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第153話 彼女の待ち望んでいたピース

「下層のボス戦、凄かった。キミには驚かされる」


 わしゃわしゃと撫でられる俺。

 望月ちゃんとは違い、やや乱暴……というよりも力加減の分かっていない撫で方。


 しかし痛くはない。激しいだけだ。

 あと、別に怖いから反抗しないわけじゃない。撫でているのがあの氷堂だから怖いわけじゃ。


「本当に……あのとき虎太郎君が黒雷を覚えてくれなかったら危なかったです」


「肯定。あの雷は私でもなんとかできるか分からない」


 え?そうなの?

 そう思って首を上げて氷堂を見ようとすると、撫でる場所が背中から頭に移動した。


 あっ、ちょっと、頭おさえられている感じに……。


「でも良かったんですか? 配信に映るの、お嫌いなのかと」


「否定。配信は好ましい。自分が出るのは少し恥ずかしいが、問題はない」


 あの氷堂から恥ずかしいという言葉が出たことに驚く。

 反射的に氷堂を見上げようとしてしまったが、頭を撫でられているので上げられなかった。


「じゃあ、始めますね」


「肯定」


 地面を見つめたまま、配信開始の音が鳴り響いた。

 ゆっくりと頭を上げれば、氷堂の手と一緒に上げることが出来た。


 配信は、始まっていた。


「皆さんこんにちは。告知しましたが、今回は氷堂さんとのコラボです。

 重大発表もあります」


“ヒェ……氷堂さんだ……”

“あれ?でも不思議とそこまで怖くない”

“いや、なんか背中に冷たいものが走るんだけど……怖くはないというか”

“っていうか、無表情で虎太郎の旦那を撫でている氷堂さんの図がシュールすぎるw”

“最強と最強がじゃれ合っている。尊い”

“虎太郎の旦那も氷堂さんを認めているのか、おとなしく撫でられてるのが良いね”

“重大発表って何なんだろう”

“気になる―!”


 俺を撫でていた手がピタリと止まる。


「まずは自己紹介。私は氷堂心愛。京都Tier1をメインダンジョンにする、探索者」


 急な自己紹介に、コメント欄がざわつき始める。


“急にどうした?”

“いや、知ってますけど……”

“知っているというか、超有名というか”

“なぜに今更?”


「これからしばらくの間、パーティを組む。配信にも毎日のように映るので、

 知らない人がいれば覚えておいて欲しい」


(え?そうなの?)


 氷堂の言葉に、俺は今度こそ頭を上げて彼女を見た。

 いつもの無表情が、そこにあるだけだ。


“これまでソロだった二人が、ついにパーティ!?”

“マジかマジか!急な発表だな!”

“最強のソロとソロがパーティを組むのか。これは熱いな”

“ドリームチームじゃねえかww”

“【速報】JDC1位、2位が手を取り合う形に”

“いや、でもちょっと待って? モッチーは東京で氷堂は京都でしょ?”

“そもそもパーティ組んでもダンジョン攻略できなくない?”

“メインダンジョンを変える方法でも見つかったか?”


 探索者には、それぞれ適応したダンジョンがある。

 望月ちゃんは東京、氷堂は京都だ。適応したダンジョン以外には入ることが出来ない。


 仮にゲスト機能を使用したとしても、それまで進んだ場所にしか行くことはできない。


 この場合、氷堂を連れて東京に入ったとしても、俺達が氷堂についていって京都に入ったとしても、深層に行けてもボスと戦うことは出来ないのだ。

 つまり、攻略が進まないことになる。


「否定」


 しかし、氷堂はそんな常識を二文字で否定した。


「私達は京都のTier1深層ボスを倒す」


 ざわつくコメント欄。氷堂はそれを気にすることなく、言葉を続ける。


「京都の深層に到達してから今まで、京都ダンジョンを攻略していないのには理由がある。

 私は、そもそもボスに挑むことすらできていない」


 氷堂がボスに挑めないくらい、深層は強いのか。

 いや、そうではないだろう。


「京都深層ボス部屋の扉を開ける条件は、

 東京のTier1をメインダンジョンとする探索者と共に開ける事」


 条件を聞いて、俺は思った。

 本当に、ダンジョンというのはどこまでも予測不可能だと。


 常識だと思わせていたことすら、ダンジョンの機嫌一つで変わるのだから。


「京都の深層ボス部屋だけはゲストでも入れる。

 京都の深層ボスを倒してもゲスト機能で倒したことになるので、メインダンジョンでの攻略にはならない。半年から一年の謹慎期間もない」


 確かにそういうことなら、俺達が氷堂について京都に行くことが出来る。

 しかし、それを受け入れられない層も一定数以上いる。


“でもそれって、モッチーの力を借りて京都を先にクリアするってことでしょ?”

“京都の方が元は攻略進んでいたけど、ようやく東京が追い付いたのに”

“うーん、京都が先になるってのは関東出身からするとなぁ……”


 東京と京都、二つのダンジョンはつねに京都が一歩先を進んでいた。

 けれどそれが先日、俺達の手によって並んだ。


 だからこそ、俺達の力を使って京都が攻略を終えることが気に食わないコメントもあるようだ。

 しかし、氷堂は一歩も引かない。


「私はここ数年、ずっと東京側を待っていた。東京のダンジョンに来ていたのもそのため。

 ようやく、待っていた人が来た。それに、東京のTier1深層に挑む前に京都の深層ボスに挑むのは良い経験になる」


 さらに氷堂は言葉を紡ぐ。


「もしもこの子たちがこのまま東京の深層をクリアした場合、その後に京都をメインダンジョンにしたら、いつまで経っても京都ダンジョンはクリアできない。

 京都の深層ボス部屋の条件は、東京の探索者と共に入ることだから」


「この件に関しては氷堂さんから以前に相談を受けていました。

 話を聞く限り、このタイミングで京都ダンジョンの深層ボスを攻略しないと、日本のダンジョン攻略は進まない、そう思いました」


 望月ちゃんの言葉には、俺も同意だ。

 京都のダンジョンにそういった事情がある以上は、このタイミングで京都を攻略する。


 そしてその後、強くなった俺達で東京をクリアする。

 その流れが、一番良い。


“確かに、その流れしかないように思えるなぁ”

“よくよく考えれば、京都も東京もモッチーが攻略するようなもんだろ?だったらよくね?”

“むしろそっちの方が俺達的には良いのでは?”

“モッチーの活躍が京都でも見れるってことか”

“長く見れるならどっちでもいいなぁ”

“ちょっとどうかなと思ったけど、そういうことなら、まぁ”

“京都が先だけど、モッチー達なら東京の深層攻略もすぐだろうし”

“氷堂さんがモッチー達をずっと待ってたっていうのもあると思うし、俺は賛成やで!”

“数年単位ってことは、かなり長い間待ってただろうしなぁ”


 視聴者達も、氷堂の説明を聞いて納得した人が多いようだ。

 京都攻略に肯定的な意見が多い。


 チラリと視線を竜乃に向けてみたが、彼女もまた頷いていた。

 京都の深層をクリアすることが良い経験になることが、彼女にも分かっているのだろう。


「なので次回以降は京都ダンジョンでの攻略になると思います」


「ゲストで入るから、上層からの攻略になる。

 でも施設とか地域にはいかなくていい。ボス部屋まで一直線。特急で深層ボス部屋まで」


“氷堂さん主導の上層から下層とか、一瞬で通り過ぎるだろ”

“特急を越えてリニアだろ”

“エレベーターかのように下に参ります!”


 コメント欄も京都の攻略に乗り気になったようだ。


(京都のダンジョンか……)


 もちろん、京都のダンジョンに行ったことはない。

 だから上層から下層までがどんな階層なのかは聞いたことがあるが、体験したことがない。


 どんな場所なのか。どんな敵が待ち受けるのか。楽しみだ。


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