7:商業者ギルドへ
鍋に昆布を入れ火にかける。
煮立つ前に昆布は取り出し、切っておいた白菜らしき葉物野菜、多分にんじん、多分えのき、多分鶏肉を入れて蓋をする。
何故あやふやなのか? 見慣れない見た目をしているからに他ならない。
次からは、野菜の名前を言ってもらいながら渡してもらおう。じゃないと、何が何やら分からない。
大城さんも仕事から戻り、食事が始まる。
「今日、買い物に行ってみてどうだった? 欲しい物はみんなあったか?」
「買って頂いて、ありがとうございました。
ない物もありましたけど、作れそうなものは作ろうかと」
「かまわんよ、気にすんな。
作るって、何をだい?」
「こちらの世界の女性は、ワンピースかスカートしか穿かないみたいなのと、身長に合うものがなさそうだからそれっぽいボトムスを作ろうかと。
後、マーチャさんと町に出た時に気付いた事があって、それは大城さんのお力を借りられればと」
「あー、優ちゃん、身長あるよな。俺と変わらんだろうから、なかなか古着じゃ見付かんねーわな。
で、俺の力借りて作りたい物はなんだ?」
「デカイなとは良く言われました。まだあってもいいです。
お力をお借りしたい物の知ってる物は金属製なんですけど、多分、木でもその用途の耐久性はあると思うんですよ。
名前を知らないから、後で描きますね」
「まだ身長いるのか?!
ふーん? 絵を見てみて、試作を作れそうなら作っとくが?」
「その方が早いかもしれませんね。 絶対作れるんで、お願いしてもいいですか?」
「おう、任せときな」
これで大城さんにふる話題は、一先ずなくなった。
「マーチャさん、自転車の乗り心地はどうでした?」
「揺れないあの乗り心地! 最高に決まっているじゃないの!」
しばらく会話に入れていなかったマーチャさんは、待ってましたと言わんばかりだ。
「何、あれ! 早いし揺れないし馬より断然小さいし、生き物じゃないから店の中まで持って入れる!
登り坂には弱いけど、あんなに便利な乗り物はないわ!」
はしゃいで頬を紅潮させ、きらきらした目で語るマーチャさんがとても可愛い。
坂はちょっと頑張れば登れただろうが、二人乗りで危ないため、二ヶ所あったそれなりにきつい坂は安全を優先させ、降りてもらったのだ。
「途中で教会みたいな建物が見えましたけど、教会には孤児院とかあるんですか?
何歳くらいの子どもまでいるんですか?
後その、資金繰りとかゆとりはあるんでしょうか?」
「ええ、あるわ。
成人は十八なんだけど、働き始めるのが十五だから、そのくらいで孤児院を出るのが普通ね。
資金繰りはどこもかつかつか、かつかつより僅かにマシってところじゃないかしら?」
「文字の読み書き計算はどうですか?」
「テラコヤがあるから、できる子どももいるわ」
ぶふっ。寺子屋?! 教会で寺子屋?!
「優ちゃん、笑っていいんだぜ。
破壊力あるよな」
「テラコヤは素晴らしいシステムよ!」
「素晴らしいシステムなんですが、違和感が凄いんですよ」
「内容は学校ってーより、寺子屋で合ってんだよ。ただ、ネーミングがなー」
「ただ、名前ですねー。あっはは」
マーチャさんはむうって顔をするが、これはなかなか共有できないものだ。
目を瞑ってもらうしかない。
「読み書き計算ができるなら、孤児院の子ども達にお願いできそうな作業を委託するのも有ですね」
「あるの?」
「大城さんに試作を作ってもらう物が売れるなら、子どもでも器用な子なら作れると思います」
「それでも仕事があるのは助かるはずよ!」
「そうだな。
転移者だから簡単に作れた物がある。
それが大きな収入になった時はいくらか寄付していたが、仕事は回した事ぁなかった。
寄付と仕事は別もんだな」
「そうだと思います。
仕事にできるなら、製作・販売は教会付属の孤児院に限定して請け負ってもらえたら、確実に仕事が回ります。
継続できる仕事があって、ずっと収入があるのはメリットだと思います。
売れたら一ついくらとか、数関係なく月いくらとかもらって……って。
取らぬタヌキのって言いますから、この辺りはまだ考えなくていいのかな?」
「ああ、そうだな。売れなきゃお話になんねぇな」
「売れると信じましょう」
味噌仕立ての鍋を食べていたからだけではないだろう。
三人とも、僅かに頬を紅潮させていたのは。
洗い物はマーチャさんが引き受けてくれたので、そのままテーブルで絵を描く。
さっき話しながらもう一つ思いついたので、それも描く。
それは、大城さんも知っている物だった。タイヤ部分はさすがに無理だろうから、外注で職人に作ってもらえば、後は子どもでも出来るだろうと太鼓判をもらえた。
よしっ。タイヤの存在を忘れていたけど、おおむね好評だ。
こっちはタイヤは大き目でとか、持ち手は革を巻いて握りやすくしつつ怪我をしないようにしようとか。金属が使えれば、この派生でなど細部やなんかを詰めた。
体を拭いてパジャマに着替え、クローゼットに入れていたダウンベストも着こんでベッドに潜り込む。
疲れはさほどないけど、目蓋がおりる。
自活できる程にはならないかも知れないけれど、生活費を入れれるくらいの収入源は確保できるのかも? と思うと、金銭面の不安が減って安心したのか、すぐに眠りに落ちた。
◇
朝、食事を摂りながら今日の予定を擦り合わせる。
午前中は、マーチャさんと縫い物。
お昼に、大城さんは帰宅。試作二種類も持って帰れるだろうとの事で、試作とお昼に食べる屋台料理も持って帰ってくる事に。
午後は大城さんと、自転車と試作を携え商業者ギルドへ。
最後に神殿へ寄って、魔法適正を調べてもらって予定は終了。
◇
「やあ、良く来てくれたね。
初めまして。私はこのギルドを預かる、クライスラーだ」
今いるのは、ギルドマスターのマスター室。
目の前には細身、長身のイケオジ、ギルドマスターさん。
髪は薄茶、瞳も同じく薄茶色。割りと整った深い彫りの顔立ちに、きりっとした目。
柔らかな笑みを浮かべているけど、きっと出来る大人の男性だと思わせる佇まいをしていらっしゃる。
こちらのスーツにあたるのか、パリッとした上下の揃いをお召しだ。
楽にして、どうぞ座ってとソファーを勧められたけれど、日本で例えるなら支社長さんって感じでしょ?! 緊張するって!
「初めまして、芦屋優です。
宜しくお願いします」
挨拶をして頭を下げ、ソファーへ座る。
隣には、大城さんが腰かける。
「ツヨシから、ある程度聞いているよ。
一先ず、ツヨシの所に身を寄せる事になったそうだね。
信頼出来る二人の下に身を寄せる事になって、安心したよ」
「はい、私も安心できます」
「おい、俺の事はいいんだよ!
早く話を進めろよ!」
大城さんは照れ屋のようだ。こうして、私の初めての商談が始まった。
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