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第129話 Tier1下層、初戦

 高い丘に向けて、俺達は歩みを進める。

 気配は俺を含めて四つ。俺と望月ちゃんと竜乃。


 そして人形だ。


 背後をついてくる人形が気になるのか、時折望月ちゃんが後ろを確認しているのが分かる。

 人形はほんの少しだけ地面から浮いていて、歩くのではなく水平移動するように動くので足音も聞こえない。


 すーっと移動してくる様子がまるで幽霊のようだと思ったのは、俺だけではないだろう。


“本当にどこまでもついてくるなこいつ……”

“さっきからずっと見張ってるけど、マジで移動しているだけで顔色一つ変わらん”

“最初になんか言ってたような気がしたけど、なんて言ってたんだろう?”


 チラリとコメントを見て、最後に目にしたものに内心で返事をする。


(あのとき……認証って言ってたな……)


 認証……探索者であることの認証だろうか?

 そうなると第三の目が見たのは俺だったから、俺が探索者ではないから認証されなかったということか?


 いや、それなら認証失敗というような事を言ってくれるのではないかと考え、その考えを否定した。


 ――ザッ


 進む方向に気配を感じ、俺は警戒心を最大に高める。お客さんのようだ。


 行く手を遮ったのは、3体のモンスター。

 全身を鱗でおおわれた円柱型のモンスターに、くの字に曲がった6枚の羽根を超振動させる蟲のようなモンスター。そして現実世界にもいる牛を連想とさせる、しかし角は一本で全身が朱色に黒の斑点のあるモンスターだ。


 いずれも、現実世界では目にしたもののない生物。

 その強さは、どれほどのものか。


 ピコンッ、という音が響く。望月ちゃんがモンスターチェッカーを起動したようだ。


「……3体のレベルは左から810、822、816だね。下層の序盤だから、そんなにレベルが高いのはいないみたい。でも竜乃ちゃんも虎太郎君も注意して……何をしてくるか、分からないよ」


 俺達の体を白い光が包み込む。

 望月ちゃんの力を受けて、準備が整った俺は地面を力強く蹴りつけた。


 目標は、目の前にいる牛のようなモンスター。

 体に紫電を纏わせ、右前脚の爪にも通電させる。


 間合いに入り、一閃。

 それに対して牛型のモンスターも首を力強く振るって、一本角で応戦。


 爪と角がぶつかり合い、キンッ、という甲高い音を立てた。

 そのまま後ろの二本の脚にも力を入れ、押し返すように力任せに振り抜く。


 爪は角に対して力で押し勝ち、牛の体ごと吹き飛ばした。

 巨体は宙を舞い、巨大な樹木に激突して土埃に包まれる。


『墜ちろ!』


 鱗のある円柱状のモンスターは竜乃がブレスで対応しているので無視し、俺は6本羽の奇妙な形の虫に対して魔法を行使する。

 線が高速で蟲の真下の地面に走り、円を形成するや否や、その範囲に雷が面で落ちる。


 事前に準備していた雷の上級魔法、トールハンマー。

 今回は範囲を縮小する代わりに発動速度を上げ、同時に威力もやや高めた改良版だ。


 蟲型のモンスターに飛んで逃げられては困るので先手を打つことにしたのだが、それは上手くいったようだ。

 蟲の背に、雷の面が押しつぶすかのように落ちたのを目視する。


 まるでプレス機に押しつぶされるかのように、黄色い閃光により蟲型のモンスターは地面に伏すことになる。

 そしてそのまま、まばゆい光に包まれて見えなくなってしまった。


『おっと』


 風を切る音を感じ、その場から飛び退けば刃か何かが飛んできていた。

 それは先ほどまで俺が立っていたところに突き刺さる。


 地面に立つ形で刺さったのは、真っ黒な鱗。

 竜乃が相手をしている鱗に包まれた円柱状のモンスターによるものだろう。


 視線を向ければ、赤と蒼の炎に包まれながらも、竜乃に向かって鱗を飛ばしているようだ。

 竜乃も必死に避けているが、ブレスを吐きながらでは避けきるのが難しいのか、数発受けてしまっているようだ。


 流石は下層のモンスター。楽には倒させてはくれないようである。

 少なくとも、竜乃と鱗型のモンスターに関しては竜乃が有利だが、もう少し時間がかかりそうだ。


(流石にタフだな……)


 大樹の側で前足で地面を蹴る牛型のモンスターを見ながら、内心で舌打ちをする。

 赤い牛の角には俺の爪によるへこみが見られるし、体にも傷がある。


 けれど血走った目の闘気は、まだ消えていない。

 耐久力は中層までのモンスターの比ではない。この様子では蟲型のモンスターも、まだ生きているとみて間違いないだろう。


(一体は竜乃に任せるとして、あとの二体くらいは無傷で完封しないとな)


 戦いが長引き、かつ俺や竜乃が重傷を負えばこの下層探索自体が危うい。

 この一連の戦いの中で、俺だけはこいつらよりも強いことが分かった。


 だからこそ、望月ちゃん達を引っ張るのは俺の役目だ。


 体の後ろに光の剣を出現させ、投擲。三つの剣は切っ先を牛型のモンスターに向け、殺到する。

 けれどその前に、牛は地面を力強く蹴った。


 闘牛を思わせるような突進は速く、スピードに乗った一本角が全てを突き刺す強力な一撃へと変わったことを察知。

飛来する光の剣を掻い潜り、こちらへと迫ってくる。

 けれど、中層でユニークの白い虎程速くはない。


 十分惹きつけた後に左に飛んで突進を避け、左の前脚と後ろ脚に力を込めて地面を蹴り、体から牛の側面にぶつかった。


『うぉっ』


 牛の勢いに押されてやや後ろに流されそうになるが、必死に堪える。

 一方で牛は俺の体当たりを受けて進路をやや左にずらされ、木に向かって突っ込むような形になった。


 その様子を見て、体内で魔力を練り上げ始める。


『っ!』


 視線の先にトールハンマーの一撃から回復した蟲が羽を超高速で振動させているのを確認。

 体には電流が未だに流れていて、かなりダメージを受けているようだが、まだ戦えるようだ。


 何かをしてくる気配を察知して、右前脚を地面に叩きつける。体内の魔力の内、数割を使用する。

 大地から、低い角度で岩の槍がいくつも飛び立った。


 地の中級魔法、ロックランス。

 俺の魔力を受けて強化された槍が、蟲の放ったいくつものかまいたちをかき消しながら蟲に迫る。


 飛来する無数の岩の槍を避けるために蟲は素早く左右に動く。

 それを見ながら、俺も前に出た。


 全速力で、岩の槍に追いつくくらいのスピードで駆ける。

 途中で放たれたかまいたちも、どこからか飛来した鱗も避けて素早く。


 数個の岩の槍を避けるものの、内1発の岩の槍が蟲型のモンスターに直撃する。

 それを見て、俺はさらに加速した。


 そのまま蟲の横をすり抜けるように跳びながら、右の前脚を素早く振るう。

 爪は正確に蟲の右の羽根の付け根を捉え、三つの羽根を切り裂いた。


 バランスを失った蟲に、何発も岩の槍が命中する音を聞く。

 その音を聞きながら振り返り、体内で魔力を練り上げる作業を速めていく。


 HPを削り切られ、崩れるように落ちていく蟲型のモンスター。

 その向こうの大樹の前で前足を動かす牛型のモンスターが見える。


 一体はもう倒した。なら次は、お前だ。

 体を一回だけ上下に大きく動かし、牛が突進の態勢に入る。


 それを確認した瞬間に、魔力を解放した。


『焼肉にしてやるぜ!』


 炎の上級魔法、イグニッション。

 牛の行く手を阻むように地面から打ち上げられた焔の柱。


 急ごしらえのために範囲はやや狭いが、牛相手には十分だ。

 これまでの戦いの中で、あの牛は突進中に急に方向転換できないことを知っているから。


 自ら炎に突っ込み、その体を燃やされる牛。

 下から吹き上がる炎の威力で足を一瞬でも止めてしまったのが運の尽き。


 超火力で焼かれ続ける、永劫の地獄が完成する。

 イグニッションの火力は衰えることなく、牛型のモンスターが真っ黒な肉塊になり、そして灰になって崩れていくまで続いた。


 その過程をある程度まで見届け、もう終わったとばかりに視線を外して最後の一体に目を向ける。


(勝ったな)


 残っているのは、竜乃の放つブレスに焼かれ続けたせいか、すでにボロボロ状態のモンスターのみ。

 対してこちらは誰も大したダメージを受けていない。


 油断をしているわけではないが、このまま押し切るつもりの俺は魔法の詠唱を始める。

 最後のあがきとして鱗を飛ばす量を増やしたモンスターだったが、効果はない。


 最終的に、風の魔法で竜乃のブレスの威力を強めさせ、最後のモンスターのHPも削り切った。

 こうして、俺達の下層の初戦は、華々しい快勝で幕を閉じた。


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