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第20話 望月ちゃんは、俺が護る!

「こんばんは、竜乃ちゃん、虎太郎君」


 心地よい眠りから目を覚ませば、目の前には敬愛する望月ちゃんの姿。

 横では竜乃が翼を羽ばたかせている音が生じている。


 今日は俺と望月ちゃん達が一緒に戦う記念すべき一日目だ。

 俺が頼りになるところを望月ちゃんと竜乃に見せれるように頑張らなくては。


「昨日もお話ししたけど、おさらいするね。

 私達はまずはこの上層でモンスターを倒して、強くなりたい。

 虎太郎君からするとちょっと退屈かもしれないけど、強くなったら上層のボスも倒したいから、それまで力を貸してくれたら嬉しいな」


『任せておけ!』


 ガウッ、と一回軽く吠える。

 上層のモンスターならば余裕だが、ボスとはこの体ではまだ戦ったことがない。


 勝つことはできると思うが、念のために望月ちゃんのレベルを上げた方が良いだろう。

 彼女と竜乃を危険に晒すわけにはいかないからな。


「ありがとう。それで戦いについてなんだけど、私達は竜乃ちゃんに前衛を、そして私が後ろから援護をする形で戦っているの。

 虎太郎君は竜乃ちゃんと一緒に戦ってほしいんだけど、大丈夫かな?

 あ、もちろん危険だったり敵が多い場合は撤退するよ!」


『ふむ……』


 望月ちゃん達が二人でどのように戦ってきたのかは予想していた。

 そしてそこに俺が合流する場合にどうなるかも。


『…………』


 けれど俺は首を横に振る。

 遠くから見ている限り、今の俺達にとってもっとも良い陣形は、こうだ。


「え、い、嫌なのかな?」


 戸惑う望月ちゃんにもう一度首を横に振って、俺は少しだけ駆けて前に出る。

 その場所を自分の場所のように右前脚で地面を叩いた後、首だけを振り向いた。


『俺が前衛をやる』


 視線を望月ちゃんに向けた後に竜乃に向ければ、竜乃はあんぐりと口を開けた。


『……虎太郎、大丈夫なの? 君、そんなに自信があるの?』


『任せておけ。だから竜乃は中衛を頼む』


 心配そうに声をかけた竜乃の気持ちも分かるが、これが俺達の最適解。

 俺が前衛で敵を食い止め、薙ぎ払い、中衛の竜乃が援護射撃、そして後衛の望月ちゃんがフォローだ。


 これは俺が元居たパーティでも同じことだ。

 俺達戦士が前衛を張り、テイマーには後衛を任せていた。


 この組み合わせの効果は、過去の沢山の冒険者たちが証明してくれている。


 竜乃は少し考えるそぶりをした後に、仕方ないと息を吐いて俺と望月ちゃんの間に移動した。

 俺の突然の行動に戸惑っていた望月ちゃんも、竜乃の行動でようやく理解したようだ。


「……虎太郎君が、前衛で頑張ってくれるの?」


『あぁ!』


 ガウッ! と強く吠えて頷くと、望月ちゃんも両の手を握り締めて頷き返してくれた。


「うん、私と竜乃ちゃんで精いっぱいフォローするね!」


『お姉さんに任せておきなさい』


 二人の反応に十分すぎるやる気を見て、俺は前を向く。

 上層を制圧して、ボスを倒すという目的を果たすとしよう。


 通路を進み、入口から少しでも離れて奥へと入るために角を左に曲がる。


「こ、虎太郎君!? そっちはまだ行ってないから、危ないかもしれな――」


 そう制止してきた望月ちゃんに首だけ振り向いて目を合わせる。

 すると彼女は言葉を途中で止めて、俺をじっと見つめてきた。


(大丈夫。行けるよ)


「……もう、危険になったらすぐにここに戻ってくるからね」


 俺の心の声など届くわけもないのに、なぜか望月ちゃんは俺の言いたいことが分かったようだ。




 ×××




 以前までの望月ちゃんは上層の入り口近くまでしか移動していなかった。

 しかし今回は少し先に進んでいる。


 ルートは違うものの、やっていることは昨日の浅倉に近い。

 あれほど猪突猛進ではないものの、ダンジョンの上層の奥に進めばどうなるか。


 俺達の前には、3匹のキリング・スパイダーが歯をカチカチと鳴らして威嚇していた。


「前までは1体がやっとだったけど、今は虎太郎君も居るし、やろう!」


『本当に大丈夫なの? 虎太郎、辛かったらすぐ言いなさいよ』


 浅倉とパーティを組む前は1体のキリング・スパイダーを倒すのがやっとだった。

 けれど望月ちゃんはモンスターハウスでの俺の強さを見ているためにやる気十分だ。


 気絶していた竜乃は俺の強さを知らないので心配そうな様子だが、この戦いが終わる頃には気持ちも変わっているだろう。


 俺は前に出て敵の注意を引き付ける。

 それと同時に、体の奥底から力が溢れてくるのを感じた。


「テイマーの魔法で強化できる……やっぱり虎太郎君とはテイムの関係なんだ」


 後ろで発せられた望月ちゃんの驚いた声を拾う。

 これまでの事を整理するに、望月ちゃんと俺はテイムの関係にある。


 ただし望月ちゃんの端末には俺の情報は提示されず、テイムの関係にもない。

 完全にイレギュラーな関係だが、関係がある以上どうでもいいことだ。


(テイムされてようがされてなかろうが、望月ちゃん達を助けることに変わりはないからな)


 相手はキリング・スパイダー3体。

 正直一昨日までの俺でも余裕の相手だが、望月ちゃんと関係を持った今の俺ならどうか。


 1匹の蜘蛛が、俺に毒針を飛ばしてきた。


「虎太郎君!」


 焦る望月ちゃんの声。

 けれど針はまっすぐに俺に向かい、そして。


 俺の体に弾かれて地面に落ちた。


「……この、よくもっ! 竜乃ちゃんもお願い!」


『黒焦げにしてあげる!』


 痛くも痒くもないのだが、どうやら望月ちゃんと竜乃には地面に針が落ちるところまでは見えなかったようだ。

 彼女達は俺が攻撃されてダメージを負ったと思ったらしく、苛烈な攻撃を仕掛ける。


 望月ちゃんは魔法で、竜乃は火のブレスで。

 二人の攻撃は素晴らしいコンビネーションで同じ1匹の蜘蛛を狙い、それを焼き殺した。


(おぉ、いいね。竜乃が中衛になったから攻撃に専念できるようになって、攻撃力が上がったな)


 遠くから見ているときも、竜乃の覚えているスキルは遠距離系のものが多かった。

 今の位置こそ彼女が輝ける位置。


 俺が前衛になることで、望月ちゃんの総合的な火力はおおよそ倍になったといえるだろう。

 以前でも1匹を何とか倒せるくらいには火力があったので、約2倍ならば倒しきるのは容易だ。


(それにしても……)


「竜乃ちゃん、次いくよ!」


『えぇ!』


 すぐさま次の蜘蛛に狙いを定める望月ちゃん達の声を聞きながら俺は思う。

 流石に一昨日までの俺ならばキリング・スパイダーの攻撃に対して無傷とは行かなかったはずだ。


 昨日のユニークスールズの群れの討伐に、望月ちゃんとのテイム契約。

 それらにより、格段に強くなったという事だろう。


(おっと)


 蜘蛛の糸が俺の左前脚に巻き付いた。

 動きを阻害する目的らしいが、力をまるで感じない。


 視線を向けてみれば、蜘蛛は一生懸命糸を引っ張っているようだが、ビクともしないので焦っているようにも見えた。


(ふむ)


 ちょいっと前足を引いてみれば、糸に引かれた蜘蛛は体勢を崩して転ぶ。

 その体に望月ちゃんの魔法と竜乃のブレスが襲来し、焼き尽くした。


 なんか、格下を嬲っているみたいだな、これ。

 そう思い、苦笑いした瞬間。


 最後に残った蜘蛛が竜乃を見ていることに気づいた。

 おそらく俺相手では攻撃が効かないとようやく判断したのだろう。


 それならば俺以外を、という事らしいが。


(それはダメだ)


 地面を蹴り、蜘蛛に接近。

 前足を勢いよく振るって、爪で蜘蛛を引っ掻いた。


 強さの差がありすぎるため、たった一回の攻撃で蜘蛛のHPは0になる。

 こうして俺達は初戦を完全勝利で飾ったのだ。


「虎太郎君! 大丈夫!?」


 戦闘終了と同時に慌てた様子で望月ちゃんが駆けてくる。


「キリング・スパイダーの針には毒があるの! すぐに毒消しを……」


(勉強熱心だな。きちんと挑むダンジョンのモンスター情報もしっかりと覚えている)


 望月ちゃんはおそらく学生だと思うが、その割にはしっかりとしている。

 昨日の隠し部屋のようなイレギュラーはともかく、ダンジョンに挑むのに必要な基本的な情報はきちんと勉強して習得しているようだ。


 ソロで挑むにあたり、ダンジョンを出た後も探索者勉強に精を出しているのだろう。

 そんな彼女は俺の体を様々な角度から見て、体のどこにも怪我がなく、毒を受けていない事にも気づいたようだ。


「あれ? どこにも傷がない……毒も受けてないし……す、すごいよ虎太郎君! すっごく強いんだね! 

 あ、でももし辛かったり、体が変だったらすぐ言うんだよ!」


『あぁ!』


 いつものようにガウッ、と吠える。


『虎太郎……あんためちゃくちゃ強いのね。ありがとう、お姉さんも全力を出せたわ』


『ど、どういたしまして……』


 竜乃の言葉に少し恥ずかしくなってしまう。

 人に感謝されたことはあるのだが、最近はほとんどなくなっていた。


 むず痒い気持ちに、つい視線を外してしまう。


『ふふっ……可愛いところあるじゃない』


『……うるさいぞ』


 揶揄われていることに文句を言いつつも、それが心地悪いとは感じていなかった。


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