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第17話 夢にまで見た関係と、もう一体のテイムモンスター

 望月ちゃんとの運命的な出会い。

 最初に会ったときも、再び目にしたときも運命的だったが、今回は次元が違う。


 そんな出会いで俺が出来ることは、一つしかない。


(これが……俺の気持ち!)


 すたっと姿勢を正し、ゆっくりと体を地面に下ろす。

 顎も腹も足も、ぺたーっと地面につけた。


 俺の体が大きいために、ここまでやっても視線の高さは座っている望月ちゃんと同じくらいだ。

 全身全霊の伏せを行うことで敵意は一切ないという事を表明する、完璧なポーズだった。


 じっと望月ちゃんを見てみれば、驚いていた彼女はゆっくりと近づいてくる。

 腕に竜乃を抱えているために、気遣いながらの移動に彼女の優しさを感じた。


 そうして触れ合えるくらいの距離に来た彼女は恐る恐る手を伸ばす。

 その手を、俺はじっと待ち続ける。


 噛みつくことはもちろん、体を少しでも振るわせることすらしない。

 良い飼い獣とは、飼い主を怖がらせてはいけないのだ。


 しかし望月ちゃんの手のひらが触れた瞬間に、あまりの気持ちよさに目を見開いてしまった。

 彼女に触れられることを全身が喜んでいるような、そんな感覚だ。


「大変、怪我してる……」


 その声が聞こえてすぐ、温かい光に包まれた。

 体が進化して大きくなっても覚えている、いや忘れるはずのない光。


 それが、初めて会ったときのように傷を治していく。

 元々彼女と繋がったために減っていた傷は、すぐに綺麗さっぱりなくなった。


 ほぅ、と安心して息を吐く音が聞こえた。

 首を少しだけ動かし、首筋に触れる彼女と目を合わせる。


「君は……あのときの子……なんだよね?」


 ゆったりとした、かみ砕くような質問に対して俺ははっきりと頷く。


(そうだよ。俺が、あのとき君が助けてくれた――)


「ありがとう!」


 しみじみとした俺の独白は突然の望月ちゃんの行動で止められた。

 彼女は空いている腕で俺の首筋に抱き着いてきた。


 女の子特有の柔らかさと甘い香りに、頭がくらくらする。

 探索者の時にはこんな経験はなかったし、色々な感覚が鋭くなった今の俺にとって、彼女は劇薬と同じだった。


(お……おぉ……おおぉ……)


「君が居なかったら私も竜乃ちゃんもどうなっていたか……本当にありがとう……」


 あまりの感動で悶えている俺に対して、望月ちゃんは心の底から感謝を告げていた。

 それを感じて、正気に戻る。


(……たった一人と一匹で、竜乃と一緒に頑張ってきたんだもんな)


 浅倉に捨てられ、気絶した竜乃を抱えて、どれだけ怖かったことだろう。どれだけ寂しかったことだろう。


 それでも彼女は最後まで竜乃を抱え続けた。

 そしてモンスターであるはずの俺にすら感謝を述べている。


 俺から離れて涙を拭う彼女を見て、本当に綺麗な心の持ち主なんだという事がよく分かった。


「あ! そ、そうだ! これ勝手につけちゃってごめんね、すぐに返すから……」


 思い出したかのように望月ちゃんは左手首に嵌めたブレスレットを外そうとする。

 しかし外し方がよく分からないのか、あたふたとしていた。


 その様子を見て、俺はブンブンと首を横に振る。


「……え?」


 動きを止めた望月ちゃんに対して、もう一度強く首を横に振った。

 それはもう君のものだと、君に付けて欲しいと伝わるように。


 やがて思いが伝わったのか、望月ちゃんは小さな声で呟いた。


「私が……持っていていいの?」


(持っていてというか、貰ってくれ!)


 首が取れそうなほど縦に振る。

 推しに貢ぎ物をするような気持ちで、受け取ってくれた方が嬉しい。


 しかしそこで望月ちゃんは思いもよらない行動に出た。


「ほ、本当? あ、ありがとう……えへへ」


 感謝を述べた後にブレスレットを右手の指で撫でで、嬉しそうに微笑んだのだ。

 遠くから見た頃がないくらいに、可愛い笑みだった。


(え? 天使? 天使なの?)


 ぽげーっと見ることしか出来ない俺だったが、望月ちゃんはさらにもう一つの事に気づいた。

 俺と彼女の間に出来た、白い線だ。


「うぇえ!? 嘘、勝手にテイムしちゃってる!? いつの間に……ご、ごめんね、すぐに解放するから!」


(いやいや! そのままで! テイムしたままでお願いします! もう本当に!)


 端末を操作し始めた彼女に見えるように何度も首を横に振る。

 しかしどれだけ大きく首を振ってみてもこの状況に混乱しているのか、彼女は俺に気づかなかった。


(テイムしたままで! テイムしたままで! テイム! テイム!)


 何度も念じてみても指は止まらなかったのだが、しばらくしてようやく望月ちゃんの指が止まった。

 気づいてくれたか、そう思ったとき。


「……あれ? テイム、してない?」


 端末から視線を外した望月ちゃんは俺と目を合わせ、そして白い線を見る。

 訳が分からないと言わんばかりに、頭を抱え始めた。


「え? いや、そもそも竜乃ちゃんと契約してるから君とは契約できない筈で……で、でもラインは出来てるし君も強くなってるし……うぇえ!?」


(……確かに)


 望月ちゃんの発言に俺も思い出す。

 そもそも、モンスターテイマーは一匹のモンスターとしか契約できない。


 それはこれまで一つの例外のない、当然のルールだ。

 けれど望月ちゃんと俺の間には、確かに俺達しか見えない線が見えている。


 この線がテイマーとモンスターの間にある線だと、確信できる。

 そしてその線があることは元パーティメンバーの言葉からも明らかだ。


「んー? 端末見るとテイムしてない。でもすっごくテイムしている気がする。不思議……」


 端末と白い線と俺を何度も見る望月ちゃん。

 俺は思わず、立ち上がって彼女に近づいた。


 頭を下げ、彼女のわき腹付近にこすりつける。

 獣としての本能が、そうさせた。


「……も、もしかしてだけど、そのままで……いいの?」


 恐る恐る、だが期待の籠った声音に頭を上げてしっかりと一回だけ頷く。

 すると望月ちゃんはぱぁっと顔を明るくした。


「ほ、本当!? 本当にいいの!? 君みたいな凄い子が、助けてくれるの!?」


『あぁ、任せてくれ』


 短く唸って頷けば、望月ちゃんははしゃぐように喜んでくれる。

 ブレスレットの時よりも喜ばれ、俺も幸せを感じた。


 その時だった。俺のうめき声のせいなのか、気絶していた竜乃が目を覚ました。

 じっとそちらを見てみれば、望月ちゃんもそれに気づいたようだった。


「あ、竜乃ちゃん! 大丈夫? さっきは無理させちゃってごめんね……」


 竜乃はぼんやりと望月ちゃんを見上げた後にゆっくりと俺の方を見て、そして。


『ぎゃああああああ! モンスターぁぁぁぁぁああああ!』


 目を見開き、大きな声で叫んだ。

 その言葉の意味が分かり、俺は思わず。


『しゃ、しゃべったぁぁぁぁあああああ!』


 そう叫び返してしまった。


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