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第130話 これまでとは違う場所

 灰となって消え去り、ただ戦利品だけを残していくモンスター。

 竜乃のブレスで戦いは終わりを告げ、後には戦いの後の穏やかな雰囲気が戻ってくる。


 背後を確認すれば、望月ちゃんが微笑んでくれた。その姿には傷一つ見当たらない。

 横で浮かんでいる配信ドローンは光が点灯していて、正常に動いているのが見受けられる。


 原始の精霊との戦いとは違い、配信カメラドローンが傷つくようなことはなかったので、壊れてはいなさそうだ。


“ナイス勝利!”

“祝、初勝利!”

“さっすが虎太郎の旦那だぜ!”

“敵が2体でもほぼ無傷の勝利。これがモッチーよなぁ”

“安定感が違いますよぉ!”

“未踏の土地がなんだってんだ。モッチー達の敵じゃないぜえええ!”


 快勝に、視聴者達のボルテージもマックスなようだ。

 コメントの流れる速度もいつもよりも速い。


「……うーん、そんなに良さげなものは落ちていないですね」


 モンスターが居なくなった場所に落ちた戦利品を見ながら、望月ちゃんはそう呟く。

 下層にはなったものの、相手は所詮、フロアモンスター。


 戦利品が極端に良いものになるわけではないようで、順に拾い上げながら戦利品をストレージへと収めていく。

 その後ろには配信ドローンが追従しているが、あの人形の姿はない。


 探してみると、先ほどまで望月ちゃんが立っていた場所のすぐそばに人形は佇んでいた。


(……望月ちゃんについてくるわけではないのか。俺達についてくるのか?)


 探索者としての望月ちゃんではなく、集団としての俺達についてくるということだろうか。


(戦闘開始時から動いていないようだし、何かしたような様子もない。本当にただついてくるだけなのか?)


 相変わらず気味は悪いが、今のところ無害な存在だ。

 もしも何かするつもりなら、先ほどの戦いのときにしているはずだろう。


「うーん、やっぱり虎太郎君はすっごく強いですけど、私と竜乃ちゃんはレベル不足ですね。

 けど今の戦いでレベルが上がったので、Tier2下層と同じようにその内フロアモンスターにも優位に立てると思います」


 戦利品の収集を終えた望月ちゃんの一言。

 そちらを向けば、彼女は配信ドローンについて戦況を説明していた。


“流石にまだ虎太郎の旦那頼みやね”

“これから強くなって、旦那の負担を減らそう!”

“モッチーが強くなれば竜乃の姉御も強くなる。そうなれば皆が強くなる”

“これだからモッチーの探索は見るのを辞められない!”

“虎太郎の旦那、パワーレベリング頼みます!”


『虎太郎、しばらくは迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼むわ。

 すぐに追いついて、力になるから』


 左側からゆっくりと近づいてきた竜乃にそう声をかけられ、俺は不敵に笑った。


『なるべく早くしてくれよ、相棒』


『あら、元気ね。その様子ならまだまだ負担をかけても大丈夫そうね』


『お前なぁ……』


 相変わらず良い性格をしている竜乃に苦笑いを返せば、『冗談よ』と、ふふん、と笑われてしまった。

 全く困ったものである。


「……尊い」


“モッチー、見てないで丘に行こうよー”

“そうだよー、またしばらく止まっちゃうよー”

“今の感動なら今後の雑談で聞くから、今はトリップしてないで先へ進もう”


 望月ちゃんとコメント欄がそんな様子になっているとは知らない俺は、再び人形へと視線を向ける。

 やはりこの人形、反応はないようだ。


 気にはなるものの、俺達の目的地はこの先の高い丘。

 俺は人形から視線を外し、先陣を切って丘を目指し始めた。


 第四の気配は、これまでと同じように俺達についてきているようだった。




 ×××




 その後は特に大きな問題はなく、俺達は丘へとたどり着くことが出来た。

 道の途中にはモンスターもいたものの、レベルが極端に高いものは出現しなかった。


 基本的には俺が多くを担当し、倒せるものは竜乃に倒してもらう。

 そうすることで望月ちゃんのレベルを上げることもできた。


 遭遇したのはいずれも見たことのないモンスターばかりで、望月ちゃんがモンスターチェッカーを起動していた。

 起動させるたびにモンスターチェッカーを介してデータが登録されると考えると、不思議な感覚ではある。


 その間、人形はこれまで通り何の反応も返すことなく、ただじっと俺達の後をついてくるだけだった。


 丘の頂上にも近づいた辺りで、俺は背後を振り向く。

 最後尾には、人形の姿が依然としてある。


(本当……どうなっているんだか……)


 傷一つない人形の姿を確認し、俺は内心で溜息を吐いた。

 丘を登る道はやや狭かったために、敵の攻撃が人形に当たる場面もあった。


 けれど人形はやはり傷一つ負っていない。

 俺の攻撃のみならず、モンスターの攻撃も通用しない。


 この人形が一体何なのか、ますます分からなくなってきていた。


「ふぅ、これでやっと丘の頂上……」


 登りきったところで、望月ちゃんは言葉を詰まらせた。

 やや高い丘は下層を見渡すには十分な高さだった。


 下層を覆いつくす木々。広い森林は下層の全域にわたり、かなり遠くで木々が消える。

 おそらくあれが下層の果てではないだろうか。どうやら下層の果てまで見えているようだ。


 とはいえそれは俺達が進んできた方だけで、奥の方は歪んでいて見ることが出来ない。

 果ての角度を観察するに、大きさ的には上層と同じくらいだろうか。少なくとも中層程広くはなさそうだ。


 けれど望月ちゃんが驚いたのはそこではなく、下層が「森林のみ」で構成されていたからだろう。

 右を見ても、左を見ても、広大な森林が広がるばかり。


(……どうなっている? どうして森林しかない? 施設は……どれだ?)


 目に見える範囲で施設のようなものは見当たらない。

 木々で隠れているのかもしれないが、少なくとも巨大な構造物や地域と呼べるようなものはなさそうだ。


「……これ、どこに行けば?」


 望月ちゃんの疑問は最もだ。これまでは施設や地域に行って中ボスを倒し、その後に階層のボスに挑んだ。

 けれどここには、その施設も、地域もないように見える。


“施設、なくない?”

“施設どころか、全部森で地域っぽいものもないな”

“山とかもないな。森で埋め尽くされているとか?”

“地下の洞窟とかが施設だったりするんだろうか?”

“中ボスとかなくて、いきなりボスに挑めるんじゃね?”

“もし階層ボスに挑めるなら楽ではあるけど、レベルやばくない?”


 コメント欄も困惑している声が多めだ。こんなことは、今までになかった。


“キミー:とりあえず、下層を探索しながら施設や地域を探すしかないんじゃないかな。

 ただ、急に階層ボスと出会うかもしれないから、そこは要注意だよ”


「ありがとうございます、優さん。そうですよね。まずは探してみないと……。

 ちょっと予測できないことが多くて、混乱しています……」


 チラリと背後の人形に目線を投げて、望月ちゃんはそう言う。

 この状況では無理もない、そう思った瞬間。


 視界の端で、何かが動いた。


(……ん?)


 遥か先で、何かが太陽の光を反射したようだ。

 一度のみならず、数回反射しているように見える。


 一体何なのか、目を凝らして見る。


(……剣?)


 木々の間から出てきたのは巨大な刃。

 それが木々の間に沈み、そしてまたしばらくして出てくる。


 俺達から見て遠くへと移動していく刃。

 それは波のように遠ざかり、視界からも消えていってしまった。


 あれは、何だったのだろうか。

 もしも剣だとするなら、大きさは一つの木々にも匹敵するだろう。


「……あ、機器がありますね。今日はこれくらいにして、続きは明日にしましょうか。

 明日はもう少しこの下層を探ってみますね」


 望月ちゃんの声を聞いて、視線を遠くから外す。

 今日はここまで。この下層の探索は、明日にするとしよう。


 そう思いつつも、俺の内心ではあの刃の正体について、答えのない疑問を問い続けていた。


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