家出美少女を助けたら従者にされた
「お前何してんの?こんな雨の中。」
そう俺が彼女と出会ったのはいつもと同じ生活を送りいつもと同じ帰路につき何度も繰り返す日常の一コマだった。
雨の中キーキーと音を立てながらブランコを漕いでいるのを見つけてしまったのだ。
それだけなら傘を置いていや、押し付けて俺は帰っていたかもしれない。
だがその時の彼女の顔といえば絶望に染まったような表情で目はとても濁っていた。
だから俺は声をかけてしまったのだ。
学校一の美少女朝比奈汐音に。
「なんでもないわ。神崎君。」
彼女…朝比奈は深く踏み込まれたくは無いのか素っ気ない返しをしてきた。
それはそうだろうほぼ赤の他人のクラスメイトにいきなり声を掛けられたのだから。
それは別に予想通りだったが俺は自分の名前を覚えられていることに驚きを隠せなかった。
「名前ぐらい覚えているわよ。クラスメイトじゃない。」
俺の考えが読めるのだろうか。朝比奈は俺が数秒前疑問に思っていたことをしっかりと返してきた。
「俺の事なんか知らないと思ってた。流石は学校一の美少女ってとこか。」
俺は素直な感想を口にする。
すると何故か朝比奈は少し表情に怒りの色を見せた。
何故なのだろうか。
クラスメイトの顔と名前すら一致しない軽薄なやつだと思われたく無かったのだろうか。
「その学校一の美少女って言うの止めて。少し厨二病みたいで痛いから。」
「ぶっっ…」
俺は厨二病と言う言葉を聞いて吹き出してしまった。
中2を過ぎてからはもう聞くことはないと思っていたがまさか聞くとは。
しかも最も厨二病なんか言わないようなやつに。
「それで私に何をしたい訳?恩を売って仲良くしようって魂胆?」
俺が吹いたことなんか気にもしてない様に聞いてきた。
俺自身も何か深い理由があって朝比奈に声を掛けたわけではないので、それを聞かれると答えるのが難しかった。
なので素直に近づいた理由を言うことにした。
「お前が絶望に染まったような表情をしてて、通り過ぎるのが辛かったから。」
「ふふっ…」
すると今度は朝比奈が静かに笑みを零した。
今の説明に笑うところなどなかったと思うのだが。
「貴方そんなことで私に声を掛けたの?ではなんでもないからもう行って…って言うのは無理そうね。」
俺が朝比奈に声をかけた理由が面白くて笑ったようだ。
そして俺がすぐに立ち去る気配がないと悟ったのか諦めたようにため息をついた。
「じゃあ言うわ。絶対に笑うんじゃないわよ?」
「あぁ。笑わない。」
こんな深刻そうな状況で笑うやつがどこにいるのだろうか。
こんな状況で笑ったらただのクズだと俺は思う。
「……プス…たのよ。」
ものすごい小声でよく聞き取れなかった。
そんなにも恥ずかしい理由なのだろうか。
「え?なんて?」
「だから!ポテトチップスを隠されて家出したのよ!!」
「ぶふっっっっ…」
前言撤回。
これは笑うしかない。ポテトチップスを隠されたぐらいで家出をしてあんな絶望に染まったような表情をしてたとは。
これは未来に絶対黒歴史として朝比奈の心に残るのだろう。
「笑わないって言ったじゃない!!」
朝比奈は少し涙目になりながら俺をキッと睨んでくる。
本人には悪いが小動物が威嚇しているようであまり怖くなかった。
「悪い悪い。まさかポテチ程度で家出するとは…くくっ…」
これで笑わないやつは人間じゃないと思う。
朝比奈は元々ポテチを食べるキャラでは無く、スコーンとかを優雅に食べている思っていたのだから。
「また笑ったわね!許さない!」
ポコポコと俺の事を叩いてくる。
一発一発は痛くないがそれが何発も来ると流石に痛くなってくる。
「分かった分かったって。ポテチ家で食わせてやるから許せ。」
「ほんと!?」
そう言うとさっきまでの怒りと絶望の表情が嘘だったかのように表情が晴れた。
よっぽどポテチのことが好きなのだろう。
「じゃあ早く行きましょ!神崎君の家どこ!?」
早くポテチが食べたいのか俺の家はどこだと急かしてくる。
「そこの角右行ってすぐだ。」
この公園は家のすぐ傍なので手短に家の場所を言うと朝比奈はキラーンと効果音が出そうなほど目を輝かせ、俺の家へと向かって走り出した。
それから家につくと人の家だと言うのに大雑把に靴を脱ぎ捨て洗面所で手を洗って俺のところに戻ってきた。
「ポテチどこ!?」
「まぁまて。もうこんな時間だ飯食うぞ。」
流石にもう19時を過ぎているので先にポテチを食べてから夕飯を食べるのはキツすぎる。
「え〜!まぁいいや。手短に作ってね。」
手短にと俺の家なのに命令を受けた。
俺は素直にその命令に従うことにした。時間がかかって拗ねられてもどうにも出来ないしな。
それから作り置きしていた唐揚げを温め、さくっと野菜炒めを作りご飯をよそってテーブルへと並べた。
「ほい。お望み通り手短に済ませましたよ。」
「全然遅い!ポテチが!」
とても速く終わらせたと思うのだがこれでも遅いらしい。
どれだけポテチにこだわっているんだろうか。
「さっさと食べてポテチ食べよ。いただきます!」
朝比奈は合掌をしてすぐに箸に手を伸ばす。
こういう所は律儀なんだなと思っていると朝比奈は唐揚げを口に含んで目を見開いた。
「うま〜…」
普段の朝比奈からは聞けないような気の抜けた声が聞こえた。
完全に俺の中での朝比奈のキャラが崩壊してしまっている。
まぁ俺としては学校での凛とした朝比奈よりもこっちの朝比奈の方が話しかけやすいので僥倖だろう。
朝比奈はポテチをさっきはあんなにも早く食べたいとほざいていたのにゆっくりと夕飯を咀嚼していた。
物凄く幸せそうな顔をして。
作った側としてはとても嬉しい表情だ。
「ご馳走様でした!さぁポテチだ!」
そんなことを考えていると朝比奈は元気な声で合掌をした。
ポテチのことは頭の中から消えたのだろうと思っていたがそんなことはなかったらしい。
俺は急かされると嫌なのですぐに席を立ち、ポテチを棚から出した。
それを朝比奈に渡すと夕飯を食べている時と同じくらいに目を輝かせ袋を開けてポテチを咀嚼した。
数秒経つとポテチを食べるのをいきなり朝比奈は顔を引き締め何かを覚悟したような目で俺のことを見てきた。
「決めた。美味しい料理に、私が欲しいって言ったポテチもだしてくれる。貴方…いえ、神崎黎。私の従者になってくれないかしら!」
俺はそんな朝比奈の言葉を聞いて硬直した。
料理を作って、ポテチをあげるというよく分からないことをしただけで従者になれと言われるとは思うわけが無いだろう。
息抜きに書いてました。