第13話 浅倉、お前は不合格だ
浅倉と望月ちゃんの二人はダンジョンの上層を進んでいく。
その足取りは望月ちゃん一人だった頃に比べて軽快で、速い。
浅倉が先陣を切り、望月ちゃんが後からついていく形だ。
けれど浅倉は時折後ろを確認している様子もある。
そうして奥へと進んでいれば、そのうち必ず行く手を塞ぐものに出会う。
灰色の毛並みをした狼型のモンスター、アッシュ・ハウンドだ。
数は三匹。さらにパラメーターも高く、グリズリー・ベアのような強敵だ。
(さて、あの浅倉とかいう人物がどれだけできるのか……見せてもらおうか)
望月ちゃんが驚いた以上、レベルは高いのだろう。
その力で華麗にモンスターを倒すことになるのは癪だが、望月ちゃんが危険に晒されないのならばそれでいい。
「理奈ちゃん、敵だよ。じゃ、前よろしく」
「……え?」
(……は?)
俺と望月ちゃんの気持ちは一つになったに違いない。
浅倉は敵を前にして、急に望月ちゃんを前に出そうとしたのだ。
「えって、さっきも見せたけど俺弓使いだからさ。前衛は張れないんだよ」
「で、ですが……」
「ここまで来るのにモンスターと二人で戦ってきたなら出来るでしょ?
俺が後ろから手厚く援護するから、よろしくー」
「……は、はい」
沈んだ声を出して前へと進み出る望月ちゃんと竜乃。
その二人を見ながら、俺はその会話を信じられない気持ちで聞いていた。
(……なんだよそれ)
浅倉の言っていることは一部正しい。
弓使いは確かに後衛の職業で、前衛が居ることで真価を発揮することが多い。
一方でソロの弓使いはそれらとは戦い方が根本的に異なる。
高い俊敏や良い目を生かして、戦場を駆けまわりながら的確に敵の急所を射抜き、倒すのが特徴だ。
一人でダンジョンに潜っている浅倉もそのパターンだと思ったのだが。
「た、竜乃ちゃん……ご、ごめんね……おねがい……」
震える手で望月ちゃんは竜乃に指示を出し、白い竜はアッシュ・ハウンド達を威嚇する。
竜乃が敵に突っ込めば、それが開始の合図となる。
飛び交う魔法や打撃。牙や爪による攻撃。
その全てを竜乃は一身に受けて、望月ちゃんの魔法で回復しながらギリギリの戦いを行っていく。
(……酷い戦いだ)
浅倉の実力は確かに望月ちゃんよりは高いだろう。
けれどそれはあくまでも上層で通用する程度。
そして彼は竜乃がボロボロになってもなお、その場から矢を放っているだけだった。
そこにはソロでダンジョンを攻略する弓使いの姿など1ミリも見えない。
(これまでパーティで潜ってきた弓使いじゃないか。くそっ!)
内心で舌打ちをして俺はウィンドカッターを放つ。
このままでは竜乃が予想以上に大きなダメージを受ける。
ただでさえゆったりとしたペースで、望月ちゃん達のレベルを考慮した攻略を行っていたのだ。
それが浅倉によって潰された今、竜乃が死んでもおかしくない。
焦りで放った魔法だがアッシュ・ハウンドの動きを止め、そこに浅倉の矢が入る。
少し考えなしに放ってしまったために、バレるかもしれないと危機感を持ったが。
「ひゅー、今日は調子が良いな」
どうやら無用な心配だったようだ。
自分の力だと思っているらしく、浅倉はこの状況に酔ってしまっている。
結局その後は3体のアッシュ・ハウンドを討伐することに成功した。
決め手はほとんどが浅倉の矢による攻撃。(俺の魔法によるダメージも多い)
望月ちゃんは竜乃のサポートが精いっぱいで、竜乃は防戦一方だった。
遠くから見ている限り、囮のようにしか思えなかった。
「竜乃ちゃん……酷い怪我……」
戦闘終了後、望月ちゃんはすぐに竜乃の手当てを行う。
浅倉から貰った自分用の薬も、惜しむことなく使っていた。
竜乃はまだ戦えはするものの、昨日までのどの戦いよりもダメージが大きい。
「おつかれー、理奈ちゃん。初めてにしては良い感じだったねー」
しかし浅倉は今の戦いが完璧だったと思っているようで、雰囲気が明るい。
それを見て、俺の中で怒りが少しずつ沸いてきた。
(……俺が無理やりにでも敵対して、パーティを解散させるべきか)
浅倉がきちんとしたソロの弓使いで、望月ちゃん達の事を考えてくれるなら良かった。
望月ちゃんがソロでダンジョンに潜るのはどうしても危険が伴う。
そんな彼女を支え、護ってくれる人ならば悔しいけど、本当に悔しいけど認めざるを得ない。
望月ちゃんが幸せならそれで良いと思った。
けれど今のを見て確信した。こいつは、ダメだ。
(良い感じに進んでいるように見えるのはお前だけだ。
竜乃と望月ちゃんがモンスターを食い止めてくれるんだから、お前は打ちたい放題だろうさ)
戦闘においては明らかに望月ちゃん達が割を食っている。
これなら、昨日までの探索の方がまだマシだった。
「あ……はい……ありがとう……ございました」
回復し、元気に宙に浮かんだ竜乃を見て望月ちゃんが浅倉に返事をする。
彼女は言葉に元気がないが、パーティを解散しようとは言わないようだった。
浅倉に助けられたという負い目に、もう既にパーティを組んでいるという事実。
それに実際にソロで潜るよりは浅倉と組んだ方が良いのではないかという考えが彼女の中にあるのだろう。
それに竜乃も遠くから見ていると、「私は大丈夫」と望月ちゃんに言っているような気さえする。
今も望月ちゃんのことを、白い竜はまっすぐに見つめていた。
(でも……こんなのができるのは上層までだ)
もっと先を見据えれば、今すぐパーティを解消した方が良い。
今は何とか回っているが、テイマーを前衛に置くような編成を平然と行う探索者の先などたかが知れている。
経験と知識が圧倒的に不足しているのは否めない。
浅倉の事を、少し才能があり、周りに恵まれていたために勘違いしてここまで来てしまった子供のようにしか思えなかった。
「うーん、やっぱり理奈ちゃんのモンスターの怪我が激しいな……」
「……竜乃ちゃんです」
先ほどから望月ちゃんは進言しているのだが、一向に聞き入れる気は無さそうだ。
浅倉の中では竜乃は使える駒程度にしか考えられていないのではないか。
「でも損傷が激しいのはそうです。だから――」
「でも攻撃力は十分だから、この調子なら中層も行けるかも」
告げられた浅倉の言葉に、望月ちゃんが目を見開いた。
そしてそれは、俺も同じ。
(なにを言ってるんだ……この馬鹿……)
到底そんな意見を受け入れられない望月ちゃんは、浅倉に食って掛かる。
「何言ってるんですか! 今でさえ竜乃ちゃんは限界です! それなのに中層なんて!」
「もちろん今すぐじゃないよ。もっと君のレベルを上げてからさ」
「だからって」
「理奈ちゃん」
ポンッと望月ちゃんの肩に手を置く浅倉。
「中層に行ければ君のレベルもどんどん上がる。
そしてそれはテイムしているモンスターもそうだ。
それにある程度は危険を冒さないと探索者は成長できないだろ?」
「……そ、それは……」
「俺は理奈ちゃんよりも先輩だからさ……俺の言う通りに行動していれば強くなるよ」
(…………)
浅倉の発言にはらわたが煮えくり返りそうだった。
確かに中層に行けばレベルアップは捗るだろうし、探索者は危険な職業である。
これらは本当だ。けれど危険を冒さないと成長できないのは少し意味合いが違う。
探索者に必要な心意気は危険をある程度コントロールする力だ。
その上で迎える予想できる範囲の危険を越えてこそ、冒険者は成長できる。
今のような不安定な状態で、中層という危険地帯に突っ込むことでは決してない。
(それに……この二人じゃ無理だ)
浅倉は確かに望月ちゃんよりもレベルが高い。
けれど先ほどの戦いを見る限りでは、二人合わせても中層では歯が立たない。
逃げ帰るか、そのまま死ぬのがオチだ。
別に浅倉が死ぬのはどうでもいいが、望月ちゃんを巻き込むことだけは許せない。
(望月ちゃんが危険に晒されるくらいなら)
右前脚を痛いほど強く握る。
次第に心が傾いていくのが、自分でも分かった。
これまで探索者を敵とみなしたことはなかった。
姿かたちがモンスターになろうとも、心は人間だ。決して獣ではない。
人を襲わない。それが今の俺が定めた暗黙のルールだった。
けれど今、俺の中の怒りがその決まりを破ろうとしている。
望月ちゃんを護るためならば、あいつが消えるのも仕方ないことではないか。
ジャマ――
「うわっ!」
視界から浅倉が急に消えたことで、すっと頭を満たしていた赤が褪せていった。
よく見てみれば、壁に手をついていた浅倉は体勢を崩し、「壁の中に」倒れていた。
「いてて……なんだよ……」
「あ、浅倉さん……これ……」
「ん?」
震える望月ちゃんの声。
彼らが発見したモノを見て、俺は言葉を失っていた。
それは少し前に俺が攻略していた隠し部屋と、全く同じものだった。




