55:菌は存在する
シュバツェル16年5月13日(金)〜
昨夜はロイヤルファミリーのみなさまはバーベキューを堪能され、キャンピングカーやハンモック、果てはテントまで充分にご覧になられて解散となった。
クーとルーも、とても可愛がられていたよ。
テントの下のすのこは、遠征に行く際の備品に取り入れられないかと、真剣にご覧になられていたな。
コットっていう、キャンプの時に使うベッドがあるけどね。その事をお伝えしたら、あああ! 滞在が延びそうっ。
簡易クーラーにも、かなり興味をお持ちだ。
一張りテントを張っていて、そこは現役騎士さんが今日も使う事になった。すのこや簡易クーラーのあるテント泊を確かめるのだそうな。
◇
朝、何故か国王陛下以下、昨夜のメンバーが揃っておられる。そして、お父さん達が使っているキャンピングカーの中のダイニングで寛いでいらっしゃる。
「朝の礼拝はすませた。
礼拝が終われば、政務の時間まではゆっくりできるんでな。うまい食事を頼む」
陛下のご所望だ。お父さんと二人、和食の朝ご飯を作って、お召し上がり頂いくしかなかろう。
食事が終わると、キナル王子妃エリザベーテ殿下は残られ、陛下達は政務へと向かわれた。
後で私達ヒーリング関係で来たメンバーには、案内の方が来るそうだ。
それまでは自由時間となる。
普段、何も公務がなければ侍女さん達とお茶や散策、読書、刺繍、レース編みくらいしかする事がない妃殿下の話し相手となった。
とても喜んで下さったのは、嬉しいかもしれない。だって、大した事はお話ししてないからさ。
十時前になると、迎えの馬車が来た。その馬車に乗り込み、王宮の中にある病院へと向かった。
◇
そこには国王陛下付きのお医者さんやヒーラーさん、薬師さんなどそうそうたるメンバー。それに騎士さんの傷病の手当をする、一般のお医者さん達までが集まっておられた。
こんな凄い人達に教えるの?!
「お待ちしておりました。
私は陛下の医術団の長、ヘイエルバート・サフォランドと申します」
どんな場面でもだが、女性から話すものではないらしい。かと言って、お父さんも爵位を持っていないから。今回は、エバーソンさんから私の紹介がされる。国王陛下達の時は、無礼講だっただけだよ。
「医術団団長ヘイエルバートさま、こちらが招聘に応じて参じました芦屋大城優嬢にございます。
先の転移者、大城つよしの娘にございます」
長ったらしくてお堅いなぁ。頭が痛くなりそう。
「お初にお目にかかります。
大城つよしの娘、芦屋大城優と申します」
せめて普通にしゃべりたいよう。
「ほ。ツヨシの時に慣れましたので、以降は気楽にお話し下さってかまいませんぞ。
我らが教わる身でもありますからの」
マスクで口元は分からないが、目はとても優しく笑っているので、本当に楽に喋っても良さそうだ。とても助かる。
◇
「ヒーリングは、皆さんちゃんとできていらっしゃいますね。
私が来る前に、何か問題がありましたか?」
皆さん、ヒーリングはちゃんと出来ている。なら何故、私は呼ばれたのか?
「それなのですが、獣や魔獣にやられた者の中に、稀に怪我は治っておりますのに、後に亡くなる事がありましてな。
怪我と死に、何か関係がありますのか?
そしてこれは、如何に癒やしを施せば宜しいか、何かご存知ではあるまいか?」
「時に毒を盛られたわけでもなく、酷い嘔吐や下痢などに苦しむ者もおります。
これも何かご存知だろうか?」
話をまとめると、菌に対する知識がないため、その対処ができていないって事だな。
「動物につけられた傷口から菌が入って病気になったり、土にいる菌による病気にかかったりする事があります。他にも、手や体内にいる菌が何かの拍子で病気を引き起こしたりもします。
恐らく、菌によるものや、病原虫と私達の世界で呼んでいたものの対処が、うまくできてないのだと思われます」
私は医者でもなければ、それを断言できる立場にはない。よって、曖昧な言葉でしか伝えられないが、上手く伝わるだろうか?
「昔の転移者に『パンに生えるカビや動物の死骸や植物を分解してしまう、目に見えない小さな物』と、伝えられた物ですかの?
その頃よりマスクを付ける事、マスクや着衣は包帯と同じくらい清潔に保つ事も伝えられております」
まさにそれやん!
「そうです。
予防接種もあるんですよね? その考えの系統です」
みなさん目に見えないのに、そんな事は信じられないといった事を仰っている。
「空気も目に見えませんが、空気も信じられませんか?」
人も生き物も、空気がないと生きられない。
その言葉で、みなさんはっとなさった。
「いいえ、空気は信じています。
これは、我らの目が曇っていたようですな」
◇
それからのみなさんのヒーリングは凄かった。
見て分かる怪我だけでなく、菌や病原虫などに意識を向けてヒーリングを始めると、そういうのを感じる能力の高い方だろう。菌なんかを感知する方が、何人か現れた。
そして怪我をした時も、病気の時と同じくらい菌を意識した治療が大切だと認識され、研究する風潮も高まった。
ヒーリング能力の高い方は、あまり意識しなくても菌や病原虫による症状まで癒やしているらしい事も分かった。
たぶんそういう方が、稀に病気も癒せるヒーラーさんなのだろう。
この時、私も菌を意識したヒーリングを受けさせられた。これはお父さんの希望。サーラちゃんを助ける時に、背中にいくつか怪我したからね。
悪さはしてないようですが、ヒーリングして正解だったのではと言われた。
「もっと早く、あっちでみんなに教えた時にするんだった。
サーラちゃんもヒーリング受けさせておかないと、安心できないな」
サーラちゃんはお父さんがスマホ持ってる方に電話して、お母さんに伝言をお願いしてヒーリングをすぐに受けさせるよう伝えてもらっていた。早いな。
◇
そんな感じで、国王陛下や王太子殿下も、キナル第二王子殿下ご夫妻ごとご一緒にキャンピングカーで朝ご飯と夜ご飯を摂り、昼は病院で過ごす日が二日ほど続いた。
王宮到着の四日目と五日目はお休みだー。ヤッター!
怪我の治療も病気の治療も待ってはくれないので、土日も働いたから月火が休みだ。
休みの一日目は、とにかく寝る。ごろごろする。疲れが溜まっている自覚があるから休む。
サイラさんには一緒に町へ出ようと誘って頂いたが、丁重にお断りした。ごめんよ。
お休みの一日目は妃殿下とお散歩したくらいで、後はちょっとストレッチをした程度で、基本はダラダラ過ごした。
ご飯くらいは作ったけどね。
お休み二日目は、サイラさんと王都へ繰り出した。
せっかく来たんだしね。楽しまないと!
◇
「うっわあー!
旧王都も賑わってましたけど、王都はそれ以上ですね!
周りに湖があったりお城も池の中にあるからか、水を思わせるイメージの装飾も多くていいなあ。
あ、服装も、旧王都とちょっと違うんだ」
「うふふ、優さま。
まるでお上りさんさんですよ」
いや、実際お上りさんなんだよ。ヨーロッパ旅行なんて行った事はないが、中世ヨーロッパともちょっと違う街並みがとても新鮮で、あちらこちらキョロキョロしてしまうんだから。
「あ、ほら。あちらは今人気のパン屋だそうですよ!
白パンほどではありませんが、安くて柔らかなパンが人気なんですって」
「へえ、買って帰って夜に食べようか?」
「それは楽しみです!
悩みは優さまといますとお昼も食べるので、服が合わなくならないかですねぇ」
あはは。ソレハ自己責任デオ願イシマス。
「あ、あっちの店は、こちらで人気の服屋だそうです。後で寄ってみますか?」
お、それは気になるな。寄ろう。
王都といっても、人口ニ万人ちょっとくらいらしいのだが、これでもこの世界では上から数えた方が早い大都市。
他の国より進んだ魔道具の勉強に来る人や、商売に訪れそのまま居着く人なんかも多いらしい。それで人口以上に雑多に、他国の文化や文明も人種も混じった面白い町になっていてなかなか楽しめる。
獣人さんやエルフさんなんかも見かけるが、とても少ないね。これは絶対数が少ないせいだと教えてもらった。
「座学で聞いていたとおり、たぶん他国の方と思われる方は割と見かけても、エルフや獣人といった方はあまり見かけませんね」
「そうですね。雑多な人々が集まっているこの王都でも、人族以外の方は五%もいないと言われてますからね」
そんなに少なかったのか。
それとは反対に、この王都でもカートシリーズを見かける。
一番新しい、折畳みかご車も出回っている。道がきれいだから、充分活躍できているようで嬉しい。
「ほら、やはりカートは人気で、使ってる方を割と見かけますよ」
本当にありがたい事だ。
「そうですね、ちょっとでも誰かの助けになっていれば嬉しいです」
こうして、ギルドのみなさんが作ってくれた色んな物を目にしたり、美味しいパンを買ったり、服を買ったり、屋台で買った軽食と飲み物で休憩したりしながら夕方近くまで楽しい休日を過ごした。
クーとルーには布の首輪をしていたが、羊革の柔らかな端切れみたいな物を見つけたので、やっとちゃんとした首輪も作れそうだ。これも地味に嬉しい買い物だ。
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