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第110話 二者一体の敵

 目の前で体を斜めに向けて臨戦態勢を取り、こちらをじっと見つめているように見える精霊。

 それが地面を強く蹴り、俺の方へと向かってくる。


 支援魔法を自ら使用し、かつ風によって背を押させているので先ほどよりも動きは速い。

 しかしその動きは単調で、目で捉えられないようなものではなかった。


 俺は四肢を折り曲げて勢いをつけ、振られた腕を見て勢いよく伸ばす。

 半ば飛び掛かるように前に出て、素早く右前脚を振るう。


 紫電を纏った俺の爪の一撃を、精霊は防ぎきれない。

 それが先ほどまでの結論だったが。


 闘者のスキルを使用した精霊は、俺の一撃を防いで見せた。

 爪と拳は拮抗。どちらも弾かれることなく、甲高い音を立ててぶつかり合っている。


 精霊の体内で魔力が急に生成され、そして消えた気がした。


 俺は自ら弾かれるように前脚から力を抜き、後ろへとわざと飛ばされた。

 先ほどまで俺が居た場所に雷の中級魔法、ボルテックスが落ちる。


 なんとか魔法を避けたと思った瞬間に、上空から赤いブレスが精霊を襲撃した。

 タイミング的には完璧。落ちた雷と同時に飛来したブレスを、精霊は避けきれない。


 精霊自身も後ろに跳んで避けようとはしたが、足を火に捉えられていた。

 その体に、魔力が満ちる。


『っ! 竜乃!』


 精霊の背後に多数展開する光の剣。

 その全ての切っ先が竜乃を狙い、間髪を入れずに射出される。


 ブレスを中断した竜乃は大きく羽ばたき、それらの剣を避けてみせた。

 その間にも俺は地面に着地し、駆ける。


 精霊が俺を視界に収めたような、そんな気がした。

 念のために頭の中に紫の弾丸を込めておき、精霊に近づこうとしたが。


 それよりも先に精霊の体を膨大な魔力が満たし、そして消える。

 上空から、火柱が襲来する。


 火の上級魔法、スパイラル・フレア。

 先ほど俺が放ったイグニッションの仕返しのつもりなのか。


 頭の中で、弾丸を一発回した。

 全身を紫の電流が包み、四肢の稼働スピードが向上。


 全身で風となり、襲い掛かるスパイラル・フレアを潜り抜けて駆ける。

 そのまま超スピードを維持し、精霊に頭から突っ込んだ。


 紫電を有効活用した突進を避けることも叶わず、精霊は吹き飛ばされる。

 けれどその瞬間に、不意に生じた小さな風が精霊を後ろに吹き飛ばすことで衝撃を軽減していることに気づいた。


 やや離れた位置まで飛ばされるものの、姿勢を崩すことなく大地へと着地した精霊を見て、思う。


(援護している奴は、巧いな)


 精霊の後ろにそびえる巨大な樹。それが精霊を助けてくれているとするなら、魔法のタイミングがドンピシャである以上、精霊よりは頭が良い。


 まるで精霊が子供で、それを見守る大人のような構図だ――。

 精霊の内部で、膨大な魔力が急に出現し、消える。


 あの魔法が、来る。


『竜乃ぉぉおおお!』


 叫び、背後へと駆ける。

 俺のただならぬ様子を感じたのか、望月ちゃんもこちらへと走ってきていた。


 俺達が合流するタイミングよりも少し早く、その魔法は放たれる。

 水の超級魔法、グランドウェイブ。


 逃げ場のない津波が、俺達に襲い掛かる。

 あまりにも高すぎる波から身を護るために、俺は魔法を行使する。


『護ってくれ!』


 両前足を振り上げ、大地へと叩きつける。

 地の上級魔法、ロックフォートレス。今まで数々の窮地を救ってくれた俺の持つ最大の防御魔法で、俺たち全員を包む。


『ぐっ!』


 直後、全てを攫う波が岩に激突した。

 上級魔法と超級魔法、そのどちらが勝るかなど考えるまでもない。


 それでもかろうじて持ちこたえられていたのは、俺のロックフォートレスが普通のものよりも頑丈だからに他ならない。

 岩が、ミシミシと音を立てる。その表面がガリガリと削られている音が恐怖を煽る。


『まずっ……』


 ここまでなんとか耐えてきたが、持続する津波の攻撃に押し切られそうになる。

 少しでも被害を軽減するために竜乃に蒼のブレスを依頼しようとしたところで。


 温かい手が、俺の背に触れた。


「虎太郎君、頑張って!」


 直後に俺を包む白い光がさらに眩しくなる。

 望月ちゃんが、力を貸してくれている。


 崩れかけていたロックフォートレスが硬さを増し、押し寄せる津波にも負けない堅牢さを獲得する。


 打ち付ける波の音が、消えていく。

 何度も俺達の窮地を救ってくれたロックフォートレスは、今回もまた護りきってくれた。


 それに安堵すると同時、竜乃が何かに気づいて俺を翼で打つ。

 同時に望月ちゃんを掬い上げるようにして宙に浮かせ、真下に向けて大きく息を吸った。


 彼女が何をしようとしているか分かったために風の魔法を使用して一時的な足場にする。

 望月ちゃんにも魔法を使用した瞬間に、竜乃はブレスを放った。


 解除されるロックフォートレスと同時に、俺達を貫く黒い十字架が出現する。

 闇の上級魔法、ブラック・クロス。あのクイーンも得意としていた魔法だ。


 けれどその性質を一度対応したことのある竜乃は知っている。

 吐き出した蒼い炎が、湧き上がる闇をかき消していく。


 竜乃の蒼いブレスに護られながら思う。


(このままじゃ不味いな)


 防戦になればなるほどに、この戦いは不利になる。

 相手は無限の魔法を放てる。それこそ先ほどのグランドウェイブですら、時間を空ければ再度放ってくるだろう。


 勝つためには護るのではなく、攻めなければならない。

 そう感じて、俺はブラック・クロスが切れた瞬間に風から飛び降りた。


『竜乃! 仕掛ける!』


『ちょっと、虎太郎!?』


 相棒に一言かけて俺は駆ける。

 やや遠くにいる精霊が、ピクリと反応した。


 腕を振り上げ、膝を曲げながら地面へと叩きつける。

 その体内には、当然のごとく魔力が渦巻いていた。


 大地を駆けながら、耳を立てて音を聞き取ろうとする。

 音と大地が裂ける音を聞いて、その場を避けて走る。


 大地から噴き出す、風の刃。

 小規模の竜巻のようにも見えるが、それがいくつも、そしてランダムに放出される。


 風の上級魔法、ブレイク・ガスト。

 威力、範囲共に申し分ない風の上級魔法に体のいくつかを切り裂かれながらも、俺は精霊へと近づく。


 頭の中で2発の紫の弾丸を込めた瞬間に、冷気を感じた。

 膝を曲げ、拳を大地に突き立てた状態の精霊から、ひんやりと冷たい風が流れてくる。


 その体内にも膨大な魔力が練り上げられ、霧散する。

 水の上級魔法、ブリザードコフィン。辺り一帯を凍り付かせる絶対零度が、展開する。


 このまま突っ込めば凍り付くのは必至。

 だからこそ、俺は飛びあがって氷を避けなければならない。


 地面を凍らせながら俺へと広がってくる凍てつく波を跳び越え、間合いに精霊を捉える。

 この状態では空中で動けない俺の方が不利。それを知っているからこそ、精霊も身体強化の魔法を使い、構えた。


(やってやろうじゃねえか)


 頭の中で弾丸を二発回し、体に紫電を纏わせる。

 今の精霊の一撃と、俺の渾身の一撃。どちらが強いかはっきりさせようと思ったとき。


 強い風が吹いた。


 その風は精霊を掬い上げるように斜め後方へと彼女を打ち上げる。

 精霊は俺との対決を望んだ。けれどその背後に居るものは俺の脅威を感じ、精霊を助けた。


 完全に肩透かしを食らったかのような状況。

 けれど、このまま逃すつもりはない。


 紫電での攻撃は届かないが、魔法なら届く。

 先ほどまで精霊が居た場所に前足が触れた瞬間に、事前に準備していた魔法を発動。


 地の上級魔法、ターミネイト・ガイア。

 俺を中心にいくつもの岩の槍が放射状に射出される。


 一つ一つの岩の槍は長く、太く、密度も濃い。

 そのいくつかが精霊目がけて飛び、捉えたとそう感じた。


 精霊の体内で、魔力が練り上げられる。


 それ自体は、今までと全く同じこと。

 けれど今回は量が違う。精霊の体内に収まっている魔力の量は、あのグランドウェイブのときと同じくらいの量だ。


 けれど、予感がした。

 ここで放ってくるのはグランドウェイブではないという、そんな嫌な予感が。


 戦闘時のこういう嫌な勘ほど、当たってしまうものはない。

 ふと、そんな事を思った。


 精霊が手のひらをこちらに突き出す。

 俺と彼女の間には岩の槍があるが、それをまるで見ていないかのように。


 そして手のひらから、小さな風の球体が撃ち出された。


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