表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/214

第166話 降り注ぐ流星群

 目の前から急に消えた黒髪。

 しかしそれが移動ではないことを俺は分かっていた。


 同じような攻撃をつい先日受けたばかりだから、よく分かる。


(これは攻撃だ。リースの弾丸と同じ、見えないほどのスピードの、斬撃)


 けれど世界一の攻撃と黒髪の攻撃では次元が異なる。

 目で追えなくても、俺という体が追い付けないほど速くはない。


 縦横無尽に走る斬撃。そのいくつかを避け、超反応で正面から迫る刃に爪を突き立てた。


『!?』


『見つけたぞ!』


 金属音が響けば、目の前には刀を構えた黒髪の姿。

 見切られるとは思っていなかったのか、驚いている雰囲気がよく伝わってきた。


(単純な速さならギリギリ対応できる……でもっ!)


 黒髪は左足に力を入れ、押しだし。

 俺は弾かれるものの、それを予想していたために次の行動を取ることが出来た。


 単純な力任せでは、この黒髪に勝つのは難しい。

 だからこそ、素早く振られる刀の軌道を必死に目で追い、避け続ける。


(攻撃に波がない……どれもこれも、全力で振るいやがって!)


 連続攻撃を体を翻して必死に避けつつ、黒髪の動きをじっくりと観察する。

 彼女は一振り一振りが本気だ。全身の筋肉をうまく使い、一撃を丁寧に、盤石なものにしている。


 反撃できるような生ぬるい攻撃が、ない。


(しかも当たれば……ただじゃすまない……)


 黒髪の持つ刀は今なお鈍色の輝きを帯びている。

 時折はるか上空の月から光が下りてきて刀に宿る以上、あの刀はあまりにも危険だ。


 もしも深く斬られれば、それこそ一撃で持っていかれる可能性すらある。

 このまま回避一択は、危険だ。


 体内に、魔力を満たす。一気に体全体を包み込む膨大な魔力。

 その内の一部を、リリースする。


 大地が鼓動し、地面から多数の岩が射出し、宙で時が止まったように停止する。

 先ほども発動した地の上級魔法、クラビティレス・ロック。


 上級魔法でありながら、あまり威力が高くないために今までは使用していなかった魔法。

 戦いの中で何かに使えないかと思い、いろいろと試したが、どれもダメだった。


 中でも雷の中級魔法、プラズマ・ウェーブを反射させられるのではというのは良い案だと思ったのだが、電流の跳ね返りに岩が耐えられなかったので、反射の回数が足りず、結果としてプラズマ・ウェーブの威力が上がり切らなかったのでお蔵入りになった。


 けれど今この魔法を使うのは、プラズマ。ウェーブに変わる攻撃手段を俺が習得したから。

 黒雷は、使い方にかなりの幅がある。跳ね返るような黒雷を打つことも、容易だ。


 浮かんだ岩目がけて、漆黒の雷を放つ。


『……? !?』


 どこを狙っているのかという雰囲気を出した黒髪はしかし、次の瞬間には置かれた状況を悟ったようだった。

 黒雷ならば、一回しか跳ね返らず、かつそれで岩が砕けても問題はない。


 そもそもの威力が、桁違いに高いのだから。

 さらに黒雷に、プラズマ・ウェーブにはない性能があるのも忘れてはならない。


 岩で跳ね返った黒い雷は3つに分かれ、それぞれが滅茶苦茶な方向へ飛ぶ。

 うち2つは別の岩に当たり、最後のは明後日の方向へ。


 それを何度も繰り返せば、先ほど黒髪がやったような多角的な攻撃だって可能になる。

 あとは時を見計らって、体内の魔力を消費して再度クラビティレス・ロックを放てばいい。


(これである程度ダメージを受けてくれれば……)


 そう思い黒髪の様子を見るものの、彼女の動きは止まらない。

 迫りくる黒雷の不規則な軌道すらも見切り、避けつつも俺を刀で斬ろうと攻撃を仕掛けてくる。


(なら!)


 振り下ろされた漆黒の刃を避け、鼻先に切っ先が掠るのを確認すると同時に、黒雷を発動。

 先ほどと同じように、不意打ちをしかけた。


『もうみた』


 黒髪は刃を振り下ろすよりも早く後ろに跳び、黒雷を避ける。

 望みをかけた雷は、無情にも俺の目の前の地面に落ちるに終わった。


(同じ手が二度通用するわけないだろ!馬鹿か俺は!)


 俺ですら黒髪の同じ手は、二度は食らわない。

 それなら深層ボスである黒髪だって、それは同じことだ。


(黒髪が予想もしない攻撃をするしかない。それこそ最初の黒雷のような……完全に引きつけた不意打ちを……)


 だがそれが難しいことは今証明された。

 ここまで黒雷を警戒されている状態で、どうするか。


(どうする? 竜乃に援護を頼むか? でも、どうやって――)


 必死に思考を巡らせる中で、竜乃の赤いブレスが飛来した。

 蒼のブレスを混ぜては俺の魔法を撃ち消してしまうと思ったのだろう。


 灼熱の火の奔流は、宙に浮いている岩を巻き込みつつ、それを押し出しながら黒髪に迫る。

 しかし黒髪はそれをあっさりと避け、体を翻して刀の刃でブレスを叩きつける。


 斬撃が竜乃のブレスを食らい、やや大きくなりながら彼女の元へと飛来した。

 完璧な、カウンターだった。


『…………』


 頭に過ぎったのは、いつだったかの光景。

 竜乃のブレスに風の魔法を組み合わせ、火の威力をあげたり、大きくしたりした火のこと。


 そんな光景が、これが答えだと言わんばかりに輝いていた。


『竜乃! 付き合え!』


 叫び、俺は体内の魔力を放出。

 グラビティレス・ロックを可能な限り展開し、辺り一面に岩を浮遊させる。


 低いところから高いところまで。

 至る所に、それぞれ異なる高さで、遥かな高みまで。


 頭の中で準備していた弾丸を全て回し、黒髪の刀を避けると同時に浮かぶ岩に飛び乗る。


『望月ちゃん!! 頼む!』


 飼い主の方を向き、大きく叫ぶ。言葉は伝わらないが、感じ取ってくれた望月ちゃんは頷いた。

 直後に俺の体を光が包み、体内に魔力が満ちていくのを感じる。


 今この場面で望月ちゃんが取れる選択肢なんて、無数にあった。

 けど彼女はその中から正解を選び取った。


 いや違う。俺が何かをしようとしていて、その準備をしている。

 その時に必要なものが魔力だと、長い付き合いの彼女は気づいたんだ。


 そのまま全力で跳びながら、上へ上へと昇る。

 風が下から舞い起こり、あっさりと俺を追い越した。


 最も高い位置の岩まで昇り、その岩を力の限り蹴ってさらに上へ。

 何もない上空へと飛び跳ねる。その過程で、先に上空へ行き、俺を待っていた竜乃と目が合った。


『…………』


『…………』


 言葉は交わさず、お互いに頷き合う。

 俺は竜乃の高さすら越え、最も高くまで飛んだところで体を翻した。


 遥か下の地面には、刀を構えてこちらの動きを警戒する黒髪の姿。

 それをしっかりと視界に入れ、魔法を行使する。


 体内の魔力を全て消費し、竜乃の正面に風の球体を出現。

 風の超級魔法、ストリーム・ホロウ。


 これ以上はない、竜乃のブレスを強化する風の魔法だ。


『食らいなさい!』


 叫び、竜乃は口を開いて力の限り紅のブレスを放つ。

 放ったブレスはストリーム・ホロウに直撃し、ストリーム・ホロウから放出される凝縮された風の力を受け、その大きさを何倍にも膨らませる。


 広がった炎は高速で地面へと向かい、その途中にある岩を巻き込み、火をつける。

 宙に浮かんだ全ての岩が、隕石となって降り注ぐ。


 その様子を見ると同時に、俺は重力に従って急速落下。

 可能な限り風の抵抗を少なくするために体を小さくし、同じように落ちる。


 この降り注ぐ隕石の中で、決める。

 そう決意して。


 ゆっくりと落ちる隕石よりも速く下降し、広がる火の波に突っ込む。

 体が焼けるものの、無視すればすぐに熱は引く。


 眼下では、襲い掛かる隕石を避けたり斬ったりしている黒髪の姿。

 それをしっかりと目にして、落ちる。


 落下速度は速い。けれどこのままでは、黒髪に捕捉される。

 せっかく高くまで昇り、竜乃のブレスを広げることで目くらまししたのだ。


 このまま気づかれることなく降り立ち、黒髪にデカい一発を食らわせる。

 そのために、出来ることは全てやる。


 最小の出力で、黒雷を発動。

 攻撃するためではなく、下降を後押しするための一手。


 天から光速で降った黒い雷は、さらに下降のスピードを手助けする。

 雷が地面に落ちるすぐ後に、足が地面についた。


『みつけた』


 雷の音か、あるいは足音か。

 そのどちらかを聞いて、黒髪が振り返る。


 下降して来たのに気づき、背後にいる存在を斬るために、刀を振り上げる。

 地上に着地したときには、どうしても硬直がある。


 だから黒髪の方が、一手速い。


 ――タンッ


 軽い音を立てて、地面へと落下を完了させる。

 体中を衝撃が走るものの、それに耐える。


『ものすごく痛かったから、貸し一つよ、虎太郎』


 動きを止めた黒髪の背中が映った。彼女の視界には映っているだろう。

 俺の黒雷を体で受け、下降するスピードを上げ、一足先に地面に降り立った竜乃の姿が。


 紫電と黒雷。その二つを力の限り体内に巡らせ、融合させる。

 勢いをつけて、可能な限り全力で。


 俺の最大火力の雷撃を、無防備な黒髪の背中に叩きつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ