表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/214

第142話 最悪との再会と、確実に目にした影

 集まっていく光に気づき、ラファエルも振り返る。

 現れたのは、神々しい光を放つ銀色の球体。


「Tier……0……」


「審判の……銀球……」


 エマと望月ちゃんが、その正体を口にする。

 世界で3体しか確認されていないうちの一体にして、俺達が以前出会った唯一のTier0。


 なぜフランスに……と考えたところで、すぐに合点が行った。

 Tier0はモンスターの中で唯一ダンジョンに縛られない。


 ゆえに日本の別のダンジョンはおろか、他国のダンジョンに出現することだってあり得る。


(だからって、なんで俺達の居るフランスのTier1に!)


 これが偶然なのか。それとも運命なのか。

 答えは分からないけれど、俺達は再び邂逅した。


 鐘の音が、鳴り響く。

 銀球の上には、光の文字盤が既に出現し、針も回転を開始している。


 審判は、もう始まっている。


(いや待て。前回は俺達しかいなかった。でも今回は……)


 視線を3人に向ける。氷堂、ラファエル、そしてエマ。

 今この場には、日本とフランスを代表する探索者が三人もいる。


 世界で確認されている3体のTier0。内の一体は既に討伐されているのは、有名な話だ。

 それを行ったのがアメリカの世界最強の探索者であることも。


 それならば、国内最強が三人も集まっている今ならば、逆にチャンスなのではないか。

 それに微力ではあるが俺達もいる。


 もしかしたらという期待を含めて、上空に立つラファエルを見上げ。

 俺は表情を凍らせた。


(なんだよ……その顔……)


 上空に立つラファエルはこれまでの余裕などは嘘のように霧散し、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 冷や汗をかいている姿すら幻視出来そうだ。


 首を動かして残りの二人を確認する。

 氷堂はいつも通りの無表情。一方でエマもまた、普段とは違いやや緊張した様子だ。


(まさか……この三人でも厳しいっていうのか?)


 一体どれだけTier0というのは化け物なのか。

 戦慄する俺を他所に、針は停止する。示した数字は「Ⅷ」の偶数だ。


 味方にこれだけの戦力が居ても消えない不安に必死に抗いながら、次の時を待つ。

 どんなことが起きても、望月ちゃんだけは護ると、そう心に言い聞かせて。


 しかし、音は止んだ。

 静まり返る金色の麦畑に再び光が集まり、3回りほど小さい白い球体が出現する。


 かつて俺達が討伐した、無垢の白球。


『……?』


 けれど、今回は不可解なことが3つあった。


 まずは円盤の針指した数字に関して。

 前回はこちらをおちょくる様に音とタイミングでどの数字なのかを惑わしてきたが、今回はかなりスムーズに数字が決まった。

 鐘の音も、そこまで大きくは響いていない。


 次に、無垢の白球が出現したにもかかわらず、審判の銀球は依然としてそこにいる。

 前回はすぐに消えたが、今回は何故かその場に留まっていた。


 最後に、視線を感じる。

 審判の銀球には当然目などない。けれど、あのTier0は何故か俺を見ているような、そんな気がした。


(一体どうなって――)


「心愛! エマ!」


 考えるよりも先に、怒号のように大きな声が響き渡る。

 ラファエルの声で、俺の前に立っていた二人の女性が同時に地面を蹴った。


 氷堂とエマの二人は一瞬で無垢の白球との距離を詰め、ラファエルも飛び立った。

 その様子を見て、俺も無意識に走り出していた。


 実力的に、まだラファエル達には及ばないのは頭ではよく分かっている。

 けれど今の審判の銀球を見て、なぜか飛び出さずにはいられなかった。


 視界の先で、エマと氷堂が目にも止まらぬ速さで剣とナイフを振るう。

 無垢の白球を挟むように、エマが右、氷堂が左。


 彼女達が無垢の白球を通り抜けると同時、奴が持つ2つの光の帯にいくつもの線が走り、切断される。

 それでは終わらずに、無垢の白球自体にも斜めに3本の線が走った。


 それぞれの切断面を見るに、エマが奴の2つの光帯をバラバラにし、氷堂が本体を斬り割いたのだろう。

 重力に従って、斜めにずれていく球体。HPが0になったのは言うまでもない。


(俺が紫電を習得してようやく倒せたあれを、簡単に――)


 彼女達の強さに驚けたのはそこまで。

 次の瞬間に、上空でラファエルが体を翻した。


 右手と左手を勢いよく回し、二本の槍を投げる。

 無垢の白球よりもさらに奥に跳んでいた彼の狙いは、審判の銀球の方だ。


 最初からラファエルは無垢の白球は氷堂たちに任せ、自身は審判の銀球を打ち破るつもりだったのだろう。


 天から襲い掛かる二本の槍には光と雷の魔力が見て取れる。

 槍はまっすぐに審判の銀球に向かい、先端が光の帯に触れると同時。


 世界を揺るがすほどの破滅の光が落ちる。

 光り輝き、帯電した、目を向けるだけでも眩い、まるで太陽のような柱。


 その柱を間近に見て、内部に魔力以外の何かがあることにも気づく。

 先ほどの光の柱にはなかった何かを、ラファエルは込めている。


 本来ならこの層のモンスターどころか、俺達が挑んでいる最中の下層のモンスターすら一撃で倒すほどの威力。

 俺の超級魔法よりも強力な一撃はしかし、届かない。


 銀球が頭上で交差させた8つの光の帯に、防がれている。

 交差部分は濃くなっていて見えにくいが、4つほどヒビが入っているように見える。


 けれど、打ち砕くにはまだ力が足りない。

 無垢の白球とは、訳が違う。そう思ったとき。


「コタロウ!」


 ラファエルの声を、聞いた。

 未だに光の柱は落ち続けているにもかかわらず、彼は俺の名を呼んだ。


 それは俺が審判の銀球目がけて駆けていることに気づいていたからだろう。


 頭の中で紫の弾丸を3発込め、1発回す。

 さらに加速し、審判の銀球目がけて突進。


 攻撃とみなした審判の銀球が、光の帯を動かそうとするのを確認。

 過去の無垢の白球との戦いを考えれば、防がれるのは必須だろう。


 しかしその動きは、やけに緩慢だった。


 激突。俺の頭突きが、銀球の本体に入る。

 俺の頭を伝って、紫の電流が銀球に走る。


『おおおおぉぉぉぉぉ!』


 2発回す。四肢に力をさらに入れ、視界を濃い紫色に染めながら轢き殺さんばかりに念を込める。

 今ここで、打ち砕く。


 やや銀球は後ろに後退。効いていることを確認し、俺はさらに3発の弾丸を込めた。

 ならここからは俺と銀球の勝負。


(ラファエルが繋いでくれたこのチャンスを――!?)


 回そうと思った。俺が獣に落ちる寸前まで、可能な限り戦おうと。

 しかしそうしようとした瞬間に光が審判の銀球を包み、先ほどまで俺の進行を妨げていた壁が消える。


『くそっ……』


 光に包まれながら薄くなる審判の銀球。

 そしてその残像をすり抜けながら、俺は逃がしたことを悔やんだ。


 全力で駆けていたために走りを止める事なんて出来ない。

 さらに審判の銀球はいなくなったので、止めてくれるものもない。


 かなり離れた場所に着地するのと、やや遠い背後で光の柱が雷鳴と共に地面に突き刺さる音を聞いたのは同時だった。

 衝撃波で全身の毛が遊ばれ、眩しすぎる光に視界を邪魔される。


 その中で、黒い影を見た。

 視界の先。遠くのさらにその向こう。金色の麦が揺れる、果て。


 とても小さい影を、獣の視力で捉えた。

 かつて茨城のTier2で出会った、スールズのようにも見えた。


(……?)


 姿を確認したのも束の間、まるで影は蜃気楼のように消える。

 そこに初めからいなかったように。俺の見間違いのように。


 けれど、その影は確実にそこにいた。

 いた……筈だ。


 理由を言うことはできないけれど、絶対にいたんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ