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第12話 グルルルゥゥ(声にならない苛つき)

(うがあああああぁぁぁぁぁ!!!)


 抑えられない感情により、内心で叫ぶ。


(うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉお……)


 もしも流せるのなら、血の涙を流しているだろう。

 相変わらず茂みに隠れている俺がそんな状態なのは、当然あの子に関することだ。


 最悪の日というのは、こういう日のことを言うのだろう。

 視界の先で、イケメンがあの子に手を差し伸ばし、起こした。


「危なかったね。大丈夫? 俺は浅倉竜司、君は?」


 やけに甘ったるいボイス。

 遠くからでも分かるイケメンオーラ。


 そしてこの状況。あの子からしたら、まるで白馬の王子様が助けに来たような状況だ。

 自分の危機に颯爽と現れて救ってくれたイケメンがあの子の目にどう映るか。


 きっと恩義を感じて、胸がキュンキュンとして、恋に落ちちゃうんだ。

 おじさん知ってるんだから! おじさん知って……うわぁぁあぁああああああ!


「あ、ありがとうございます……」


(……?)


 と思ったのは俺だけらしく、あの子はやや引いたような様子でお礼を言った。

 シチュエーション的には恋に落ちてもおかしくない場面だと思ったのだが、現実はそんな単純ではないという事だろうか。


 心配しすぎて損した。


「名前」


「あ、えっと……望月……です」


 名前を催促する浅倉にはむっとしたが、あの子の名前が判明した。

 望月ちゃん、というらしい。


 あの子らしい綺麗で愛らしく、完璧な名前だ。


「ふーん、望月ちゃんっていうんだ。で、名前は?」


 なんだこいつ。

 やけに馴れ馴れしい調子に、内心で毒づく。


 同じような名前である分、余計に腹が立つ。


「り、理奈……です」


「理奈ちゃんね。いいね!」


 ニッコリと笑う浅倉。

 それを見て、俺の中でイライラが爆発しそうになる。


(なぁにが理奈ちゃんじゃ! 気安過ぎるんじゃ!)


 というか爆発していた。

 この浅倉なる男とは一生仲良くなれそうにないし、なるつもりもない。


 望月ちゃんも、早くこんな男から離れた方が良い。

 そう思ったとき。


「ねえ理奈ちゃん? 一人なんでしょ? 良ければ一緒にパーティを組まないかい?」


(……はぁ?)


 浅倉は恐ろしい勢いで望月ちゃんとの距離を縮めるのでは飽き足らず、パーティの申請まで行ってきた。


「い、いえ……私は……一人で……」


 望月ちゃんは今まで通りソロが良いのか、その提案を断る。

 けれど浅倉は退かなかった。


「理奈ちゃん、よく考えて欲しい。ここは難易度の高いダンジョン。

 そして君はモンスターテイマーだ。ソロでの探索は危険すぎる」


 少し癪だが、浅倉の言っていることは正しい。

 望月ちゃんの事を本当に考えるなら、命のリスクを少しでも下げるようにパーティは組むべきだ。


「…………」


 望月ちゃんもそのことが分かっているのか、黙って真剣に話を聞いている。


「パーティを組めば君はこれまで以上のスピードで強くなる。

 そうすればもっと深い階層あって潜れるだろう。

 幸い俺はかなりレベルが高いんだ。君の助けに慣れると思うけど」


 そう言って浅倉は端末を望月ちゃんに差し出した。

 液晶に表示された内容は見えなかったが、彼女が息を呑むのが分かった。


 おそらく浅倉の言う通り、彼のレベルは望月ちゃんよりも高いのだろう。


「……で、ですがあなたにパーティを組むメリットが……」


「浅倉って呼んでよ。本当は竜司がいいけど、難しいだろうからさ」


「……浅倉さんが私と組んでも良いことなんてない筈です」


 望月ちゃんのもっともな発言に、浅倉は目を瞑って首を横に振った。

 なにからなにまで絵になるので、少しイラっとする。


「このまま君を一人で行かせたら危険だろ? そんなこと俺には出来ない。

 それに、誰かを助けるのは好きなんだよ」


 正直、望月ちゃんが誰かと一緒に探索をするという事自体は賛成だ。

 けれどそれならば浅倉だけでなく、数人とパーティを組めばいいと思った。


 けれど、俺はあくまでも彼らを見守る観客でしかない。

 最終的に決めるのは、望月ちゃんだ。


 彼女は傷ついている竜乃を見て、そして。


「……分かりました。お願いします」


 パーティを組むことを受け入れた。

 誰かと一緒に戦うことで、竜乃の負担を少しでも減らせたらと考えたのだろう。


 望月ちゃんの言葉に浅倉はムカつくくらい綺麗な笑顔を浮かべた。


「それじゃあ送信するから、承認してね」


「……はい」


「ん、よろしくー」


「よろしくお願いします」


 軽い調子で手を振る浅倉と、深々と頭を下げる望月ちゃん。


「さて、じゃあ理奈ちゃんのモンスターを回復させようか」


「あの、この子は竜乃って言って――」


「へぇー」


 望月ちゃんの言葉を生返事で返し、浅倉は竜乃を回復させる。

 高価な回復薬でも所持していたのか、しばらくすると竜乃は回復して元気に宙に飛んだ。


「あのね竜乃ちゃん、あの人は浅倉さんっていうパーティーを組んでくれる人で――」


「理奈ちゃん、早速モンスターを狩りに行こうか。あ、これ理奈ちゃんの分の回復薬ね」


「あ、は、はい……ありがとうございます!」


 ダンジョンを軽快な足取りで進んでいく浅倉。

 そしてそれを追いかける望月ちゃん。


 小さくなっていく背中を見て、それらを追いかけるように茂みを移動する。


 望月ちゃんがパーティを組むこと自体は良いことだ。

 けれどその相手が浅倉であることを、俺は納得できない。


 望月ちゃんという天使のような子に対して、浅倉のようなイケメンがパーティを組むことで嫉妬を抱いているのもよく分かっている。

 同じような名前だからこそ、あの子の隣に俺が居ない事を悔しく思っているのも事実だ。


 けれどそれ以上に、あの浅倉という人物に対してどこか不信感を俺は抱いていた。


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