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旅立ち


 なんやかんや諸問題を片付けつつ出発準備も整い、晴れて今日は旅立ちの朝だ!


 たしかアニメはこの旅立ちから始まっていた。


 実はオレはアニメの内容はほとんど覚えていない。10歳で前世の記憶が蘇って7年。普通7年以上前に見たアニメの内容なんて忘れるだろ。もちろん主要人物のビジュアルや印象的なシーンは覚えているし、ざっくりとした内容も覚えている。……最終回の魔王を倒すところまでは見ていないが。(そのまえに多分死んでしまったので)

 

 7年後に魔王討伐に行くことが解っているのだから、前世の記憶が蘇った時点でアニメの詳しい内容を書き残していれば良かったのだが、そんな神経は持ち合わせていない。当時は覚えたての魔術に夢中になっていて、そのうちそのうちと先延ばしにして今に至る。


 ま、何とかなるだろう。前向きなのは良いことだ。


 王太子が勇者だと認定され、4人のメンバーが確定してからオレ達は忙しく時を過ごした。


 王国内を東岸の港町カストゥールまで移動するときはともかく、魔大陸に渡ってからは4人、あ、魔族ヴェルナーヴと唯一一緒に海を渡ってきた部下の魔族サンテが案内としてついて行くから5人か……で、生活しなければならないのだ。食べられる草や木の実の見分け方や獣のさばき方(サンテによると、動植物の生態自体はあまり変わらないらしい。この大陸より寒暖は厳しく土地は貧しいらしいが)野山の歩き方や野宿の仕方、気配を消す訓練など覚えなくてはならない事が山積みだ。時間が無いので最低限だが。


 スティングレイ団長は騎士団で慣れていたし、オレも魔獣討伐に同行した経験があるので大丈夫だったが、王太子も野宿などに慣れていたのは意外だった。一時騎士団に籍を置いて新人騎士団員達と色々な経験を積んだらしい。一番苦労していたのが聖女のサーラだった。


 勇者が決定した次の日、オレ達4人は改めて顔合わせをした。


「勇者に認定されたアルフレッド・シャンタルだ。よろしく頼む」


 にこやかに手を差し出されたが、皆引きつった顔だ。無理もない、雲の上の存在の王太子殿下だ。サーラなど涙目で、小声で「無理、無理ぃ……」と呟いている。


 仕方が無いのでオレが王太子の手を握り、


「魔導師のマリアベルナ・アッシュマイヤーと申します。よろしくお願い致します」


 と言うと続けてスティングレイ団長も王太子と握手した。


「騎士のクリフォード・スティングレイです」


 サーラもおずおずと王太子の手を握った。


「あの……聖女のサーラです……

 あの……あの……私、平民で……あの……もし、不敬な事をしてしまったら……」


「サーラ、私達は仲間だ。共に魔王に立ち向かう同士なんだ。

今、この時から身分の壁を取っ払おう。私達の間で不敬は無いし、身分を考えて言いたいことを我慢する必要は無い」


 王太子はオレと団長を見ながら言った。


 サーラもオレを振り返って見つめたので、オレはにっこり笑って頷いた。サーラはほっとしたように息を吐き、まだぎこちないがやっと笑みを浮かべた。


 その後、魔族達から魔大陸や魔王城に関し、知りうる限りのレクチャーを受けた。と言っても、あまりオレはヴェルナーヴの事は信用していない。嘘を言っているとまでは言わないが、隠している事はありそうだ。やはりあの金色の瞳は落ち着かない気分にさせる。


 それから各々宰相とピアスの交換をした。

 ピアスというのは通信の魔道具だ。この世界の一般的な通信手段は郵便だが、特定の人物と魔力を込めた一対の魔石を身に着ける事で通信することができる。魔力が通りやすいように耳に穴を空けピアスとして装着することが一般的だ。体の一部に魔力を使って文字を書き(掌が一般的)ピアスに触れながら魔力を発動すればその文字は消え、相手の同じ場所に現れる。あまり長い文章は送れないし魔力もそれなりに食うが、魔大陸から手紙など出せる訳はないから唯一の通信手段だ。


 宰相の耳は一気に4っつもピアス穴が増えた。ちょいワル?オヤジだ。


 オレは宰相の他に、父とローマン総団長ともピアスの交換をしているので穴は3っつだ。


 それからローマン総団長からとってもとっても貴重なマジックバッグを借り受けた。馬車一台分くらいの荷物を収納できる小型のウエストポーチ型バッグだ。当然重さは感じないし、中に入れたものが腐ることも無い。最近やっと実用化に漕ぎ着けたばかりの試作品だ。バッグには非常食や防寒その他の衣類、武器や薬などを詰めた。


 オレ達4人以外も遊んでいたわけではない。今回の魔王討伐は極秘任務だ。知っているものはあの会議のメンバーだけだ。


 宰相はこの任務の統括責任者で、オレ達と連絡を取りつつ情報をまとめ、王国内から出来うる限りのバックアップをするためのシステム作りで忙しい。


 〝救国の四星〟に選ばれたスティングレイ団長に代わり、第二騎士団長のカルルック団長が第三騎士団副団長のイオニス・メルロークと第三騎士団をまとめている。ダマスカヤ峠の調査にも向かってくれた。


 イルラーク伯領と、カンタス伯領の調査はロゼッタ―ル公爵が手の者を使い行なっている。


 出港するカストゥールの港町はキックスマー侯爵の領地なので、〝救国の四星〟の旅立ちを万全の体制で見送らねば!と嬉々として領地に戻って行ったらしい。



 双新月の日まであと一ヶ月あまりだ。直線で向かえばカストゥールまで馬車で10日程。


 オレ達4人はカストゥールまで商談に行く商会の若夫婦(オレと王太子)メイド(サーラ)護衛の冒険者(スティングレイ団長)に扮して、まずダマスカヤ峠に向かう。


 現地で調査を行なっている第三騎士団と合流。情報を仕入れ、余裕があればイルラーク伯領、カンタス伯領でも情報を仕入れ、第三騎士団と共にカストゥールに向かう。


 





 王城の西門に商人が使うような簡素な馬車が停まっている。

 この周辺は人払いがなされ、関係者しか立ち入ることが出来ない。あの会議に出ていたメンバーで王都に残っている者とオレ達4人の身内だ。


 結局4人の家族には今回の極秘任務について話すことが許された。勿論、他言無用だ。


 オレ達の任務は過酷で帰って来る事は難しい。見事魔王を倒すことが出来ても魔大陸から帰ってこれるのは次の双新月の日。もし、その日に帰れなければまた半年後だ。右も左もわからない未知の魔大陸。援軍も期待できず、今日が家族との終の別れになるやも知れない。


 それで家族の見送りの許可が下りたのだ。


 「うっっ……えぐっ……えぐっ……」


 フィリスが泣きながら手作りのお守りを渡してくれる。


「泣かないでフィリス。オレが絶対〝救国の四星〟に選ばれるはずだって喜んでいたろう?」


「それはっっ……ぐすっ……本当に魔王を倒しに行くなんてっっ思っていなくてっっ

お姉さまがが危険な目に遭うくらいなら……わ、私……」


「大丈夫。オレはめちゃくちゃ強いんだ。魔王なんてさくっと倒して、フィリスの希望通り、パレードで勇者の横で手を振ってやるよ」


 フィリスを抱きしめて額に唇を落とす。それから父と義母ともハグをして馬車に乗り込んだ。


 馬車には既にサーラが乗っていた。

 

 サーラは孤児だ。普段は教会で暮らしている。


「大司教様が、教会の権威がどうの、名誉がどうのって煩くて。

挙句に殿下と是非お近づきになって来いって。色仕掛けでもしろって言われそうだったので早めにここに逃げ込んじゃいました」


 と、舌を出す。


 うーん、可愛い!見た目も性格も可愛い!オレの方が是非お近づきになりたい。


 王太子も馬車に乗り込んできた。国王様は厳しい顔をして


「君達には辛い重責を負わせてしまい申し訳ない。―――どうか……頼む」


 と、恐れ多くも頭を下げられた。王妃様は少し涙ぐんでいるようだ。


 団長が御者台に座り、馬車はゆっくりと進みだした。


 団長のところはお兄さんが既に子爵家を継いでいて、ご両親は領地に居るらしい。お兄さん夫妻が見送りに来てくれたそうだ。


「ウチは騎士が多い家系だからね。いつ命を捨ててもいい覚悟は出来ているんだ。むしろ家の誉れだ。しっかりお役目を果たして来いと激励された」

 

 と、後で聞いたら笑っていた。




 馬車の窓から後ろを振り返ると、門の所で手を振っている人達が見える。


 視線を前方に移すと、城のある小高い丘から街並みに下る一本の道。街並みはまだ朝もやの中に沈んでいるように見える。遠くに山々の影が蒼く見え、朝焼けの空が広がっていた。


 ああ……このシーンは見覚えがある。遠い昔、アニメで見たオープニングシーンだ。


 オレ達は  今、旅に出たんだ。








 


 


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