にしないことにした。


「おまたせ!」


 準備を終えて戻ってきた望月ちゃん。

 彼女が持っていた皿からは、今まで嗅いだことのない食欲をそそる香り。


 ゆっくりとそこに口をつければ、痺れるような電流が体に走った気がした。

 ほっぺたが落ちるとは、こういうことを言うのか。


(うま! まじうまっ! モンスターになって良かったと思うくらいには、うまい!)


 口が止まらない。

 体を走る美味という感覚に、熱すら感じ始めた。


 興奮しているのか、体が熱くなっている。

 視界の隅で、望月ちゃんと俺を結ぶ白い線が光り輝いている。


「こ、虎太郎君……」


 望月ちゃんに声を掛けられて、俺は顔を上げる。

 それと同時に、気づいた。


 体を満たす熱が、進化の時の熱であると。

 俺の体が、少しずつ大きくなっていく。


(え!? なんでこのタイミング!?)


 まさか美味しいご飯を食べるだけで進化するとは思っていなかったので、驚き動きが止まってしまう。

 だが、そんな気持ちはすぐに消えてなくなってしまった。


『虎太郎……あんた……』


「こ、虎太郎君が……」


『「黒くなっちゃった(てる)!」』


 真っ白だった体毛が、真っ黒に染まってしまった。

 そう、まるですべてが変わったあの日に対峙した化け物のように。


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