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第150話 漆黒の雷

 ゲートを潜った先が下層ボスとの対戦だなんて、思ってもいなかった。

 ボスの能力が無限増殖だとは思わなかった。


 ボスに魔法が効かないなんて思わなかった。

 ボスを吹き飛ばすことが出来ないなんて、思わなかった。


 何が言いたいかというと。


『虎太郎! どうすんのよ!』


『やるしかないだろ!』


 俺達は完全に余裕を失っていた。

 この戦いに関して、どこで間違えたのかは分からないが、気づいたときにはほとんどが崩れていた。


 目の前を埋め尽くすほどの敵に襲われるという地獄絵図。

 出来ることは、例え意味がないとしても目に入る奴らの一部を倒すことだけ。


 俺は先ほどから頭の中で弾丸を込め、回している。

 竜乃だって休む間もなくブレスを吐いているし、望月ちゃんも絶えず支援魔法をかけてくれている。


 それでも状況は最悪だ。このままでは、物量に押しつぶされる。

 深海のフィールドには逃げ場などあるわけもなく、機器もない。


 この戦いで敗北することは死を意味する。


『くそ!!』


 紫電の爪で3体ほど消滅させながら、俺は苛立ちを隠さずに叫ぶ。

 消す数よりも増える数の方が多い。


 今となってはもう隙間がないのか、奴の上に奴が何体もいるような光景になっているくらいだ。

 景品をぎゅうぎゅう詰めにしたUFOキャッチャーかなにかか。


(冗談を考えている場合じゃない! なにか、なにか手はないのか!?)


 都合よく進化してくれと思うものの、俺はついさっき巨大なモンスターを倒して進化したばかり。

 この段階での進化は望めないだろう。


 持てる手札では活路を見いだせない。

 新しい道が見えてくる気配もない。絶体絶命の、窮地。


(そうだ! あの時の切り裂き!)


 そこに見えた一筋の光。

 巨大なモンスターを倒した最後の一撃は、今俺が振るっている攻撃とは感触が合致しない。


 あれが出来れば、もしかしたら。


(……ダメだ。仮にあれが絶対に敵を倒すようなチートみたいな攻撃だとしても、

 これだけの数を一気に倒すのは無理だ)


 しかし、光は消える。


 考えれば考える程に絶望的な状況だと悟ったその時。

 奴らに動きが出た。上下にもびっしりと敷き詰められた奴ら。その一部が消え、モンスターが現れる。


 最初に目に入ったのは赤い鳥だった。続いて白い虎に三つ足のタコのような姿。

 そのどれもが、この下層で倒したことのあるモンスターだ。


『どういうこと!? なんで急にモンスターが!』


「……融合して、新しいモンスターを作り出してる!?」


 竜乃の疑問にすぐに答えたのは、襲い掛かる奴らの内の一体を避けていた望月ちゃんだった。

 咄嗟に彼女を護るためにロックフォートレスを発動して壁とするものの、その壁も奴らは奴ら自身を足場にして越えてしまう。


 乗り越えてきた一体を切り裂き、遠くに見えるモンスターに対して範囲を狭めたトールハンマーを落とす。

 空を飛んでいた赤い鳥を雷撃は捉え、撃ち落とす。


 おそらくは望月ちゃんの言う通りなのだろう。

 こいつらは存在しない起源。ならその進化の先がフロアモンスターなのは想像に難くない。


 数を増やした奴らは、次のステージへ進んだ。それが自己進化ということか。


(こっちはさっきの状態でも打開策がなかったっていうのに!)


 おそらくだが、このフロアモンスターを無限に生み出すのが奴らの第二形態なのだろう。

 第一形態すら攻略していないのに、奴らは次のステージへと進んだ。


 止めを刺すために、念には念を入れて全力で。そんな思いが、垣間見えた気がした。

 けれどそこに、一筋の光を見た。


『フロアモンスターを魔法で撃破する!』 


 奴らには魔法は通じないが、奴らから出来たフロアモンスターには通じる。

 だから好きなだけ進化させれば、いつかは終わりが来る。


『全部のフロアモンスターを倒せば――』


 その考えが甘かったと悟ったのは、遠くで山を築いていた奴らが溶け、巨大なモンスターになったときだった。

 俺がついさっき倒したこの階層の中ボスともいえるような強敵。


 一体ではない。槍や弓を羽にするものや見たこともない大型のモンスター。

 そして散り散りに見えるものの軍団とも呼べる数のフロアモンスターに、おびただしい程の奴ら。


 この下層をここに閉じ込めたような、地獄。


『理奈!』


 ハッとして振り返れば、竜乃が望月ちゃんの前に出て壁になっていた。

 竜乃に集中する奴ら。望月ちゃんを助けるために身を挺して護った竜乃の表情が、苦痛に染まる。


 次の瞬間には、回り込んだ奴らの一体が、回復魔法をかけようとしていた望月ちゃんに圧し掛かった。

 一体、また一体と数を増やしていく。竜乃と望月ちゃんを押しつぶさんと、殺到する。


『やめろぉ!!』


 咆哮し、目の前の奴らの一部を消し飛ばして竜乃たちに走ろうとした。

 けれど道を塞いだ奴ら。体に衝撃を受ければ、体に触れる奴ら。


 右を見ても左を見ても、奴ら奴ら奴ら。

 数えきれないほどの奴らに押しつぶされ、俺は透明な床に伏せる。


 紫電を放っても奴らが分裂するだけで視界がどんどん狭くなる。

 たった一つの蒼い核と、赤い半透明の体で見えなくなる。


 まるで血に染まった世界。

 そんな中で、俺は床に伏して奴らに圧し掛かられている竜乃と望月ちゃんを見た。


 もう手段など選んでいられない。

 可能な限り弾丸を込め、全て回してやる。例え俺が獣に落ちようとも、知ったことか。


『お願い――』


 黒い電流が、走った。


(――――)


 絶句した。俺の目の前で、黄色い雷が走っている。

 望月ちゃんを中心に、護るように展開するのは彼女の使用する雷の上級魔法、ボルトゼロ。


 上層でも一度見た防御魔法は、望月ちゃんと竜乃を護るように展開し、僅かながら奴らを押しのけている。


 そしてその黄色い電流の中に、いくつかの黒い電流を見た。

 本当に少しだが、確かにそれは流れていて、間違いなく望月ちゃんから出ていた。


 懐かしい、感じがした。

 それを知っている、気がした。


 だから。


 全く淀みない思考回路で、俺は俺自身に命令を下す。

 放てと。


 望月ちゃんと竜乃に殺到する奴らに落ちる、漆黒の雷。

 トールハンマーと同じくらいの大きさの、しかし全く性質が異なる雷。


 魔法でも、遠距離攻撃でもない、それはそれとして落ちた。

 奴らの存在という概念を、文字通り消し飛ばした。


 望月ちゃんと竜乃を残して、奴らの無効化も分裂も許さず、無に帰した。


『消え、されええええええええ!!』


 咆哮し、放射状に黒い雷撃を放つ。雷撃は分裂し、俺が敵とみなした全てを貫いていく。

 奴らも、奴らが生み出したフロアモンスターさえも。


 分裂した奴らの核か体の一部を捉えるだけで、奴らが消える。

 分裂はしない。だってこの黒雷は、俺よりも弱いものを消すという性質をもっているから。


 最後に巨大なモンスターを包み込むほどに巨大な黒い雷を落とす。

 全てのモンスターを貫いた黒い雷撃により、敵が全て消える。


 あれだけ多く、数えることすら不可能だった敵の数が、一気に。

 赤かった景色は、深い青に戻る。


 漆黒の雷が過ぎ去った後には真っ青な深海のみが残り、赤は一つとして残ってはいなかった。


『はぁ……はぁ……はぁ……』


 肩で息をしていると、右側から音が聞こえた。

 首を動かしてそちらを見れば、ここに入ってくるときにみたゲートが広がっていた。


 俺達は、下層のボスに勝利したということなのだろう。


『やった! やったぞ望月ちゃ――』


 喜びを表現して望月ちゃんを見て、俺は言葉を止めた。

 彼女は信じられないものを見るような目で、俺を見つめていた。


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