表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/214

第167話 白の世界、零の武者

 紫と黒の雷撃が黒髪のがら空きの背中に命中。

 全身を感電させ、さらに当てた時の衝撃で黒髪はなす術なく吹き飛ばされる。


 命中の瞬間に竜乃は右へと跳んだために、黒髪の吹き飛んだ先には誰も居ない。

 彼女はそのまま空中で一回転し、地面へと強く叩きつけられた後に、最奥の塀に衝突した。


(……倒したぞ)


 当てたときの感触、攻撃そのものの威力。

 そして吹き飛んでいくときのスピードに軌道、それらを総合的に見て、間違いなくHPを削り切ったと確信した。


 ほぼ限界まで弾丸を回した状態の紫電と、一瞬とはいえ全力で行使した黒雷の複合攻撃。

 その威力は、俺の所持する攻撃手段の中で最も高いに違いない。


 そんな強力な一撃を避けることはおろか防ぐこともせずに受けたのだ。

 しかも受けた場所は体のど真ん中である背中。いくら黒髪が深層のボスとはいえ、耐えられるはずがない。


 土煙が、ゆっくりと晴れていく。

 ヒビの入った塀にめり込むような形で、黒髪は叩きつけられていた。


 やがてその姿がゆっくりと地面に倒れ込む。

 もはや自分の体を支える力すら残っていないように見えた。


 先ほどまで脅威だと感じていた黒い刀は傍らに雑に投げ捨てられ、光も宿していない。

 はるか上空に浮かぶ月から、光が下りてくるような様子もなかった。


 うつ伏せで地面に倒れ、ピクリとも動かない黒髪を見て俺は勝ったことを確信し、もう片方の戦いにも視線を向ける。


(さて……氷堂の方は?)


 左へと視線を飛ばせば、まず目に入ったのは地面にあおむけで倒れる白い髪の少女だった。

 刀は倒れる彼女の頭のすぐ近くの地面に刺さっていて、こちらも光は宿していない。


 そしてその前には、剣を地面に突き刺して杖のようにし、肩で息をする氷堂の姿があった。


『氷堂!』


 吠えれば、望月ちゃんが俺の見ている方向を向いて氷堂の様子に気づく。


「氷堂さん!」


 これまで見ないほど疲弊した氷堂を見て、心配そうに望月ちゃんは駆け寄った。

 俺もチラリと黒髪を確認し、氷堂の元へと向かう。


(……2体だから倒した判定になるのに時間がかかっているのか?)


 第2形態まで見たので、この先はない筈だ。

 にもかかわらず、黒髪は消える気配がない。


 しかし、それよりも氷堂の事が気になったために、視線を意図的に外した。


 氷堂の元へ駆けつければ、傷は負っていて疲労は見受けられるが、致命傷はなさそうだった。

 先に駆け付けた望月ちゃんが既に回復魔法をかけていて、細かい傷は消えている最中だ。


「大丈夫ですか? 氷堂さん……」


「肯定。流石に深層ボスだけあって手間取ったけど、なんとかなった」


 いつもの無表情だが、どこか雰囲気は誇らしげだ。

 俺が竜乃や望月ちゃんの力を借りて、あれだけの手を打ってようやく倒した黒髪と同レベルであろう白髪を倒したのだ。


 しかも俺達は三人がかりだが、氷堂はたった一人で倒している。

 得意げになるのも無理はないし、流石は氷堂だと思った。


「感謝する。私は大丈夫。あなたたちも……大丈夫そう」


 望月ちゃん、竜乃、俺と視線を順に動かして氷堂は頷く。

 そのときだった。


 目の前で倒れている白髪から、光が出てきた。

 光は次々と出てきて、天へと昇っていく。視線を向ければ、遠くで伏している黒髪も同じ様子だ。


「……どういう、こと?」


 氷堂が声を上げる。

 モンスターを倒した場合、倒されたモンスターは灰になって消えていくのがダンジョンの常だ。


 ボスであっても、それは変わらない。


「……で、でも、消えちゃいましたね」


 望月ちゃんの言う通り、いつもとは違ったものの次第に白髪の姿は半透明になり、それでも薄くなるのは変わらず、やがて消えてしまった。


 遠くの黒髪の姿も、同じように消えていた。

 彼女達の姿のみならず、刀も。


(終わった……のか? ……………っ!?)


 戦いの終わりかと思ったその時に、俺は気づいた。

 続いて氷堂が、竜乃が、そして最後に望月ちゃんが気付く。


 天空で光り輝く二つの天体、太陽と月。

 それが動き、重なろうとしていることに。


 全く同じスピードで太陽は右に、月は左に動く。

 全く同じ大きさの二つの円が全く同じスピードで、重なる。


 いや、融合した。

 そうとしか考えられない。そうでなければ、重なった円が大きく、眩くなるわけがないのだから。


 降り注ぐ光の量が格段に多くなり、それまで薄暗かった世界に変化が訪れる。

 辺りを強すぎる光が照らし、全ての色を白に変えていく。


 塀も、雑草も、何もかもを白く。

 昼と同じくらいの明るさ。けれど現実世界にあるような太陽の明るさではない。


 どちらかというと強烈なライトを広範囲に当てたような、そんな冷たい明るさだ。


(あれが……第二形態じゃなかったって言うのか?)


 黒髪の全身をオーラが覆うのを見て、それが第二形態だと思った。

 そのくらい大きな変化には違いなかった。だから、そう思ったのに。


 ――ガタンッ


 重苦しい音が、一回だけ響いた。金属が擦れあう、あまり聞かない音だ。

 鎧が擦れるような音と言うのは、こんな音なんだと初めて知った。


 視線の先、奥に一人、いる。

 真っ黒な鎧に身を包み、鬼の面をつけた大男のように思えた。


 鎧の隙間から見える体の一部は全てが真っ黒で、体全体から白と黒の二色のオーラを出している。

 体格はかなり大きい。身長は3mはあるのではないだろうか。


 両手に武器は手にしていないものの、発せられる圧はあまりにも重い。


 ――ピコンッ


 電子音が響いた。

 隣を見れば、望月ちゃんがモンスターチェッカーを大男に向けていた。


 モンスターチェッカーに視線を落とした望月ちゃんは驚きに目を見開いている。


「……名前は、零。レベル1000です」


 告げられた名前に、レベルの数値。

 それが意味するのは、あれが深層ボスの真の第二形態ということ。


 姿かたちが大きく変わるどころか、名前まで変わるとは思ってもいなかった。


(数は1に減った。レベルだって1000のまま……)


 内心でそう思いながらも、それが直視していない意見だということは俺が一番よく分かっている。

 白髪や黒髪は強かった。けれどこの大男は、いや武者は別次元だ。


 レベルでは測れない強さを感じ取れる。


(これが……深層ボス……)


 こちらへと一歩踏み出し、歩いてくる武者に気圧される。

 武者は両手を広げ、二振りの刀が手に収まった。


 右手には白い刃に白い柄の刀。

 左手には黒い刃に黒い柄の刀。


 間違いなく、白髪と黒髪が使用していた刀だ。

 それらに刀の色と対応するオーラを纏わせ、武者はただ歩く。


 真っ白な世界で映える黒と、よく見える白が印象的だった。


(どうする……ただ者じゃないぞ……どう攻め――)


 そこまで考えたときに、背に誰かが触れた。

 弾かれるように左を見れば、しゃがんだ氷堂だった。


「……お願い」


 たった四文字。けれどその中に、氷堂のいろんな思いが見て取れた。

 だから。


『あぁ、勝つぞ』


 小さく吠え返す。

 俺の意図を氷堂はくみ取り、頷いて立ち上がる。


 さっきまでは、俺達はパーティとはいえお互いに協力はし合わなかった。

 だからこれが俺達が初めて行う、最初で最後の協力戦だ。


 俺、氷堂、竜乃、望月ちゃん。

 4人の力を合わせた総力戦が、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ