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第101話 三位一体の攻撃

 白銀の鎧は埃に汚れ、動きもぎこちない。

 かなりのダメージを負っていることが遠くから見ても明らかな騎士王を見つめる。


 これは第2形態に移行するのも時間の問題か、そんな事を思ったとき。


『虎太郎、合わせて!』


 相棒の声が響いた。

 その声が聞こえるや否や、無意識で紫の銃弾を頭の中で1発込め、回す。

 体内から力が湧き出て、紫電が俺の体を纏った。


 斜め後方から発せられる赤と蒼のブレス目がけて紫電を放てば、直撃するなり融合し、ブレスは紫色の電流を帯びる。


 俺達の繰り出せる遠距離攻撃の中では最高の威力を誇ると思われる一撃。

 それを騎士王は両手を動かし、剣で受け止めてみせた。


 しかし威力を殺しきれていないのか、直撃する瞬間に僅かに横に動いたのを見逃さない。


(このまま、一気に押し切るか……どうせ第2形態になれば、どうなるか分からないからな)


 決心し、体内の魔力に命令。

 これまで準備していた魔法を開放する。


 騎士王を中心に黄色い線が走り、円を作り出す。

 竜乃のブレスに足止めされている騎士王はそれを認識しているのかすら定かではないが。


 雷の上級魔法、トールハンマーを発動。

 上から押しつぶさんばかりの雷撃が、面で落ちる。


 ブレスを防いでいる騎士王は防ぐことすらできずに、雷の奔流に飲み込まれた。


(……トールハンマーの威力もやや上がっているか?)


 衝撃で生じた風に全身の毛を遊ばれながら、俺は冷静に自分の力を分析する。

 久々にトールハンマーを放ったが、進化した影響か、発動までの時間が短縮されているようにも思える。


 ブレスを中断した竜乃が砂ぼこりの舞う地点を見ながら呟いた。


『これでいったんじゃないの?』


 俺の紫電での頭突きに、竜乃と俺の紫電を融合させたブレス攻撃。

 そして威力が向上したトールハンマーでの魔法の一撃。


 そのいずれもが超高火力で、この中層に居る探索者のほとんどには放てない威力のものばかり。

 そんな強力な攻撃によって生じた砂ぼこりが晴れていくのを見て、俺は竜乃の呟きに返答する。


『いったな』


 砂ぼこりが晴れれば、そこには騎士王の姿が。

 けれど大剣を床に突き刺して杖にし、膝をついている。


 肩で息をして、鎧もボロボロ、虫の息なのは誰の目にも明らかだった。

 もしも光の地帯に挑んだのが最初なら、もうこの時点で勝敗は決しているだろう。


 けれどこの戦いは中層ボスに挑むための最後のチケットをかけた戦い。

 騎士王が、これで終わる筈がない。


 予想通り、外から差し込む黄昏の光が奴の元に集まり、その体を包んでいく。

 眩い光は高い音を響かせながら、俺達の視界から騎士王の姿を隠して。


『■■■■■■■■■――!!』


 騎士王が、雄たけびを上げる。

 それと同時に光ははじけ飛び、俺達でも姿が視認できるようになる。


 修復され、さらに輝きを増した白銀の鎧。眩い程の光を放つ大剣。

 そして背中のマントは姿を変え、6枚3対の光の羽へと。


 奴は床を蹴り、俺達の目線よりもはるか上へと移動する。

 空中で静止し、大剣を振り払った。


(……地上の騎士王から、天空の天使ってことかよ)


 正直、人間である騎士王がそんな簡単に天使になっていいのかと思うが、相手はモンスターであるし、ここはダンジョン。

 細かいことは気にしてはいけないという事だろう。


『虎太郎、今度は援護任せたわよ!』


 戦場が地上から空へと変わったことで、こちらの主力はバトンタッチ。

 竜乃も気合は十分なようだ。


『任せておけ。天使と竜、どっちが強いのか教えてやれ』


『何言っているの、そんなの竜に決まっているでしょ?』


『ははっ、違いねえ』


 俺の相棒は軽口を叩く余裕もあるようで、得意げな顔をして高度を上げていった。

 天使となった騎士王は相手が俺ではないことで少しだけ動きが止まったが、すぐに切り替えたようで大剣を両手で握りしめた。


 空気を蹴り、竜乃へと襲い掛かる騎士王。

 その軌道は直線的ではあるが、速い。とはいえあの白い虎には僅かに及ばない。


 俺の視覚能力をもってすれば、その全ての動きを詳細に捉えられるくらいには。


 地の上級魔法、ロックフォートレスを使い、遥か高みまで岩の槍を押し上げる。

 しかし、今回の狙いは竜乃ではなく騎士王。


 突然襲来した下からの攻撃。しかし騎士王は反応し、羽を器用に動かして左に旋回して避ける。

 その瞬間、騎士王の体に竜乃が狙いを定めて口を開く。


 竜乃は俺がロックフォートレスで援護をすることを予想していたし、俺自身も竜乃がそうしてくれることを予想していた。

 だから、すでに紫の弾の装填は済んで回し終わっているし、紫電も放っていた。


 竜乃の口から放出される赤と蒼のブレスに完璧なタイミングで紫電が混じり合い、騎士王に襲い掛かる。

 奴がブレスに気づいて逃げようとするのと、俺が気付くのは同時だった。


(望月ちゃん……やるんだな!)


 飼い主の行動を悟り、俺は内心でほくそ笑む。

 体内で組み上げていた魔力の質を、火から風に変更し、竜乃にもアイコンタクトでそのまま放ち続けろと伝える。


 相棒は、目で返事をしてくれた。

 強大な威力のブレスは奴を中心で捉える事こそできなかったが、羽に着弾し、一部を削り取る。


 痛みと羽が欠けたことによるバランスの悪さで飛行がやや不安定になっているが、すぐに体勢を立て直し、空いている手で防御魔法を展開して竜乃のブレスを防いだ辺りは流石だ。

 竜乃のブレスには紫電がもう混じってはいないが、それでも赤と蒼の炎はあのクイーンすら倒した強力な一撃。


 それを片手で展開した防御魔法で防ぐあたり、騎士王も第2形態で能力は上がっているらしい。


 けれど、そんな騎士王の後ろに風の球体が出現する。

 風の上級魔法、ウィンドアブソーバー。この魔法は攻撃ではなく、敵の行動制限を行う魔法だ。


 球体が、あたりの空気を急激な速度で巻き込んでいく。

 その吸収は次第に大きくなり、騎士王も巻き込まれる。


 吹き荒れる嵐の中にいるような形になり、当然だがまともな飛行など出来なくなる。

 その場に騎士王を固定するという意味では成功。これで準備は整った。


『竜乃! やれ!』


 ブレスを一時中断していた竜乃は、俺の言葉に風の吸引から必死で逃れようとしていた騎士王に狙いを定め、口を開く。

 騎士王もそれに対応するように空いている手を竜乃に伸ばした。


 床に黄色い線が走り、円をゆっくりと形成する。

 それを確認して、俺は頭の中で3発の紫紺の弾丸を銃身に込め、回した。


 体外に放出された紫電を四肢に集約させ、壁目がけて走る。

 当たりの景色を置き去りに、壁に跳びあがり、体が180度回転するように壁を蹴りつける。


 俺は空を飛ぶことは出来ない。けれど壁を利用すれば、空中に直線的に上がることは出来る。

 全力で壁を蹴り、向かうは騎士王の元へ。


『■■■■■■■――!!』


 けれど奴もすぐに気付き、左手の大剣を振り上げた。

 タイミングは完璧。地上ならばともかく、空中では紫電による加速もやや落ちる為にこのままでは奴の大剣の餌食になる。


 しかし、信じている。

 あいつなら、やってくれると。


 風が、吹く。

 ブレスを放っていた竜乃はなるべくブレスを継続したままで羽ばたき、斜め下に飛ぶ。


 ブレスを中止し、翼を折りたたんだ彼女は俺の真下へ潜り込み、体を横に回転させた。

 羽が俺の体を捉え、軌道を上に逸らす。


 振るわれた大剣の軌道を上に逸れ、奴を跳び越す形で俺は天井へ。

 竜乃は振り返り、口を開く。俺は天井を蹴り、前脚を振り上げる。


 位置が入れ替わったために騎士王の反応は一瞬遅れ、竜乃のブレスを大剣で、そして俺の爪を防御魔法で防ごうとする。

 選択を間違えたのではなく、間に合わなかったことは明白だった。


『終わり……だぁ!』


 騎士王を包むように上下に電流が走り始めた円柱を、斜め上から突き抜ける。

 その途中で前足をしっかりと振るい、騎士王の防御魔法ごと体を深く深く斬り裂いた。


 そのまま背後を確認する。

 紫電で強化された爪の一撃が入ったために大剣による防御も機能しなくなり、騎士王は竜乃のブレスに呑まれていた。

 そして。


「落ちて!!」


 極限まで魔力を込め、タイミングを今か今かと伺っていた望月ちゃんの必殺の一撃が炸裂。

 俺が得意とする雷の上級魔法、トールハンマー。


 上層で初めてお披露目してくれた望月ちゃん最高の魔法は、この中層でレベルが上がったことと時間をかけたことが相まって、以前よりも格段に威力が向上していた。

 ブレスを受け、ダメージを受け続ける騎士王を真上から押しつぶすような雷の柱。


 それが落ちた瞬間に、騎士王の残り僅かなHPが消し飛ぶのを見たような気がした。


 床に着地し、俺は体を反転させて空中を見上げる。

 今もまだ、トールハンマーの余波が俺の全身の毛を撫でている。


 ブレスを辞めた竜乃が、ゆっくりと降下して俺の近くへと戻ってくるが、その目はトールハンマーの落ちた地点を見つめていた。

 それは俺も、魔法を放った望月ちゃんも同じ。


 やがて土埃も雷の跡も消えていく。

 全てが消え、ただ黄昏の光だけが射しこむ広間へと戻る。


 そこにもう誰も居ない事を確認し、俺達は歓喜の声を上げた。


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