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第177話 人生初のリゾートダンジョン

 探索者として活動している期間も長いために、リゾートダンジョンについては知っていた。

 とはいえ、探索が第一という性格だったために訪れたことはない。


 エルピスの実力で考えれば、申請さえすれば使用できたとは思うが、リーダーである須王を始めとして、興味のないメンバーがほとんどだったからだ。

 唯一興味を持ちそうなのは音くらいだろうか。


 ただ、このタイミングで望月ちゃんがリゾートダンジョンを利用するのはアリだと思った。

 俺達はこれから深層のボスに挑むことになる。


 もちろん望月ちゃんのレベルが足りていないために、下層でのレベリングは必須だし、それは今もやっていることだ。


 けれどここのところはずっと探索続きだった。

 休むには良いタイミングだろう。


 そんな事を思ったのが前回で、今日もまた望月ちゃんに呼び出される。

 ゆっくりと目を開けば、そこは昨日まで居た東京Tier1ダンジョンの下層ではなかった。


「こんにちは虎太郎君、予想通りリゾートダンジョンに来たよ。

 本当にモンスターが居ないみたいだね」


 目の前の望月ちゃんに軽く吠えれば、すぐに彼女以外の人物にも視界に入る。

 かつてのパーティ、エルピスの面々、天元の華、そして優さん。


 遠くでは神宮さんの姿も確認できる。

 それに、数多くの政府職員の数も。


(こんだけダンジョンの中に人が集まっているのを見るのは壮観だな)


 ダンジョンには入場規制があるし、レベルが低い状態で難しいダンジョンに入ればすぐに命を落とす。

 そのためダンジョンの中で集まる人数と言えば4人か5人程度、多くても10人くらいだ。


 けれど今、このダンジョンには本当に多くの人がいるようだ。

 Tier4ダンジョンなので誰でも入れるし、モンスターもいない。


 まさにリゾート施設がダンジョンの中に移動してきたような、そんな感じだった。


「あー! 虎太郎の旦那だぁ! 本当にカッコいいなぁ……」


 そんな風に辺りを見渡していると、背後から声が上がる。

 体ごと振り返れば、ギャル風の伊藤優梨愛さんが目を輝かせて俺を見ていた。


「前に会った時よりも大きくなってる……すごい存在感……」


「ふふっ、優梨愛さん、虎太郎君の事大好きですよね」


「うんうんっ、やっぱりどうしても目が行っちゃうよね。

 それに黒い獣ってなんかカッコいいんだけどちょっと悪っぽくて痺れるよー。

 今日は招待してくれてありがとね、モッチー」


「いえいえ」


 親し気に会話をする優梨愛さんと望月ちゃん。

 優さんと愛花さん経由で知り合ったそうだが、以前から仲は良い。


 ちなみに二人の関係のかけ橋になった姉妹は、遠くで笑顔で談笑していた。


(それにしても……)


 そう思い、優梨愛さんを見る。

 失礼ではあるが、見れば見るほど雰囲気は音に似ている。


 意気投合しそうなものだが、と思って音を探せば、彼女は彼女で竜乃に釘付けになっていた。

 どうやら優梨愛さんが俺のファンで居てくれているように、音は竜乃のファンであるらしい。


 足を動かしはじめ、視線を動かす。

 現在、俺達はリゾートの施設に向かっている最中だ。


 共に歩く人達を見ていると、つい先日まで一緒にいた姿がないことに気づいた。


(あれ? 氷堂がいない?)


 望月ちゃんの事前の話では氷堂も参加するとのことだったのだが、彼女の姿は見えなかった。

 予定が合わなくなったのか、あるいは遅れてくるのか。


 そんなことを考えていると、道の向こうから駆けてくる人影が一つ。

 その姿を見て、俺は目を見開いた。


(あっ……今川さんだ)


 今川天音いまがわあまね。エルピスの専属職員の女性だ。

 当然探索者だった頃には面識がある。


 政府職員と聞くと神宮さんのような真面目な人が多い印象だが、今川さんはその対極に位置する。

 めんどくさがり屋で、テンションの高い、どちらかというと友人のような距離感の人。


 俺はどちらかと言うと苦手な部類だったのだが、音は彼女とは仲が良かった。

 須王としても、今川さんは最低限の仕事はしてくれるそうなので特に気にしてはいないようだったし。


 そんな今川さんは俺達の元に着くと、軽く息を整えた。


「今、毛利さんから連絡があって、30分ほど遅れるみたいです。

 とりあえず先に楽しんでいてくださいとのことでした」


「分かりました。ありがとうございます」


 すぐさま神宮さんが返事をする。

 どうやら俺の予想通り、氷堂は遅れるようだ。


 東京と京都では距離があるし、交通関係の都合かもしれない。

 けれど先に楽しんでいてくれというのだから、それを断る理由もないため、俺たちは施設へと足を進める。


「いやぁ、まさかこんなに有名な人達と会えるなんて……政府職員になって良かったですよぉ」


「今川さん、気を引き締めてください。絶対に余計なことしないでくださいね」


「私もしっかりと目を光らせておきます」


「……朝霧さん、本当にすみません、探索者なのに職員を見張らせるなんて……」


「いえ、慣れていますから」


 今川は相変わらずらしく、神宮に注意されていた。

 さらに新しく加入したメンバーの朝霧さんも睨みつけている。


 初めて会ったときも思ったが、見た感じ大真面目である朝霧さんと手を抜く今川さんでは相容れる筈もない。


 そんな彼女達をチラリと見ている音を見て、どことなく何かをやらかしそうだなぁ、と俺は内心で呆れた。


 さらにその後ろでは、響、明さん、和香さんの3人が談笑している。

 音と違って真面目な響は、明さんから同じ苦労人の雰囲気を感じ取ったのだろう。


 話は盛り上がっているようだが、やや肩身は狭い印象だ。

 これだけ人がいて、ほとんどが女性。その中で男性は響と明さんだけとなれば、仕方ないのかもしれない。


(俺も生きていれば、あの中に入っただろうなぁ……)


 まだ生きてはいるものの、しみじみとそんな事を思った。


「あ……あれですか?」


 不意に、隣を歩く望月ちゃんが声を上げた。

 首だけを動かして後ろを見ていた俺は、正面を向く。


 大きなホテルが、木々の上から見えていた。

 俺達はそのまま歩き、木に包まれた道を抜ける。


 現れたのは、巨大なホテル施設に、蒼い海、白い砂浜だった。

 ダンジョンの中ではあるが、まるで沖縄の海に来たかのような、そんな気分になった。


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