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第155話 日本一、異次元の強さ

 超級までの魔法に紫電、さらには黒雷。

 実力的にはTier1下層でも余裕がある俺が、一瞬で敵を沈める。


 魔法も黒雷も使わずに、紫電を使用するのみで正面からねじ伏せた。

 試合時間も短く、一方的な試合。


 続く竜乃も望月ちゃんも同じような流れとなる。

 前回東京のTier1で戦ったときと比べて、望月ちゃんのレベルは700後半。


 敵とのレベル差は100程度あるので、どちらも余裕の戦いだった。

 あっさりと続く二体のボスを下し、最後の戦いは彼女へと。


「行ってくる」


「氷堂さん、頑張ってください」


「頑張るまでもない。すぐに斬ってくる」


 日本No1探索者、氷堂心愛。

 彼女が静かに巨大な蓮へと降り立つ。


 以前はフランスで、そして強敵と戦うという意味ではエマと戦っている姿を見たことがある。

 その時に感じたことは、氷堂心愛の実力はエマを上回るということだ。


 ひょっとしたらあのラファエルすら上回るようにも思える。


“氷堂さんの初めてのボス戦、配信初公開か”

“氷堂さんからしたらこのボスも弱いんだろうけど、でもボスはボスだからな”

“強さの秘訣が分かるかもしれん”

“最強の実力の一片が、見れるか”


 コメントも氷堂の戦いを期待しているものが多く見受けられる。


 戦場の上側に水泡が集まり、水の玉を形成。

 そしてその玉が地面にゆっくりと落ちた瞬間に。


 氷堂が水の音を置き去りに地面を蹴った。

 右手には、いつの間にか握られていた美しい金の装飾を持つ、水晶の剣。


 エマとの戦いの時よりは遅く、十分に目で追えるスピードで剣を振るう。

 振り上げられた剣は、斜め下に向けて軌道を見せる。


 その動きは、配信を見ている人でも十分に追える速さだった。

 それゆえに相手も対応できていた。剣の軌道を妨げるように剣を構え、防御の姿勢。


「斬る」


 その一言が、はっきりと耳に届いた。


 氷堂心愛は日本No1探索者だ。強くて当たり前。

 けれど初めて彼女に会ったときに、俺は氷堂のことを「違う」と思った。


 その理由が、今ならよく分かる。

 俺達の延長線上に氷堂がいるわけじゃない。氷堂は、そもそも俺達の延長線上にいない。


 だから彼女は、「違う」探索者なのである。


 氷堂の剣は、振るわれた。

 斜め下に、何物にも妨げられる様子なく、振るわれた。


 敵の防いだ剣も、敵の体すらも、なかったかのように。


 紙のように易々と斬ったわけではない。

 全く抵抗がない、まるで何もない空気を斬ったような軌道だった。


 氷堂の動きも、普通ではなかった。

 敵を斬るために前のめりになっての力を入れた斬りではない。ただ地面を蹴り、間合いに敵を入れ、軽く剣を振るっただけ。


 それだけで敵のフォルムが斜めにずれた。

 重力に従い、上半身がゆっくりとスライドし、力なく水に落ちる。


 大きな水音を立てて、敵の物言わぬ上半身が水しぶきを上げた。


【見事なり。勝者、挑戦者!】


 蓮の戦場の上に、俺達の勝利を祝する光の文字が出現した。


“うおおおおおお! なんだあれ!?”

“え? あんなまったく力入ってないのに!?”

“どうなってんだ!? ただ剣振るっただけで敵が死んだぞ!?”

“いや、っていうか斬ったんだよな?敵の剣も敵の体も、まるですり抜けたみたいだったぞ!?”

“そういうスキルを持ってるんか? 切れ味を極限まで鋭くするとか”

“なんか、斬ったのはもちろん凄いんだけど、斬り方が普通じゃないっていうか……”

“氷堂さんが日本1位なの分かった気がする。あんなん誰も真似できねえよ……”


 配信のコメント欄も大盛り上がりだ。

 氷堂の想像を絶する強さに驚いているものが多い。


 ボスを一撃で下したことで、巨大な蓮の戦場に入れるようになる。

 望月ちゃんと一緒に着地すれば、奥で氷堂がゆっくりと振り返った。


 いつもの無表情で、当然だが息一つ上がっていない。


「お疲れ様です、氷堂さん」


「楽勝。このまま中層も下層もすぐ突破して、深層に行く」


「ふふ、凄く頼もしいです」


 望月ちゃんの言葉に無反応なものの、雰囲気を読み取るに氷堂は嬉しそうだ。


“え、これ無料で見れちゃっていいの?”

“これまだ上層でしょ?中層も下層も深層もあるんだよ?”

“やべえって。おかしくなっちまうって”

“普段のモッチーの配信だって爽快感凄いのに、今回のはやべえ”

“そういえば、氷堂さんとモッチーのパーティ名ってなんなの?”

“決めてないんじゃなかったっけ?”


「あ……そういえばパーティ名決めてませんでしたね」


「……必要?」


 配信コメントを拾った望月ちゃんに、コテンッと氷堂は首を傾げた。

 心から必要なのか不思議な様子だ。


“いやいや、せっかく組んだんだから決めようよ”

“ドリームチームだし、名前欲しいかなぁ”

“SNSで呟くときにもあると便利かも”

“名前、欲しいなぁ(チラチラッ)”


「うーん、名前ですか……氷堂さんとその他、みたいな?」


「却下。なぜ私が前面なのか」


 パーティ名を希望され、望月ちゃんがとりあえず出だした案。

 しかし氷堂のお気には召さなかったようだ。


 それにしても望月ちゃん、その名前はどうかと俺も思うぞ。


「他には……望月と竜乃ちゃんと虎太郎君と氷堂さんの夢のパーティ……とか」


「長い」


 一刀両断し、氷堂はじっと望月ちゃんを見つめた。


「……前から思っていたが、あまりネーミングセンスはよろしくない」


「がーん!」


 本人曰く、ちょっと気にしていることを言われ、望月ちゃんはショックを受けた顔をする。

 いやでも望月ちゃん、その名前はただ俺達を並べただけではないだろうか。


「こういうのは単純に。全員の名前から竜虎氷月りゅうこひょうげつとでもすればいい」


「竜虎氷月……」


 おぉ、俺たち全員の名前から一文字取ったのか。

 かなりカッコいい名前だし、良いのではないだろうか。


「氷堂さん!素晴らしいと思います!」


 望月ちゃんも同じことを思ったようで、氷堂の手を取って上下に振っている。

 心なしか、目も輝いているように見える。


 手を上下に振られながら、氷堂は無表情で顔を背ける。


「ん。それなら良かった」


 肯定でも否定でもない言葉に、彼女が照れているのを見た気がした。


 望月ちゃんと氷堂のパーティ、竜虎氷月。

 このパーティ名がこれから先、有名になるのは間違いない。




 ×××




 アメリカの高層マンションの最上階で、一人の女性が噛り付くように動画を見ている。

 デスクの上にはさまざまなメモ書きがなされている。


 気楽な気持ちで見始めた筈だった。

 けれど今、リースは鬼気迫る表情で動画を見つめている。


 視線の先には、戦場を駆け抜ける漆黒の獣が。

 その姿をじっと見つめるリースの目には熱狂は微塵もない。ただ緊張があるだけだ。


 動画を停止し、リースはデスクの上の端末を手に取って操作する。

 自分の担当者に電話をかければ、すぐに繋がった。


「もしもし?私だ。海外交流プログラムだけど、対象を日本に変更してほしい。

 あと、なるべく早く出立したい。一日も早く」


 リースの要求に、電話先の担当者が焦ったように返答する。

 どれだけ早くても数日はかかると言われ、それでもなるべく早くという依頼を出した。


「手配してくれれば私はいつでも構わない。相手は氷堂心愛で頼む。

 一応本人には決まったときに、私からも連絡しておくよ。ああ、じゃあ頼んだよ」


 電話を切り、リースは背もたれにもたれかかった。

 深く息を吐き、舌打ちをする。


「あの馬鹿弟子……なんで連絡しない」


 その原因が半分以上自分にあることは棚に上げて、リースは弟子に恨み言を吐いた。

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