第100話 光の騎士王
かつてのパーティ、エルピスと行動を共にしたあの日から10日以上の時が過ぎて。
俺達は光の地域の浮遊街をある程度、探索し尽くしたところで光の城へと挑戦。
広大な施設である城の攻略も終え、最上階で中ボスを倒せば光の地域もクリアというところまで来ていた。
浮遊街の敵はともかく、光の城内部の敵に関してはややレベルが高いために、望月ちゃんの成長に大きく貢献してくれた。
光の城の攻略を終える寸前の今となっては、竜乃も十分に戦える強さを有しているし、挑むにはちょうど良い頃合いだ。
それに俺も、あのユニークの白い虎を倒すことで紫電の使い方を理解しただけでなく、熱を帯びて強くなった。
「竜乃ちゃん、虎太郎君、準備は良い?」
竜乃に、そして俺に視線を向ける望月ちゃん。
彼女の俺に向ける視線は以前よりもやや高くなっている。
光の地域のモンスターを倒し、さらにユニークも倒した結果、俺の体はさらに大きくなった。
今では普通に立っていると、望月ちゃんの腰よりも高く、胸のあたりにまで届く。
どこまで大きくなるのかと思ったが、そういえばあの化け物は大人の男性の俺からしても驚くほどの大きさだったなと思い直した。
“流石にモッチー達でも時間かかったな”
“地域の攻略に城の攻略、敵も強かったけどここまでお疲れ様やで”
“虎太郎の旦那はやっぱり最強なんやなって”
“紫電強すぎだろ。いいぞもっとやれ”
“竜乃の姉御のブレスは、今日もいい感じに燃え盛ってるなぁ”
“にしても、ついに光の地域のボス戦か”
“1段階目を突破したパーティはあるけど、2段階目の光はモッチー達が初めてだから緊張するわ”
“ちょっと前に天元の華が火をクリアしてたけど、それに続いてくれ”
“実質モッチーが関東で一番進んでるパーティと言っても過言ではない”
“つーかよくよく考えるとこれでボス倒したらモッチー、個人で関東最強タイやん”
“なんだろう、めっちゃ緊張の一戦の筈なのに、負ける気がしないから気楽に見れる”
“酒とつまみを準備した俺、遥か高みの見物”
“モッチーがんばえー”
俺達の戦いを映してくれる配信ドローンに目を向ければ、いつも見てくれる視聴者の皆が思い思いのコメントを入力していた。
エルピスと別れてから再開した配信は、今日もいつも通り盛り上がっている。
コメント欄で指摘されている通り、光の地域の2段階目に挑むのは俺達が初だ。
これまでは情報があっての戦闘だったが、今回からはそれが無くなってくる。
けれど、全く情報がないわけではない。
今関東でノリに乗っているパーティ、天元の華が2段階目の火の地域を攻略したからだ。
“キミー:ボスの姿かたちは基本的には1段階と変わらないよ。でも第2形態があるのは確実だから、そこは注意してね”
そして天元の華のリーダーは、うちのバックアップの姉である。
そこからもたらされた情報は大きく、ボス戦までに出来ることを教えてくれた。
結果、ここに来るまでに俺達は光の地域のボスの正体や戦い方に関する情報を頭に叩き込んだ。
第2形態がどうなるかは分からないが、第1形態に関しては問題なく対処できる。
“天元の華からの情報はありがたすぎた”
“結局身内のコネが一番強いんやなって”
“俺も上位探索者で、優しくて、色々教えてくれるお姉さん欲しい”
“ミヤ:モッチー、ファイトです!”
“モッチーのファンもよう見とる”
“職員さんさぁ……”
「じゃあ、行きます!」
望月ちゃんの声が耳に届き、扉へと視線を向けようとしたとき、一つのコメントが通り過ぎた。
沢山のコメントで流れてしまったが、俺は首の動きをギリギリで止め、文言を捉えることが出来た。
“頑張って”
4文字だけのコメントの横に表示されているアカウント名は「エルピス」。
それだけで、あの3人のコメントだと確信した。
扉へと向き直り、内心で微笑む。
今頃、天王寺兄妹はあまり機械が得意でない須王をフォローしながら、コメントが送れたかどうかを確認していることだろう。
(負けられないな)
多くの人が、それこそ知らない人も知っている人も含めて多くの人が応援してくれている。
より一層気合を入れ、開いた扉の先へと前足を踏み入れた。
黄昏の光を浴びて煌めく広い一室。
壁にステンドグラスがふんだんにあしらわれた様は、もしも内部に長椅子や十字架があれば教会のように感じたかもしれない。
けれどそんなものは何一つとしてなく、ただ広い空間の奥に居るのはたった一つだけ。
フルプレートの白銀の鎧に、真っ白なマントを身に着けた、一体の騎士だ。
浮遊街でもこの城の中でも光の騎士には出会ったが、そのどれよりも巨大で、威圧感がある。
また鎧や兜の形状も大きく異なり、目の前のモンスターがこの地域で特別な存在だという事を教えてくれる。
そんな奴こそが「光煌の騎士王」の名を冠する、ボスだ。
奴は俺達の姿を認め、一歩ずつ前へと進み出る。
その歩みの中で腕を伸ばせば、そこに黄昏の光が集まり、剣を作り出す。
巨大な両刃剣は、奴の得物だ。
見て分かる通り、奴は戦士系。つまり俺が正面から戦える相手となる。
大剣を両手で握りしめ、こちらへと歩いてくる奴に合わせて俺も前に出る。
お前か、という声が聞こえたような気がした。
俺は紫電を放出した後に頭の中で紫の銃弾を2発込め、1発回す。
身を纏うように紫電が展開し、包み込むような紫のオーラが出現した。
(よし、問題ない。行けるぞ!)
あのユニークとの戦いの後に、どこまでならば紫電を使っていいかを研究した。
その結果、今の状態ならば2発までなら特にデメリットなく、それなりの時間を空けるだけで再使用できることが分かっている。
床を蹴り、俺は奴に突進するために駆ける。
この最初の一撃で、ある程度の戦闘の流れが決まる。それに俺の予想が正しければ。
すぐに最高速に乗り、周りの景色を置き去りにして奴に一目散に向かう。
俺自身の高いスペックに、望月ちゃんの他の追随を許さない援護力、そして紫電による加速。
それらをもって、奴を粉砕する。
明確な脅威足る俺に対して、奴が大剣を振るおうとするのが見えた。
その軌道は、このままいけば俺を捉える。そうなれば力比べになる。
1発回す。
紫電の力を今できる最大まで解放した俺は、さらに加速してそのまま奴に突っ込んだ。
奴が剣を振り下ろすよりも速く、つまり奴が視認できないスピードで、甲冑を頭で補足。
そのまま力任せに首を振り払う。
ギシッ、という金属が歪む音が耳に響いた瞬間には、もう感覚は消えていた。
直後、轟音がいて城そのものが揺れる。
吹き飛ばされた奴が城の内壁に激突した衝撃によるものだった。
見た目はすぐに壊れてしまいそうな内壁だが、浮遊街の外壁以上の硬さはあるようだ。
いや、この一室自体がボス部屋ということで、特殊な空間なのだろう。
土埃に包まれ、その中からなんとか立ち上がって出てくる騎士王の姿を目視し、俺は自らの予想が正しいことを確信する。
(……あの白い虎よりは、弱い)
白い風の盾に、超スピードに再生能力。
スキルのより取り見取りだったあの虎に比べれば、強さは少し劣る。
少なくとも、第1形態は俺の敵ではないと判断。
しかし油断はすることなく、警戒して奴を睨みつける。
騎士王との戦いは、まだ始まったばかりだからだ。
ついに100話突破しました。
ここまでも色々なことがありましたが、続けてこられたのは皆さんの応援のお陰です。
ありがとございます!
また、虎太郎君の冒険はまだまだ続きます。
これからも楽しんで頂けますと幸いです。
紗沙