表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

200/214

第200話 【望月配信】大切なお話

 配信名:大切なお話


 その日の望月の配信は、開始前から注目度が異常だった。

 これまでも配信をすれば多くの人が注目していた配信。


 しかし本日の配信は東京Tier1ダンジョン攻略直後であり、名実ともに望月が日本最強の探索者となったからである。


 なお、氷堂と望月達どちらが強いかは前々から論じられていることだが、そこに関してはやはり氷堂有利であることをここに記しておく。


 虎太郎と竜乃の描かれた蓋絵が外され、望月達が画面に現れる。

 彼女達が居るのは探索者用の簡易テントの中のようで、望月の横には虎太郎と竜乃が定位置についていた。


“モッチー!おめでとう!”

“本当におめでとう!”

“配信が急に切れたから心配してたけど、虎太郎の旦那も竜乃の姉御も元気そうでよかった”

“っていうか、また虎太郎の旦那デカくなった? マジで貫禄あるな”

“モッチー達なら大丈夫だと思ってたけど、やってくれたな!”

“ありがとう……本当に毎日ありがとう……”


 望月達の姿を確認した瞬間に、多数のコメントが流れる。

 内容は違えど、どれもこれも望月達を称賛していることに変わりはなかった。


「皆さんこんにちは。そして前回はごめんなさい。びっくりしましたよね、急に配信が落ちてしまって。でも深層ボスは無事に倒しました!」


 知っている人からすれば、彼女は無理に元気にふるまっていると気づいただろう。

 だが実際に会ったことのない視聴者達は、それには気づかなかった。


“ほんとほんと、びっくりしたけど勝てて良かったー”

“急に落ちるから、モッチー達やられたかと心配で仕方なかったぜ”

“でも最後まで見れなかったのは残念かな。あの後もなんか強いモンスター出てきたの?”

“最後に倒したのはどんなモンスターだった?”


「あー、最後のは下層で出てきた幻想の起源でしたね。

 数が多いのに一体一体が硬くて、時間かかっちゃいました」


 えへへと苦笑いする望月に、「そりゃあそうか」という旨のコメントが多く流れる。

 無限に増殖するボスが深層ボスと同じだけのステータスを持ったら、恐ろしいことになるだろう。


 彼らが納得するのは、当然の事だった。

 それが望月が事前に用意した嘘だということに気づけた視聴者など、ほとんどいなかった。


 望月はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように息を吐いて配信ドローンを見つめる。

 とても強い意志を宿した双眸が、配信越しに全ての視聴者を見つめた。


「もったいぶるのもなんですし、今回話したい大切なお話をしますね。

 私達は、今回の探索を最後として探索者を引退します。もうこれから先Tier1ダンジョンに入ることはありません。探索配信も、しません」


 その言葉は、爆弾だった。

 望月が今後について話終わった時には、怒涛の勢いでコメントが流れていた。


“えぇ!? な、なんで!?”

“いや、いやいやいや、なんでだよ?”

“え? 俺らなんかしちゃった?”

“な、なんか理由があるんか? もちろん配信はモッチーの自由だけど、せめて理由くらい……”

“辞めないでくれよ、モッチー!”

“お前今日本一なんだぞ! ここで辞めるの勿体ないって!”


 彼女を想う多数のリスナーたちが、望月を引き留めようとしている。

 そんなコメント欄を見て、望月は静かに語り始めた。


「これに関してはもう決めたことなんです。理由についてですが、私が弱いのが全ての原因です。これから説明します。このまま探索者として活動を続けると起こる、最悪の展開を」


 望月が話したのは、まずは深層ボス撃破後の事。

 虎太郎が急激に成長し、今にもテイムの絆が切れそうな事を懇切丁寧に説明した。


 そしてテイムの絆が切れた場合に起こりうる最悪の未来を、リースが教えてくれたとして説明した。


 これには望月の引退を引き留めようとしていた視聴者達も強くは出れなかった。

 世界一位が警告していること、そして何より虎太郎がテイムから外れるということは、彼を失うということである。


“虎太郎の旦那が……敵……? そんなもん、Tier0が1体増えるようなもんじゃねえか”

“さすがにやべえし、それ以上に虎太郎の旦那と誰かが戦うとか嫌だな……”

“なによりも、このままじゃ最悪モッチーは虎太郎の旦那を失うってことか”

“……そりゃあ、探索を辞めるっていう結論に至るわな”

“モッチーの中では虎太郎の旦那と竜乃の姉御が一番だろ。そりゃあ探索を辞めるって結論になるか”

“うー、配信見られないのは嫌だけど、配信した結果虎太郎の旦那が消えるのはもっと嫌だなぁ”


 望月の配信を見ている視聴者達は、望月が何を大事にしているのかを知っている。

 だからこそ彼女が大切にしてきたものを、視聴者達も好きになったのだ。


 その熱意は、愛情は、とても熱く、温かいものだったから。

 視聴者達の間には、望月が探索を辞めるということに関して反対意見はほとんど出なくなっていた。


 これからの配信と、望月にとって命よりも大切と言っていい虎太郎。

 それで望月がどっちを取るかなんて、長く見ている視聴者なら分かり切っていることだ。


「ここまで支えてくださった皆さんには申し訳ありませんが、これに関しては変えるつもりはありません。ただ、責めるなら虎太郎君ではなく私を責めてください。

 彼は何も悪くありません。弱い私が、悪い――」


『Guruuuuuu!』


 望月の言葉を遮り、虎太郎が唸り声を上げる。

 飼い主を強く睨みつけ、糾弾するような鳴き声。それを見て、彼が望月の意見を否定している気がした。


 同時に、「責めるなら俺を責めろ」と言っているようにも。


“俺は責めないよ。ここまでモッチー達は俺達に色々なものをくれたからな”

“俺も。なんか言う人は居るかもしれないけど、気にすることないと思う”

“せやせや、モッチー達が決めたことなら文句はないで”

“むしろこれで文句言う奴はにわかだろ”

“まあ、モッチーからすれば虎太郎の旦那とその他の間には天と地ほどの差があるからなぁ”

“でも、配信はまったくしなくなるん?”


「あ、いえ、本当に時々のタイミングで竜乃ちゃんや虎太郎君とゆっくりしている様子や、ちょっとしたお話をする配信はしようと思いますよ。

 これまでみたいに、最前線でガンガン探索する、というわけではない感じですね」


 思い出したように望月が今後の予定を説明すると、視聴者達は安心してコメントを書き込んでいく。


“ええやんええやん。スローライフってやつ?”

“これまで探索探索で大変だったからなぁ。そういうのもいいかも”

“むしろそっちの方が虎太郎の旦那や竜乃の姉御の事知れていいかもね”

“これからもモッチー達には会えるんか。それはそれでよかったわ”

“良かったわ。ちなみに政府としてはどうするんやろ?”

“ミヤ:私は引き続き望月さんの専属職員ですし、支援も引き続きしますよ。

 ただ引退者用のものになるので、これまでと全く同じとはいきませんが”

“流石政府。基本クソだが、優秀な探索者に対してだけは仕事が出来る”

“まあ、神宮さんが優秀なだけかもしれんが”

“ミヤ:望月さんはこれまでの活躍がありますし、引退されたとしても全力で支援する所存です”

“うーん、これは優秀”


「そんなわけで、たまにですが配信はすると思います。

 これまでとはかなり変わると思いますが、もしよろしければ見に来てください」


『Gyao!』


『Hooo!』


 望月と共に、虎太郎と竜乃が鳴き声を上げる。

 その姿は、「見に来てくれよな」と言ってくれているようで。


“虎太郎の旦那と竜乃の姉御、息ぴったりで草”

“練習したのかな?”

“普通に見に行くわ! これからもよろしく!”

“楽しみにしてるわ!”


 そんなコメント達が、目にも止まらぬスピードで流れていく。


「それでは少し早いですが、今日はこの辺で。

 次に配信するときはSNSで告知しますね。

 あ……皆さん、今まで本当にありがとうございました。これからも良ければ、よろしくお願いします」


“おつかれ!これからもよろ!”

“本当にお疲れ!ゆっくり休んでね! もちろん次回の配信も見るよ!”

“ゆっくり寝るんや! 次回も楽しみにしてるで!”

“ノシ”

“これまでありがとう!これからもモッチー達は自分の推しです!”

“ずっと応援しています!頑張ってください!”


 望月が配信ドローンを弄り、配信を停止させる。

 こうして、望月のチャンネルの中でもっとも再生数を誇る動画配信は、終了した。

こんにちは紗沙です。

200話も越え、さらに作品が終わりそうな勢いの回でしたが、この後に1話だけ掲示板回を挟んだ後に最終章となります。

完結まではあと少しですので、良ければ最後までお付き合いくださると幸いです。


これであとがき終了も味気ないので、語られていない設定を一つだけ。

望月ちゃんは虎太郎と竜乃を同時に呼ぶ際に、基本的に「竜乃ちゃん、虎太郎君」と竜乃から先に呼びます。

(他の登場人物は基本的に虎太郎が先)


これは一緒にいる時間が長いのは竜乃の方だからという理由です。

ただ望月ちゃんとしては竜乃も虎太郎もどちらも同じくらい好きで大切なので、意識していない、無意識での言葉の順番となっています。

彼女自身、この順番で呼んでいることには気づいていません。癖のようなものです。


それでは次回以降もお楽しみに。


紗沙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ