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魔王討伐会議(2)

お読み下さりありがとうございます。励みになります。


 500年ほど前、この国は突如魔族の大群に襲われた。


 シャンタル王国はこの大陸の東に位置し、東岸から海に乗り出すと〝死の海域〟と呼ばれる複雑に海流が渦巻く海域にぶち当たる。この海域を渡りきったものは未だかつていないので想像の域を出ないが、その向こうに魔族の住む魔大陸があるという話だ。


 その大地は灼熱の大地だとも、どこまでも続く凍土の平原だとも、荒れ果てた草木も生えない山岳地帯だとも言われている。そこに住む魔族は人と違う肌を持ち頭からは角が生え、とても残忍な種族らしい。


 事実、500年前に魔族に襲われた我が国は壊滅的な被害を被った。特に魔王の力は強大で、国中の騎士、魔導師、全ての人々が必死に防戦するも及ばず、あわや王都陥落、という時、魔王の前に立ちふさがったのが4人の若者である。勇者、聖女、魔導師、騎士の4人の若者は、傷つき苦戦しながらも見事魔王を打ち倒したのだ。それによってこの国は救われた。この国の子供達なら誰もが知っている御伽噺だが史実でもある。


 以来、伝説の4人の英雄は〝救国の四星〟と呼ばれ崇められ、その後の国難、魔獣のスタンピードや今は無きサルトヴァーン大帝国の侵略の際、時の〝救国の四星〟が集められ、見事王国を救ってきたのだ。


 国難の際には〝救国の四星〟が救ってくれる。そんな認識がこの国の国民にはある。アニメを見ていたときには何も疑問に思わなかったけど、そんな背景が在ったんだな。なんだかなぁ……みんな他力本願じゃね?とは思うけど。


 皆がざわざわと落ち着かない中、国王は大司教に話を振った。


「大司教、皆に詳しい経緯を説明してくれ」


 大司教はでっぷり太った腹を揺すりながら立ち上がった。


「それでは陛下、一人入室を許可していただきたい者がおります」


「……許可する」


 陛下の許可を受け、大司教の隣の男が部屋を出て行くと、程なく全身ローブに包まれフードを目深に被った男を連れて戻ってきた。


 入室すると、男はさっとフードを跳ね除ける。


 ピリッ  と室内に緊張が走った。


 3人の騎士団長はとっさに剣の柄に手を掛ける。オレもいつでも魔術が発動できるよう腰を浮かせかけた。


「……魔族か」


 王太子の言葉に大司教はもったいぶって頷く。


「さよう。殿下、この男は魔王の近くに侍っていたのですが、魔王がこの国を侵略するのに反対したところ、なんと!投獄されてしまったとのことです。

 数少ない仲間に何とか助け出され、我が国に危機を知らせるべく決死の覚悟でこの地に辿り着いたのです! そして、慈悲深い私の評判を聞き付け、助力を請いに参ったのです!神に仕える敬虔な信徒である私ならばきっと、きっと助けてくれるだろうと。そして私の力をもって皆に我が王国の危機を知らせてくれるであろうと!」


 唾を飛ばす勢いでまくし立てる大司教を手で制して、王太子は視線を男に向けた。


 青みがかった肌は一部、こめかみの辺りに鱗のようなものも見える。ストレートの銀髪は背中の中ほどまであり、頭の横からはねじれたような立派な角が二本生えていた。顔立ち自体は非常に端整で、今は怯えたような表情をしているが、オレは男の眼が気に入らなかった。その男の金色の瞳はなぜか不安を掻き立てるのだ。


「ヴェルナーヴと申します」


 男は陛下に向かって深々と頭を下げた。


「皆様、私は大司教様のお慈悲に救われました。おかげで皆様に危機を知らせることができます。

 我が主君、魔王様はこの国を、いえ、この大陸全土を手中に収めんと画策しております。ですが、まだ準備は整っておりません。今のうちに魔王様を討ち取ってしまえば此度の侵攻は食い止める事が出来るでしょう」


「貴様は己が主君と仰ぐものを私達に討てと申すのか!」


 第一騎士団長が吐き捨てるように言う。


「私はこの国の方々とは種族は違えど隣人として仲良くしていきたいと思っております。私の数少ない仲間もです。魔王様を討ち取らねば、先の大戦の悲劇が繰り返されるでしょう」


 皆が息を呑む。


「し……しかし、どうやって魔王を討つというのだ!

未だかつて〝死の海域〟を渡って魔大陸に上陸したものなどおらんというのに……」


 ロゼッタ―ル公爵の問いかけに


「私がどうやってこの大陸に来ることが出来たとお思いですか?」


 と、男は問い返した。



 この世界には二つの月がある。二つの月の満ち欠けの周期は違っているが、半年に一度、周期がかみ合い両方の月が新月になる。二つの月が新月になる日を双新月の日、満月になる日を双満月の日という。


 なんでも、その双新月の日は潮流の流れが変わり、〝死の海域〟の真ん中に小船が通れるほどの細い凪いだ道が出来るらしい。


「魔族はその事を以前から知っていたのか?」

 

「上層部は知っております。―――もしかしたら魔王様の手の者がもうこの国に入り込んでるやも知れません」


「陛下!」


 スティングレイ第三騎士団長が発言の許可を求めた。


「近頃、ダマスカヤ峠で盗賊の報告が相次いで上がっております。盗賊団の中に青い皮膚の者がいたとの目撃談も。

 イルラーク伯爵領、隣のカンタス伯爵領からもきな臭い噂が流れてきています。、まだ両伯爵からの要請はありませんので様子見段階ではありましたが……」


「……ふうむ……この魔族の言うことを全面的に信用するわけではないが……早急に手を打ったほうが良さそうじゃな。といっても打てる手は限られてくるが……」


「陛下、弱腰はいけませんぞ!

一刻も早く魔王を打ち滅ぼすべきです!」


 大司教の言葉に何人かが頷く。


「しかし、小船しか通れないのなら大軍勢を差し向ける訳にもいかないだろう」


「今こそ伝説の〝救国の四星〟を結成するときではありませぬか!!」


 いささか嬉しそうにキックスマー侯爵が力説した。


「あいつは〝救国の四星〟マニアだからな……」


 父が隣でぼそっと呟いた。


「おおっ!そうだ!〝救国の四星〟ならば、未知の魔大陸に乗り込んでも必ずや魔王を倒してくれるだろう!」


 セルフェ侯爵も賛同する。


 そりゃ都合良いよな……自分は何もせず安閑と暮らしていれば〝救国の四星〟とやらが魔王を倒してくれるんだから……


 だが、現状それが一番良い手であることも事実だ。というか、それ以外に手は無いだろう。


 実はアニメのオープニングの前にはこんな背景があったんだなぁ……なんてオレがしみじみ思っているうちにメンバーの選出に話は移っていた。


 騎士として選ばれたのはやっぱりクリフォード・スティングレイだった。

 お飾りに近い近衛の第一や治安の良い王都警備の第二に比べ、魔物退治や盗賊団討伐など様々な事に借り出される第三騎士団は実戦経験も多い。文句無く彼が王国一の騎士だろう。


「無論、アッシュマイヤー公爵令嬢は魔導師として参加なされるのでしょう?

 天才魔導師として呼び声高いですからな」


 セルフェ侯爵はにんまりと父を見る。


 見事魔王を倒すことが出来ればこの上ない名誉ではある。しかし、未知の魔大陸に乗り込んで魔王を倒すまでとてつもない苦労をすることは目に見えており、もとより命の保障はない。そんな危険な任務に我が子を差し出したい親はいないだろう。


 父がムッとして何か言いかけるのを制して立ち上がった。


「もとよりその覚悟でございますわ。

 未だ未熟者ではございますが、一命を賭して魔王に立ち向かい、王国の民の命と暮らしを守る所存でございます」


 にっこりと微笑むと、何故かスティングレイ団長も慌てて立ち上がった。


「俺、いや私もこの国の民の為に、そして我が忠誠を捧げる陛下の御為に力の限り戦ってまいります」


 すると、震えながらではあるが、聖女も立ち上がった。


「わ、わ、わたしも  が、がんばります!」


 ああもう!可愛いなぁ……さっきからずっと下を向いて震えていたのに……

 肩を優しく抱いて「大丈夫、オレが守るよ」って言ってあげたい……


 聖女は一級魔導師よりさらに希少な存在だ。一時代に一人いるかどうか……

 今現在、聖女は一人しか見つかっていないのだから彼女が参加するのは決定なのだ。


「あとは勇者が見つかれば〝救国の四星〟が揃いますな」


 嬉しそうにキックスマー侯爵が呟いた。







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