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第194話 混ざる

体を流れる電流を見て、その正体に気づく。


(黒……雷……か)


 俺の体の元になったのはこの化け物だ。

 それなら当然、俺が使える必殺技の黒雷だって使える筈。


 さっき俺が化け物に仕掛けようとした瞬間に、上から黒雷が落ちて飲み込まれたのだろう。

 倒れるまで気づかなかったのは、威力が桁違いだったからか。


(俺が正面からって……気づいたのか……? それとも自動で?)


 問いかけには何の意味もない。

 俺は体をもう動かせない。さっきの黒雷で、体力のほとんどが持っていかれた。


 戦えないのは、目に見えている。


(ここで……終わりかよ……)


 それは認められない。俺が負ければ次は望月ちゃんだ。

 絶対にさせない。


 視界に、真っ黒な脚が映る。

 それだけではない。その脚は俺を無視して、背後へと流れていく。


 瀕死の筈の俺を無視して、背後へと化け物が動いていく。


(ふざけっ!)


 全身に命令を発する。動けと。

 けれど体のどこも動かない。


 まるで導線が通っていないかのように、どれだけ命令しても動かない。


(ふざけんな! 動けよ! 望月ちゃんの回復魔法だって受けてるだろ!?

 お前はあの化け物と同じ体なんだろ!? だったら黒雷の一発くらいで止まるな!

 動け! 動け!)


 必死に頭で命令を発して、発して発して発して。

 発し続けて。


 脚が、動いた。


(行け! 行け! 動き続けろ! 動け!)


 ようやく痺れが取れ始めて、体が自由になり始める。

 けれど少しでも動かせば激痛は流れる。それらを気合で無視しながら、体を動かす。


 四肢に力を入れ、折り曲げれば関節からも激痛が走る。

 体全体を持ち上げるように四つの手足に力を込めれば、うめき声が出そうになる。


『ふぅー! ふぅー! ふぅー!』


 荒い息を繰り返し、それでも決して悲鳴は出すものかと唇を強く噛みしめる。

 口内に血の味が広がる。


 立ち上がる。手足を伸ばし、体中を駆け巡る痛みを気合のみでねじ伏せ。

 そして。


(うおおおおぉぉぉぉぉおお! ああああああぁぁぁぁぁ!!)


 言葉にもならない叫び声を内心で高らかに上げ、俺は駆けだす。

 振り返り、化け物の背中を捉える。


 痛み、無視。

 疲れ、無視。

 絶望、無視。


 全てに無視の結論を下して跳びかかる。

 なんとしても、化け物を止めるために。


 奴の背中はがら空き、悠々と歩く姿は背後など全く警戒していない。

 なのに。なのに。


 なのにどうして、奴の尻尾が不意に消えるのか。

 どうして決して逃さないと心に誓っていた奴の姿が視界にないのか。


 そしてどうして、俺は宙を舞っているのか。


 その答えは体に衝撃が走り、激痛を越え、声にならない悲鳴が体の中で木霊した瞬間に気づかされた。


(尻尾での……攻撃……)


 地面に倒れ伏しながら、俺は失敗したことを知る。

 届かなかったことを。気づかれていたことを。叶わないことを。どうしようもないことを――


(うるせえ!)


 頭の中で恫喝し、まだ俺は手足に力を入れる。

 動かない。先ほどのように導線が通っていないのではなく、まるで壊れたかのように。


(動け! まだ、まだだ! まだ――ぐぁあああああああ!)


 全身を貫くような痛みが走り、内心で苦痛に呻く。

 声を出さなかったことを褒めて欲しいくらいだ。


(くそ……くそぉ……)


 目を動かせば、視界に黒が映る。

 俺の体を足で踏みつけ、爪を突き立てる化け物の姿が。


 俺を、処分しに来たということか。

 だが、それでいい。


『た……つ……のぉ!』


 最後の力を振り絞って叫ぶと同時に、タイミングを見計らう。

 すぐに紫のブレスが飛来し、化け物の体に着火する。


 先の戦いのスールズのように、体に紫の炎が灯るのを目にして。

 持てる全ての力を使って、口から黒雷を発動した。


 超至近距離での黒雷と竜乃の紫のブレスで、火だるまになる化け物が完成する。

 スールズを燃やし尽くして灰にした攻撃。


(がああああ!)


 けれど化け物は苦悶の声など漏らすはずもなく、俺を踏みつける脚に力を入れてきた。

 内臓が潰されるような感覚に黒雷を発動するのも中断し、内心で叫びをあげる。


 もう体に余裕などない。ついさっきから痛覚器官はイカレているし、喉に関しても同様だ。

 あまりにも激痛が走ると人は声を発せられないというが、それは獣でも同じらしい。


(くそ……くそ……く……そ……)


 地面に頭を投げ出し、横倒れの姿勢になって俺は悔しさに歯を噛みしめる。


(通用しない……俺の攻撃も……竜乃の攻撃も……なにもかも……くっそぉ……)


 どんな策を弄しても、どんな連携を考えても、どんな手段を思いついても。

 その尽くを踏みつぶす、嵐のごとき暴力。


(もう……どこも動かねえや……)


 さっきまで望月ちゃんのくれる支援魔法であんなにも暖かかったのに、今はとても寒い。

 その中で感じられる、腹から流れる血の感触がとても嫌だった。


(あぁ……死ぬ……)


 死が、近づいてくる。


(やだ……なぁ……俺が、作り出したもので……死――)


 目を見開く。頭が、最後だと言わんばかりに回る。


 そうだ。ここのテーマは「俺」達の感じた恐怖。

 だからここで俺が死ぬのは、俺自身に殺されたようなことだ。


(……なら、その先は?)


 問いかけるのは俺が死んだ後の事。

 この化け物は竜乃も望月ちゃんも殺すだろう。


(そうなればどうなる? 竜乃を、望月ちゃんを殺したのは、「俺」ということ)


 ――目だけを動かして、化け物の顔を見る


(「俺」が生み出した「俺」の姿をした「俺」の恐怖に、最愛の人たちが手にかけられる)


 ――何の感情も映さない奴の瞳は、俺の事なんて見ていないみたいだった


(「俺」が、望月ちゃんを、殺す)


 ――こいつの中には、俺はどこにも居ないみたいだ


(ああ)


 ――ああ












『気にクワナイナ』


 オレの内部で、懐かしい熱が、強烈なほどの熱が発せられるのを感じた。


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