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第104話 関東最強パーティの実力

 今、モニターの先には中層のボスが世界で初めて映し出されている。

 金色のシルエットだけの、女性型としか分からないボス。


 彼女と呼んでいいのかは分からないが、それは何も得物を手にしてはいなかった。

 けれど体を斜めに傾け、臨戦態勢のように見える。


『まずは、蹴ってみる!』


 そう叫び、前に出たのは優梨愛さん。

 両足を包む白銀のブーツを展開させ、大地を勢い良く蹴って走る。


 彼女の職業は闘者。闘者はその名の通り武闘派で、接近戦を何よりも得意とする職業だ。

 そして優梨愛さんは数多くの闘者の中でも指折りの足技使い。


 身を屈めて加速した優梨愛さんは、精霊を間合いに入れると右の蹴りを繰り出した。

 やや褐色の美脚が鋭く風を切る。


 しかし、精霊は左手を持ち上げ、その蹴りを見事に防いでみせた。

 衝撃が精霊を突き抜けるのが配信カメラ越しにも伝わったが、精霊は微動だにしていない。


 それどころか空いている右手に力を入れ、反撃をしようとしている。

 咄嗟に交差させた優梨愛さんの腕に、精霊の拳が撃ち込まれた。


 ――パキンッ


 何かが割れるような音が響き、優梨愛さんの体の向こうで壊れた蒼く透明な壁の一部が映る。

 優梨愛さんはそのまま吹き飛ばされ、カメラ外へとフレームアウト。


 それと入れ替わるように、一人の女性が桃色の鞘に収まった刀の柄に手をかけた状態で、左から精霊へと接近していた。


 天元の華のリーダー、愛花さんは勢いよく右足を振り下ろし、目にも止まらぬ速さで刀を居合抜きしながら精霊を突き抜ける。

 あまりの速さに、俺ですら目で追えなかったくらいだ。


 精霊の背後まで突き抜けた愛花さんは抜いた刀を鞘に納め始める。

 半透明桃色の刀身が同色の鞘に素早く収まり、チンッ、と鍔の音が響いた瞬間。


 多数の赤い斬撃が時間差で現れ、精霊を斬り刻んだ。

 さらに愛花さんは止まらず、地面を蹴って跳びあがる。陸上の高跳びのように背中を反らしながら、刀を抜き放つ。


『優梨愛!』


『はいはーい!』


 名を叫びながら、全体重をかけて振り下ろされた刀を精霊は両手を交差させて受け止める。

 片手で防がなかったのは、愛花さん達が何をしようとしているのかを悟ったからだろう。


 刀による一撃は精霊に防がれたが、直後に跳びあがっていた優梨愛さんの蹴り下ろしが、刀を上から叩きつけた。

 天元の華の中でも物理攻撃に特化した二人の連携攻撃。その威力は十分で、やや精霊が押されているようにも見えたが。


『■■■■!』


 ――パキンッ、パキンッ


 一転攻勢するかの如く弾かれた二人。衝撃から身を護るために、再び半透明の壁が二人を護り、そして消えた。


 攻撃を仕掛けてきた二人の内、最も近かった愛花さんの方に精霊は狙いを付けた。

 空中では回避の行動がとれない。いくら和香さんの支援や回復があるとはいえ、精霊の一撃をモロに受ければ大ダメージは必須。


『いくぜぇ、トータス!!』


 けれどそこに、一球が撃ち込まれる。

 突如飛来した様々な色で構成された大きな球体が精霊に直撃し、その動きを止めさせた。


 突然の事に理解が出来ていない様子の精霊を他所に、球体は戻ってくる。

 日本一のテイマー、武田明の元へ。


 肩に担ぐ巨大なこん棒を見れば、彼がモンスターテイマーだと思う人の方が少ないかもしれない。

 けれど彼は日本でも数少ない、自分で直接攻撃もできるテイマーだ。


 そんな彼の相棒は、たった今近くで回転を終えた一匹の亀。

 甲羅にさまざまな色がついた、白い鱗の巨大な亀だ。


『流石にこんな攻撃は、予測してないってか!?』


 明さんは棍棒を両手で握り、振りかぶる。

 野球のバットのスイングの要領で、トータスと呼ばれた亀を勢いよく打った。


 先ほどと同じく回転して球体となったトータスは驚くスピードで精霊へと向かう。


 戦況を一気に変える程奇抜な戦い方をする明さんは、表では戦場の魔術師と呼ばれているが、裏では散々な呼び名がある。

 その最たるものが、「理不尽ノック」だ。理由は言うまでもないだろう。


 精霊はトータスを避けるものの、すぐに襲い掛かってきた愛花さんへの対処でいっぱいいっぱいのようだ。

 接近戦においては関東でトップと言っても過言ではない彼女は、刀を動かすスピードを意図的に変えたり、時折鞘に素早く収めて居合をするなどして、精霊を翻弄していた。


 その間も、明さんによる理不尽ノックは続く。

 トータスは行って帰って来てを繰り返すものの、なかなか初回のようなヒットはでない。


 しかし、3回目の理不尽ノックの際にそれは起きた。

 愛花さんの刀を防ぎ、避けていた精霊はトータスも完全に避ける。


 それを見越していたかのように、その先に優梨愛さんが回り込んだ。

 やや褐色の健康的な脚が、振りかぶられる。


『ここっ!』


 直線的に迫ってくるトータスを勢い良く蹴り、精霊目がけて軌道を無理やり変えたのである。

 野球に続いてサッカーかよ、というコメントが流れたが気持ち的には概ね賛成である。


 ちなみに亀を心配するようなコメントも見受けられるが、明さんに打たれるときの表情はものすごく凛々しいし、動きにも淀みはない。

 声は聞こえないが、あれは望んでやっているのではないだろうか。


『うひょぉぉぉぉおおおお! 衝撃、気持ち良いぃぃいいいい!』


 訂正、ちょっとヤバい奴だったかもしれない。


 当然、避けたと思い込んでいた精霊にトータスは直撃し、隙が出来たところを愛花さんが斬りつける。

 さらにトータスを蹴り終えた優梨愛さんも精霊に肉薄し、挟み込むように攻撃を仕掛け始めた。


 天元の華に、精霊は追い詰められつつある。

 明さんと優梨愛さんの連携は予測が難しく、愛花さんは純粋に強い。

 さらにその三人を和香さんが支援し、何かあればすぐに回復の準備も整っている。


 総合力が高く、バランスも良く、奇抜な戦闘スタイルを取れる。

 そんな、誰から見ても強いと思えるパーティに仕上がっていた。


 しかし、精霊もこのままやられてくれる筈はない。

 優梨愛さんの蹴りを身を屈めて避け、左腕を勢いよく振るう。


『っ!』


 なんとか防御が間に合うが、衝撃が優梨愛さんの体を突き抜ける。


 ――パリンッ


 彼女がまだ無事なのは、今割れた半透明の壁のお陰なのかもしれない。

 先ほどから天元の華の面々を護っている半透明の壁は、和香さんのスキルである。


 彼女は防御を持続するものではなく、一時的なものとすることで、硬さを保っている。

 毎回毎回割れているが、あれは防ぎきれていないのではなく、そういった仕様なのだとか。


『っ!? 愛花!』


 衝撃で仰け反った優梨愛さんが、追撃が来ないことを不思議に思い、確認。

 自らに背を向けている精霊を見て、思わず叫んだ。


 優梨愛さんに一撃を加えた精霊はそのまま勢いよく振り返り、今度は愛花さんに狙いを定める。

 愛花さんは振り払われた右腕を刀で受け止めるが、素早く繰り出された左腕は愛花さんの胴体を狙っている。


『…………』


 その拳に、愛花さんは無言で左手に持つ鞘を撃ち付けた。

 予想外の反撃を受け、精霊は弾かれる。けれど一方で、愛花さんの動きは止まらなかった。


 鞘に魔力を纏わせ、一閃。

 桃色の鞘を精霊の胴体に打ち付け、振り抜く。


 そのまま刀の向きを変え、足を踏み込み、すれ違いざまに深く斬りつけた。

 彼女は精霊の背後に回り込み、振り返って刀を天に向ける。


 愛花さんを追うために精霊は振り向いたが、その足元に小型化したトータスが打ち込まれた。


 地面を転がり、精霊の元で停止したトータスは起き上がり、ドームを展開させる。

 トータスの甲羅の模様と全くおなじ半透明のドームはみるみるうちに縮まり、精霊を閉じ込める檻と化す。


『■■■■■■■!』


 精霊が叫び声を上げ、トータスを殴りつける。

 カラフルな甲羅を何度も、何度も。


 けれどトータスは精霊の連撃に耐え続ける。

 半透明のドームは縮小し、今なお精霊を押し付けている。


 光が、天を衝く。

 愛花さんがスキルを解放し、金色の光を柱のように聳えさせる。


 それに合わせるように明さんも棍棒を巨大化させ、優梨愛さんも空気を強く蹴った。


 3人の連携は完璧だった。

 まず音速を超えた優梨愛さんが精霊の脇をすり抜けつつ蹴り穿ち、明さんの棍棒がドームを破壊するような轟音を立てて振り下ろされる。


 そしてトドメとばかりに、愛花さんが振り下ろした必殺の一撃がその棍棒ごと上から叩き潰した。


 大きな音を立てて砂埃が舞い、衝撃でカメラが揺れる。

 その光景に、俺は思わず内心で舌を巻いた。


(凄い一撃だ)


 一人一人の実力が高いのはもちろんのこと、連携が上手くできていた。

 優梨愛さんと明さんのトータスでの連携は精霊を圧倒していたのが印象的だ。


 ただ、その中において愛花さんの実力は一つ抜けているように思える。

 精霊と渡り合えるのみならず、押さえ込んでみせた。


 天賦の才を感じる動き、そんな言葉が頭をよぎったくらいだ。


 カメラに変化が訪れる。

 舞い上がった土埃が風に流されて消えていく。


 その向こうに、うつ伏せで倒れる精霊の姿があった。


『第2形態には、もう少しってところか?』


 明さんの声をマイクが拾う。

 警戒する愛花さん達に対して、配信のコメント欄は盛り上がっている。


 もう少しHPを削る必要があると天元の華の面々が思ったであろうタイミングで、精霊の指が静かに動いた。


 手に力が入り、ゆっくりと起き上がる。

 その光は変わることなく、姿もこれまでのままだ。


『皆、もう一度お願い』


 愛花さんが再びパーティメンバーに活を入れる中で、俺は感じ取っていた。

 目に見える訳では無い、聞こえる訳でもない。


 ただ獣としての本能が告げている。

 あれは、強いと。


 先程よりも、強くなっていると。

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