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第15話 再び死闘、スールズの群れ

 俺が先日やっとの思いで倒したユニークモンスター「スールズ」。


 たった一体でもあれだけ苦戦したのに、数えきれないほどのそれらが俺を見ている。

 これが絶望の光景とでもいうのだろう。


 多数の強敵を相手に、望月ちゃんを護りながら戦わなくてはならない。

 その難関に、思わず冷や汗が流れた。


(やるしかない……)


 出し惜しみなんてしている場合じゃない。

 そう思った俺は魔法の準備をしながらスールズの群れの中へと飛び込んだ。


 本来なら距離を取ることで自分の安全を確保し、魔法で応戦するべきだ。

 あの時は無理だったが、進化した今の俺ならば魔法でもスールズにダメージを与えられるだろう。


 けれどそれを選択しなかった。相手に近づかれては、望月ちゃんが危ない。

 ここからは魔法ではなく、物理メインで戦うしかない。


 目の前のスールズに飛び掛かり、爪で鋭いひっかきを行う。

 進化によりスピードや威力も向上したために相手のスールズも対応が遅れ、胴体を深々と斬り裂くことができた。


 大ダメージを与えたが、まだ倒しきるには足りない。

 追撃をしようとするよりも前に、全身の毛が逆立つのを感じた。


(っ!)


 素早く右に跳べば、さっきまで居た場所に振り下ろされた別のスールズの腕が突き刺さる。

 さらに飛び退いた先ではこれまた別のスールズが横なぎに腕を振るっていた。


 それを身を屈めて避け、尻尾でそいつの左腕を強打する。

 腕の骨が折れる音が響き、すかさず腹目がけて頭突きをした。


 後ろに吹き飛ばされるスールズについていくかのように群れの中心に入り込む。

 これでいい。これなら望月ちゃんに危害は加わらない。


 逃げ場がないぞと言わんばかりに円を成し、じわじわと迫ってくるスールズを見て鼻で笑う。

 足元で倒れ、呻いているスールズの首筋に噛みつき、その肉を勢いよく噛み千切った。


『お前たちの相手は、俺だ』


 乱暴に噛み裂いた肉を吐き捨て、ニヤリと笑う。

 とても望月ちゃんには見せられない姿だが、スールズが壁となって俺は見えない。


 そんな俺の挑発に乗ったスールズは、モンスターらしく考えなしに飛び掛かってくる。


(かかった!)


 飛び掛かる一体のスールズの息の根を止める為に噛みつきで応戦。

 けれど次々と襲い掛かるスールズの前に、このまま押し切れると思わせたところで。


 俺を中心に大きな雷が一つ、降った。

 部屋の中なのに落雷が起きるはずもない。


 事前に準備していた雷の中級魔法、ボルテックスを発動させた。

 俺に落ちた雷は円状に広がり、多くのスールズを感電させ、俺に近い個体に関してはHPを全て奪い去った。


(流石は俺の魔法……効くな……)


 体に電流を走らせながら、俺は黒焦げになったスールズを踏みつける。

 スールズの魔法耐性は高いものの、それはあくまでも上層に挑む魔法職から見た場合だ。


 ユニークのスールズを倒してからさらに成長した俺ならば十分にダメージを与えられる。

 加えて俺の体は普通のモンスターのものとは思えない。


 魔法耐性に関してもスールズを越えていると予想しての賭けだったが、どうやら勝ったようだ。

 時間をかけて用意しただけに威力も高く、俺もなかなかのダメージを負ったが、まだまだ余力はある。


 痺れる体に鞭を打ち、転がっているスールズを次々と爪でとどめを刺していく。

 けれどスールズ達だってやられっぱなしじゃない。


 たった一匹のモンスターにここまでいいようにやられて、さらに仲間を何人も殺された彼らも黙っていない。


 感電から復帰したスールズが大きく息を吸うのが見えた。


(させるか!)


 雄たけびで俺の動きを封じようとしているのはすぐに気付いた。

 けれど同じ手を二回食らっては元探索者の名折れ。


 その雄たけびに合わせるように、俺もまた威嚇の雄たけびを放った。


 隠し部屋が揺れる程の轟音が木霊する。

 俺とスールズの発した音は互いに互いを食らいあうように何度も衝突し、消滅し、そして。


 俺の音はスールズ「達」の発する音によりかき消され、耳を貫いた。


(く……そっ……)


 硬直する体に、内心で舌打ちをする。

 一対一なら、いや一対三くらいであっても俺の方が勝っただろう。


 けれどこの部屋のスールズは数えきれないほど居る。

 それらのうちの多くが同時に咆哮したために、押し負けた。


 動きを止めてしまった俺にスールズは嬉々として飛び掛かり、爪を、牙を突き立ててくる。

 柔らかい白い毛に包まれた俺の皮膚を斬り裂き、乱暴に手足を押さえつけ。


 何度も何度も殴る蹴るを繰り返して。


『調子に……乗るな!』


 スールズの咆哮による体の不自由が解けるや否や、俺は素早く体を動かしてスールズ達を振りほどく。

 すぐにフレア・ソードの魔法で炎の剣を作り出し、飛び退いたスールズを地面に縫い付けた。


 そのスールズに飛び掛かり、牙を立てるものの、すぐに別のスールズに殴り飛ばされてしまった。


(くそっ……キリがない!)


 数が多すぎる。一対一ならば勝てるのが分かっているだけに、もどかしい。

 飛び掛かってきたスールズの攻撃を避けてその背中に爪を喰い込ませながら、俺は考える。


 気配を察知してその後背後を取った二体のスールズの攻撃は避けたものの。

 三体目に頬を殴られて体勢を崩されてしまった。


(もう一度、ボルテックスで……っ!)


 自分を巻き込む雷の用意を始める。

 あれならば、一気にスールズの数を減らせるはずだ。


 着地したときに襲い掛かってきたスールズの攻撃を避けて、奴の片方の足を尻尾で力の限り強打して転ばせる。

 倒れたところで前足を振り上げ、鋭い爪をスールズの心臓目がけて振り下ろした。


 十分な力を持つ俺の爪はスールズの固い肌と一緒に心臓をも貫いた。

 そして襲い掛かってくるであろうスールズ達を待ったが。


(? なんで追撃をしてこな――)


 何時まで経っても気配のない他のスールズ達を疑問に思い、俺は顔を上げる。

 それと同時、鼻先に水滴が落ちた。


 突如、全身に降り注ぐ豪雨。

 その全てが闇を表すほど黒くて、俺は奥歯を強く噛みしめるしかなかった。


 追撃できなかったのではない。しなかったのだ。

 闇の上級魔法、ブラックレインを放つために。


 それも一体がではなく、複数体が同時に放つことで視界を悪くするほどの雨を降らせている。


(これは……まずいな……)


 雨に打たれながら、俺は自分の力が制限されていることに焦りを覚え始めていた。

 多数の強敵を相手に、動きを制限されるのみならず、能力すら制限された。


 圧倒的な危機的状況を前に、俺は乾いた笑みを浮かべるしかできなかった。


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