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第157話 東京とは異なる深層

「えっと……どういうことですか?」


 突然聞かされた世界一位の探索者の来日。

 そしてその当人が俺達に会いたがっているということを、望月ちゃんは理解しきれていないようだ。


 それに関しては俺も同じ。

 どうして面識もない世界一位が、俺達に興味を持っているのか。


 望月ちゃんの問いかけに対して、氷堂はふるふると首を横に振った。


「分からない。師匠が考えていることは、いつも意味不明だから」


 どうやら関係を持っている氷堂でも分からないようだ。

 望月ちゃんは恐る恐るという形で、彼女に問いかける。


「その……リースさん、でしたよね? どんな方なんですか?」


「リース・ナイトリバー。知っての通り、世界最強の探索者。出身はアメリカで、性別は、女性?」


 いや、なんでそこ疑問形なんだよ、と思ったものの、口には出さなかった。

 よくよく考えてみれば氷堂も女性に違いないが、強さを見れば人間ではないと言われても納得するくらいだ。


 そんな彼女よりもさらに強いリース。

 氷堂も、おそらくは同じ人間だとは思えないのではないだろうか。


「性格は……暴君……否定。ちょっと問題がある」


「今、暴君って言いましたよね?」


「言ってない」


 明後日の方向を見る氷堂は、態度で自分が失言したことを認めていた。


「……師匠はアメリカのTier1ダンジョンを3つ攻略している。

 4つ目のTier1を攻略した後は他国に移る予定もあるくらいに強い。

 最強なのは間違いないけれど、師匠に関して言うことがあるなら2つ。

 まず師匠は、壁を越えている」


 フランスで氷堂が言っていた壁。それがレベル1000の壁であることは聞かされていた。

 リースが世界で唯一、その壁を越えた探索者であることも。


「……レベル1000を越えているって、そんなに違うんですか?」


「違う。会うだけで分かる。あれは私達とは根本から異なる」


 俺からすれば氷堂こそが「違う」代表なのだが、その氷堂が「違う」というリースはどれほどなのか。

 もはや想像することも出来ない。


「レベルのみならず、技術、戦闘センス全てが異次元。

 そしてもう一つは、Tier0を倒している」


 世界で確認されているTier0は3体。内の1体を世界最強の探索者が倒したのは有名な話。

 それをしたのが、リースだ。


 俺達が2度遭遇した審判の銀球。あれと同レベルのモンスターを倒すというだけでも、想像を絶する。


 氷堂は望月ちゃんを、竜乃を、そして俺を見た。


「師匠は貴女達を名指しした。すでにロックオンされている。

 明後日、ここの上層に来ると思う。私もいるけど……師匠は何をするか分からない」


「…………」


 氷堂の言葉に、望月ちゃんが緊張で言葉を発せずに、唾を飲み込んだ。


 ついさっきまで氷堂と気楽な探索をしていて、これから深層に挑むというところだったのだ。

 それが急に、恐ろしい人との対面になってしまった。


 意識を一気に持っていかれてしまったのは俺達も同じこと。

 竜乃も難しい顔をして地面を見つめている。


「……とりあえず、深層に進んで機器を使ってダンジョンから出る。

 明後日に師匠が来る以上、探索をしている場合じゃない。むしろ明日はゆっくりと休むべき。

 それにちょうど、下層をクリアした段階で休みを入れる予定だった」


「……はい」


 こくりと頷き、望月ちゃんは氷堂についていく。

 巨大な竜王と戦った戦場を後にして、山のさらに奥へ。


 洞窟に行き当たり、その中へと迷うことなく入っていく氷堂。

 その背中を追って歩けば、見覚えのある光景が目に入った。


 東京のTier1下層ボス戦後に現れたものと同じゲートだ。

 洞窟の行き止まりに、ゲートが設置されている。


「この先が深層。そこで機器を使用して現実に戻る」


 望月ちゃんは氷堂の言葉に頷いた。

 ゲートの中へと、ゆっくりと足を踏み入れる。


 俺達が緊張しているのは、きっとまだ見ぬ深層にじゃない。

 おそらくはさっきまでの緊張が、尾を引いているからだ。




 ×××




 階層に降り立ってまず思ったことは、「暗い」ということだった。

 けれど茨城のTier2下層程ではない。薄ら明るいというか、薄ら暗いというか、絶妙な光加減。


 夜なのは間違いないものの、地底のようにも思える暗さ。

 目が慣れているのか、慣れていないのかすら分からない。


 大地は暗いだけで普通だった。

 背の低い雑草や、遠くには木々も見える。普通の大地だ。


 けれど雰囲気はどこか異常を訴えている。

 ここが現実ではないことを空気が訴えてきている。


 首を上げ、俺はこの違和感の正体を知った。

 天には、月がある。金色に輝く、満月。


 そしてその横には、白く光り輝く球体があった。

 あれは、なんだ?金星ではないだろう。むしろ眩さから連想されるのは。


「あれは、太陽」


 思い至ったことを氷堂に言われ、思わずそちらを見る。

 同じことを思ったのか、望月ちゃんも彼女を見ていた。


「た、太陽って……それにしては暗すぎませんか?」


 望月ちゃんの言う通り、辺り一面は静まり返り、闇に包まれている。

 うっすらと視界は効くものの、昼か夜かと聞かれれば間違いなく夜。


 太陽が出ているような世界ではない。


(それにあの太陽、眩しくないぞ)


 もう一度見上げれば、裸眼にも関わらず、特に目が痛くなることもない輝きが。

 現実の太陽とは違い、眩くて瞼を閉じなければならないような輝きはない。


「肯定。ここはダンジョン。だからあれは架空の月と太陽。けどここがどんなテーマなのかは私も分からない」


 空に月と太陽があるということは階層のテーマに当てはまっていそうだが、詳細は氷堂でも分からないようだ。


 それにしても東京の深層は扉があるのみだったが、こちらの深層はしっかりと階層として機能している。

 遠くにだがモンスターの影も見える。普段通りに探索するということになりそうだ。


「とりあえず、深層に到着したから今日はここまで。あの機器から出る」


 遠くにある機器を指さして、氷堂は言う。

 東京の時と距離は違うものの、入口から近い位置にあるのは変わらず、助かった。


 全員でそちらに移動し、望月ちゃんが認証を行う。

 これで次回からは、ゲスト機能を使っていてもここから再開することが出来る。


 明日はお休みなので、望月ちゃんと氷堂の二人に会うのは、また明後日ということになる。

 その日には、リースが来日するので探索をするわけではないが。


 認証を終えた望月ちゃんは氷堂に向き直る。

 無表情の氷堂は不意に、深々と頭を下げた。


「氷堂さん!?」


「感謝する。貴女達がいなければ、ここまでは来れなかった。深層ボスも、お願い」


「……もちろん最後までお付き合いしますから、頭を上げてください」


 むしろ深層まで連れてこられて放り出されても困るというもの。

 氷堂の肩に手を置き、望月ちゃんは頭をあげさせた。


「ここまで来たからには、一緒に京都の深層ボスを倒してダンジョンをクリアしましょう。

 私、Tier1ダンジョンクリアしたことないので楽しみです!」


「当然なんですけどね」と苦笑いする望月ちゃんに、氷堂は無表情ながらも呆気に取られているようだった。

 やがて彼女は一回だけ頷く。


「肯定。伝説を残す……その前に師匠が来るけど」


「あはは、まあそれは竜乃ちゃんと虎太郎君にお師匠さんもやられたということで」


「……それは……あるかもしれない」


 望月ちゃんと氷堂。一人は笑顔で、そしてもう一人は無表情で。

 けれどどちらも雰囲気は柔らかく、温かかった。


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