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第181話 異次元ビーチバレー

 青い空、綺麗な海、そして真っ白な砂浜。

 そんなリゾートビーチには、水着姿の美女達が集まっている。


 とても目の保養になる、素晴らしい光景だと思ったことだろう。

 俺もそうなると思っていた。


「行くよ!竜乃!」


『来なさい!!』


 探索者の身体能力を生かし、高く跳びあがった優梨愛さんは特別製のボールを全力でキック。

 轟音を立て、そして風を纏いながらボールは斜め下に射出される。


 それを受け止めたのは竜乃で、彼女は彼女できりもみ回転しながら自ら風となり、ボールを風で包んだかと思いきや、翼を素早く広げてそれを反対側に撃ち落とした。


 ネットを越えて、相手の陣地へと急速落下するボールを見ながら、俺は遠くを見る目をしていた。


 今彼女達がやっているのは、ビーチバレーである。

 体を動かす以上、彼女達はパーカーを脱ぎ、色とりどりの水着や日本中の女性が羨む姿を太陽の下に晒している。


 けれど、彼女達は上位探索者でここはダンジョン。

 そんな超人たちが行うビーチバレーは、もはやモンスターと戦うかのようなボールの応酬だ。


「優梨愛!」


 愛花さんが、攻撃力のない棒を振るうことで特別製のダンジョン産ビーチボールを弾く。

 その時の衝撃と舞う砂ぼこりで、正直愛花さんの姿に見惚れている場合ではない。


 本気で打ちあがったビーチボールは、もしも現実世界基準ならば破裂しているに違いない。

 それでも形を保っているあたり、ダンジョンは探索者にビーチバレーをして欲しいのだろうか。


(ネットもボールもダンジョンの物質で作ったらしいけど、マジで壊れないな)


 先ほど俺が参加したときもそうだったが、ボールはどれだけ力を入れても壊れず、ネットはどれだけボールが命中してもビクともしない。

 愛花さんや俺の全力でも壊れないので、破壊不可能オブジェクトというやつなのだろう。


 ちなみに、今現在ビーチバレーをしているのは響、竜乃、優梨愛さん、愛花さんの4人だ。

 響と竜乃が、優梨愛さんと愛花さんがそれぞれチームとなっている。


 ついさっきまで俺もそこに入っていたのだが、交代となった。


「いけー!負けるな―!響―!」


 ちなみにこのビーチバレーを提案したのは、ネットの近くで響をうるさく応援している音だ。

 最初の組み合わせは、俺と朝霧さん、そして優梨愛さんと竜乃だった。


 朝霧さんと何かで2人組を組むのは初めてだったものの、上手くいったとは思う。

 彼女は終始ガチガチだったために、優梨愛さんからの強烈な一撃を顏に受けていたのは大丈夫かと思ったが。


 俺は俺で、これはチャンスとばかりに竜乃を集中攻撃。

 先ほどのホテルの一室でのうっ憤を晴らすかのように、全力で打ち込んだ。


 まあ大人げないとは思うが、竜乃も竜乃で、全力で打ち返してきたのでお相子様だろう。

 なお、朝霧さんは顔にボールが激突した後、大笑いしていた音を般若のような顔で見つめていた。


 あ、あいつ死んだな、と思ったが、まあたまには痛い目を見た方が良いだろう。


「そこぉ!!」


『響さん!』


 愛花さんからの完璧な連携を受け取り、優梨愛さんは体を回転させた完璧な蹴りを放つ。

 最初はビーチバレーで足使うのって反則では?と思ったものの、もう慣れてしまった。


 そんな優梨愛さんの打ち出したボールは、先ほどよりもスピードと威力を増して響へと向かう。


「くっ!」


 弓が得物であるために、響は生身の状態だ。

 それでも身体強化の魔法を使い、レシーブの要領でボールを打ちあげようとした。


 流石は天才。けれど今回は条件と相手が悪かった。

 日本一の探索者パーティ、天元の華。そのリーダーとエースの連携の前に、ボールは見当違いの方向へ打ちあがった。


『くっ……流石に!』


 竜乃が追おうとしたが時すでに遅く、ビーチボールは大きな音を立てて砂浜にめり込んだ。

 響・竜乃チームの失点である。


「愛花さんと優梨愛さんの連携、凄いですね」


 俺の隣でそう声をあげたのは、試合を見ていた望月ちゃんだ。

 俺達はビーチバレーをしている場所から少し離れた場所にレジャーシートを引いて、パラソルを組み立てて、その下で休んでいる。


 俺と望月ちゃんの他にも、優さんはもちろんのこと、明さんや和香さんのような前衛でない人達も観戦組だ。

 その他に、先ほど交代した朝霧さんやまだ参加していない須王もいる。


 パラソルはいくつか立てられているが、全てを囲むように明さんのテイムモンスターによる結界が張られているので、ボールの被害を受けることはない。


「うーん、でもやっぱり竜乃ちゃんと虎太郎君の連携には負けるなぁ。

 個人的にはお姉ちゃんのほうが強いって言いたいところだけど……」


 唇を尖らせてそういうのは、隣に腰を下ろす優さんだ。

 彼女の言う通り、実はつい先ほどまで俺と竜乃、優梨愛さんと愛花さんという組み合わせで対戦していた。


 のだが、圧勝してしまったのだ。

 普段から連携をしている組み合わせという意味では俺達も愛花さん達も変わらないが、何といっても俺達はテイムモンスターである。


 声での意思疎通のみならず、どう言葉にしていいのか分からないけれど相棒が何をして欲しいのかを感じ取れる何かがあるのだ。

 それを活用した結果、俺達が分かれた時よりも試合結果は一方的なものになっていた。


 そのため俺と竜乃は一緒に組むことは禁止とされ、俺は仕方なく望月ちゃんの元へ戻ってきたのである。


(動物の勘って、すげえよな。あの組み合わせのときだけは負ける気がしなかったからなぁ……)


 本人である俺自身ですら、流石に反則だと思ったくらいだ。


「竜乃ちゃんと虎太郎君は可愛いしカッコいいし、お互いを想いあっていますから」


 えっへん、と胸を張る望月ちゃん。それに対して優さんも俺も内心で苦笑いだ。

 望月ちゃんや、表現がちょっとおかしくないかね……?


(まあでも、竜乃が楽しそうなのは良いことだけどな)


 視界の先で、笑顔でビーチバレーに興じる竜乃を見て、しみじみと思う。

 やはり竜乃にはあのような笑顔や何かをたくらむ顔の方が、らしいなと。


「はいそこまでー! 愛花さんと優梨愛さんチームの勝ち!」


 青空に舞ったビーチボールが、砂浜に突き刺さる音が聞こえると同時に音が叫ぶ。

 どうやら試合の決着がついたようだ。


「響ー……妹としては、もうちょっとお兄ちゃんのいいところを見たかったなぁ」


「無茶を言うな。あの二人相手に生身で結構善戦したと思うよ。

 竜乃ちゃんには申し訳ないけどさ」


『いえ、ナイスな試合だったわ響さん!』


 響を茶化す音を見ていると、前のパラソルの下で試合を見ていた朝霧さんがすくっと立ち上がった。

 そのまま音の元へと歩いていく。


(なんだろう……背中しか見えないけれど、めっちゃ怒ってる気がする……)


 ゴゴゴッ、という音が聞こえそうな重圧を放つ朝霧さんを見て目を見開きながら、入れ替わるように戻ってきたのは愛花さんだ。


 彼女は須王に一言かけると、須王は立ち上がってビーチバレーの方へと向かっていく。

 どうやら愛花さんも交代するようだ。


 遠くでは響と話す朝霧さん。

 これは朝霧さん・竜乃対優梨愛さん・須王だろうか。


(あまり見ない組み合わせだな……ん?)


 そう思っていると、戻ってきた愛花さんが俺達のパラソルまで来た。


「望月ちゃん、隣いい?」


「はい、どうぞ」


 望月ちゃんの右隣りには俺がいるが、左側は空いているので愛花さんはそちらへと座った。

 ちなみにそこを定位置としているのは、先ほどからビーチバレーではっちゃけている竜乃である。


「それじゃあ、真白ちゃん、竜乃ちゃん対須王先輩、優梨愛さんの試合、始め!」


 遠くでは、俺が思った通りの組み合わせで試合が始まった。

 それをじっと見ていた俺達。


 しかし、不意に愛花さんが口を開いた。


「ねえ望月ちゃん、ちょうど良い機会だから、Tier1の下層について話しておきたいんだけど、いい?」


「……? はい、大丈夫ですよ」


 俺達が既に超えた層に関する新しい情報が、もたらされようとしていた。


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