第24話 一方で配信は伸び悩んでいるようです
あれから少し時間が経ち、今はお昼くらいだろうか。
俺達はまだ探索者用のテントに居た。
今俺と竜乃は望月ちゃんに貰ったテイムモンスター用のフードを食べている。
テイムモンスターは餌をあげなくても死なないのだが、関係を良くするためにもフードの使用はテイマー達に推奨されていた。
テイムモンスターを愛する望月ちゃんがそれをしないわけがなく、貰うのもこれが初めてではない。
探索者だった頃はドッグフードみたいだなと思っていたのだが。
これ、滅茶苦茶旨いのである。
見た目はドッグフードなのに、味は高級料亭の料理みたいだ。
そんなの食べたことないけど、まあ要はそのくらい美味しいということ。
例えこれをくれなくても望月ちゃんへの好感度はMAXだが、くれたものはありがたく頂くのだ。
『ねえ、虎太郎。今回のボス戦、勝てると思う?』
ふと、隣でドラゴン用のフードを食べていた竜乃が聞いてきた。
彼女の視線は椅子に座って端末と睨めっこしている望月ちゃんに向いている。
『……勝てると思うけど、なんで?』
今も望月ちゃんは最終確認として、アーマー・ベアの知らない攻撃がないかを動画で探している。
すでに俺達にボスの攻撃手段は説明したし、望月ちゃんの頭に入っているのは疑うまでもない。
望月ちゃん、竜乃の両名のステータス的にも問題はない。
二人だけで挑むなら厳しいが、俺が居るなら負ける可能性はほぼ0だと考えている。
もちろん探索に絶対などはないが、敗北する理由は思い当たらなかった。
(それこそ……上層のボスが何らかの拍子に変わるとかじゃない限りは……)
ふと思い出したのは隠し部屋でのモンスターハウス。
あそこでのダンジョンの挙動は少しおかしかった。
さらに登場したスールズの群れなど、イレギュラー要素が多すぎた。
あれと同じようなことがもし起こってしまったら。
(例えば……このダンジョンの下層ボスが上層ボスの部屋で出現したら、今の俺達では絶対に勝て――)
『理奈がね、昨日言ってたのよ。上層ボスに挑むときに、配信に載せられたらなって』
俺の考えは、竜乃の言葉で止められる。
もしもの可能性を考えるよりも、目の前の起こっている問題の方が重要だ。
『望月ちゃんが?』
望月ちゃんが配信を始めてから、2週間程度が経っていると思われる。
けれど未だに人気に火はついていないようだ。
毎日俺との探索が終わった後に竜乃と二人で行っているらしいが、竜乃からは良い話を聞いたことがなかった。
(ボス配信か……)
配信者にとってボスを討伐する配信というのは人気が出やすい。
それこそあの女のような有名ダンチューバーならば、ボス討伐の動画だけでかなりの再生数を稼ぎ、切り抜きという見せ場を抽出した動画も有志によって多く作られるだろう。
だが、話を聞く限りだと望月ちゃんは見てくれる人がまだまだ少ない段階。
ボス討伐配信をしたとしても、効果が出るかは怪しいところだ。
(まぁ、でも。やりたいとも思うよなぁ)
だがそれでも、やりたいという気持ちは理解できた。
そのボス配信という道を俺が妨げてしまったのも、申し訳なく思う。
『今回もこれまでと同じ。理奈はちゃんと調べて、しっかりと準備をしてくれている。
でも自分の配信っていう不安要素があるのも事実。
だからちょっと心配なのよ。もちろん、理奈自身の配信が普段の探索に影響を与えていないのは分かってはいるんだけどね』
竜乃の言葉に納得する。竜乃は不安なのだろう。
探索者の精神的な不安定は、探索の結果に影響する。
それは上位の探索者であっても同じだ。
俺のパーティでは無かったが、交流のあるパーティではメンバーの精神的不調を考慮して、探索そのものを延期したこともあったという。
けれどそれは意思疎通ができるパーティだからこその話。
望月ちゃんと会話が出来ない竜乃と俺は別の事が出来るはずだ。
『例え望月ちゃんが不安定でも、俺とお前でアーマー・ベアを倒せばいいのさ。
できるだろ、お姉さん?』
得意げな顔をして笑って見せると、竜乃は驚いたように目を見開いた。
『……言うじゃない。できるわよ。虎太郎こそ、理奈に夢中になって痛い一撃を貰わないでよね?』
『そんなへましないよ……多分』
『言い切りなさいよ……』
呆れて溜息を吐く竜乃に、小さく笑って返す。
彼女から視線を外して望月ちゃんに目線を戻せば、まだ真剣に端末と向き合っていた。
今回のボス挑戦に関しては、余程の事がなければ問題なく勝利できるだろう。
だから話は、その後だ。
(中層に行って……それでも望月ちゃんの配信が上手くいかない場合は……)
一度カメラドローンを壊してしまった負い目はある。
それに望月ちゃんも俺を配信に出そうとはしないだろう。
それでもしっかりと態度で説得すれば、あるいは。
(まぁ、俺が配信に参加して人気に火が付けばいいんだけど……)
見ているだけの俺だが、配信がそんな簡単ではないのではないかと思う。
けれど新しい風が吹かせられるなら、それもいいかもしれない。
『いずれにせよ、上層ボスを倒してからだな』
『なんか言った?』
「よし、二人とも、そろそろ行こう」
竜乃に呟きを聞かれたところで、望月ちゃんが端末の電源を落として立ち上がった。
俺に聞いていた竜乃も、望月ちゃんの行動で準備をし始める。
彼女の中では、先ほどの俺の呟きはどこかへ行ってしまったのだろう。
時間的には昼過ぎといったところか。
今からボス部屋に向かい、上層ボスを討伐する。
竜乃お姉さんの不安を解消して、二人を喜ばせるとしよう。