第126話 心の準備を終え、明日へ
“シークレットスキルか、ちょっと聞いてみたいかも”
“でもモッチーは自分のシークレットスキル分からないんじゃないの?”
“シークレットスキルって探索者本人も分からないんじゃなかったっけ?”
望月ちゃんが最後の話題を決めたことで、コメントの内容がシークレットスキル一色になる。
「はい、シークレットスキルについては持っている人でも正確な効果は分かりません。
私も所持しているとは思うのですが、大まかな内容しか分かりませんね」
“モッチーの場合、テイムモンスターを強くするとかだよね”
“よく虎太郎の旦那や竜乃の姉御が光ってるの目にする”
“他のテイマー見たことあるけど、あんなに白く光ってはいなかったからシークレットスキルなんだろうなと思ってたわ”
“配信で見慣れたから忘れそうになるけど、そもそも2体のモンスターと契約できていること自体がシークレットスキルだしな”
“そのシークレットスキルって、最初から持ってたん? それともどこかで手に入れたん?”
視聴者の内の一人が、気になる質問を投げた。
望月ちゃんは顎に手の甲を持っていき、目を瞑って首を傾げる。
「うーん、最初から持っていたのかもしれませんね。
ただ、虎太郎君とも繋がれると分かったのはTier2上層でしたし、虎太郎君が白く光ったのもその時が最初でしたから、それ以前のTier3の時はそもそも発揮する機会がなかったのかもしれません。
少なくとも、モンスターを倒して手に入れた、とかではないですよ」
モンスターがスキルをドロップするという話は聞いたことがない。
ひょっとしたら、どこかにそういったモンスターが居る可能性もあるかもしれないが、確率は低いと見ていいだろう。
“最初から持ってて、どっかのタイミングで目覚めるって考えた方が妥当か”
“モッチーの場合は、持ってたシークレットスキルが目覚めたのが虎太郎の旦那との出会いのタイミングだったのかも”
“虎太郎の旦那と出会ったときは配信してなかったから分からないけど、話しているのを聞いた感じだと結構ピンチだったんでしょ? 目覚めてよかった”
“むしろピンチでシークレットスキルに目覚めるのはとても熱いわ”
「はい。もう本当に虎太郎君が来てくれて助かりました。
あのときの虎太郎君……今思い出してもカッコよくて……」
ニッコニコ笑顔で俺を撫でてくれる望月ちゃん。
コメントでは望月ちゃんのシークレットスキルが目覚めたことに言及していたが、彼女の頭の中はもうスールズの群れに突っ込んだ俺でいっぱいだろう。
(あぁ、とても良いんじゃー)
撫でられながら内心でほっこりしているのは俺です。
望月ちゃんは俺を撫でることを継続しつつ、思い出したように配信カメラの方を向いた。
「あと、竜乃ちゃんもシークレットスキル持っていますね。
スキルを確認できるのですが、そこに蒼い炎のようなものがないので」
“竜乃の姉御はクイーン戦で覚醒したからなぁ”
“つーか、シークレットスキルってテイムモンスターに発現するの? モッチー以外聞いたことない”
“竜乃の姉御以外にテイムモンスターでシークレットスキル持ってるのっていなかった気がするわ”
“これもモッチーだけの強みよなぁ”
“やっぱり最初からシークレットスキルを所持していて、後から覚醒する感じなのかな?”
“ってことは、これを見ている視聴者も、皆シークレットスキルを持ってはいるかもしれないってことか”
「シークレットスキルはいずれも強力ですからね。
上位の探索者さんは持っている人が多いですよ。
私の知っている限りだと、愛花さん達も所持していた筈です。詳細は分かりませんが」
シークレットスキルはそれぞれが固有のスキルでかつ強力なものが多い。
普通の探索者と違う戦いをしている探索者は全員これを所持していると見ていいだろう。
かつての俺も一応所持しているかなと思う場面は何回かあったが、その前に成長限界を迎えつつあったので、先はないようなものだった。
(望月ちゃんのような特定の職業に適したシークレットスキルなら、その先があったんだろうな)
意味のないもしも、について考えていると撫でてくれる望月ちゃんの手が止まる。
「うーん、虎太郎君はもう全部が凄いので、正直どれがシークレットスキルなのか分からないですね。
私の方からは虎太郎君の情報は見れないので、ひょっとしたらまだ目覚めていないのかもしれません」
望月ちゃんを見上げ、次にコメント欄に目を向ける。
“虎太郎の旦那、最強”
“ミステリアスな獣、痺れるわー”
“魔法がものすごく使えることも、紫色の電流のことも、体を覆う紫色のオーラも、全部シークレットスキルに見える”
“実際虎太郎の旦那、やってることシークレットスキル持ちの探索者よりもやべえからなぁ”
“結構最初の方から配信追ってるけど、大きさもだんだん大きくなってるし、まだ進化段階なのが恐ろしいわww”
(なるほど、竜乃の話が一段落着いたから俺の話になったのか)
そう思い、視線を望月ちゃんに戻す。
「……んー? 虎太郎君の事、皆が凄いねーって言ってくれてるよ」
ニコニコ笑顔でなでなでを再開してくれる望月ちゃん。
それはそれで良いし、是非とも続けていて欲しいのだが。
俺に目を向ける前のコメント欄に目を向ける彼女は、どこか寂しげだった。
別に俺や配信を見てくれている視聴者に向けたものでないとは思う。
その目はどこか遠くを見ていて、寂しさの中に悲しみもあったような、そんな気がした。
あくまでも一瞬見えただけだったので、確信はないが。
「あっ、やっぱり氷堂さんもシークレットスキル持っているんですね」
当の本人は先ほどの様子など露ほども見せず、配信のコメント対応に夢中だ。
今も氷堂が返信をしてくれたみたいだ。
“ココア:当然”
“なんだろう、すっげえドヤ顔しているような感じなのに、頭に浮かぶのがあの怖い光景だから…”
“ギャップが凄くて頭おかしくなりそうw”
“この人……この人……うん、なんでもないです”
“そりゃあ氷堂さんもシークレットスキル持ってるよなっていう”
コメントを一通り見て、望月ちゃんは手のひらをパンッと軽く叩いた。
「シークレットスキルについてはこんなところですかね。時間も良い感じになったので、今日はここら辺にしようかなと思います。
あ、氷堂さん、色々とコメントしてくださって本当にありがとうございました」
“ココア:気にしなくていい”
“おつかれー”
“おつかれさまー”
“次回を楽しみにしてるで!”
“明日に向けて今日はしっかり休むんだよ!”
「はい! では明日から下層探索、頑張りますね!」
氷堂からの刺激で、気合は十分。
明日からの下層探索に期待を寄せられつつ、望月ちゃんは配信を切る。
配信を切っても、まだその目には熱意が宿っていた。