50:キャンピングカーでお出掛けと戦いの後
シュバツェル16年5月7日(土)
キャンピングカーさくら号は音もなく、静かに街道を進む。
来た時より少し早く進んでいるが、ほとんど揺れもなく、快調に町を目指している。
本当は今日の午前中も、川原で原石拾いをする心算だった。昨日だけでほしかった以上に拾えているので、無理せず帰る事にしたのだ。
まだ狼の家族群れが近くにいては危ないから、安全を優先するのは当然だ。
今日は日曜だが、お父さんはおじいちゃんの宿。食堂ではないらしいけど。お父さんから、戻ったら連絡しろと言われていたので電話をしたら……。
きりの良いところで抜けてくるから、そのまま待っていてもらってくれとの事。
お昼までの食材を準備していたので、アカザさん達にはお昼ご飯を振る舞う。もちろん、サイラさんにもだ。
ご飯の後は、しばらく仮眠をしてもらう事にしたよ。
「睡眠時間が短かったでしょ?
お父さんが来るまで、ゆっくり休んでて下さい」
そう言ってソファーベッドをベッドにし、サイラさんとサーラちゃんには、奥のベッドルームでお昼寝を促す。私も寝るんだ。眠い。
戦闘の後も帰り道でも、二人はちゃんと眠れていなくて疲れているだろう。町に入った時、あからさまにほっとしていたしね。
自宅の庭なので安全だから、窓も出入口も開けていると、心地良い風が時折り入るのが眠気を誘うな。
みんなあっという間に眠りに落ちてしまった。一時間ほどだろうか。ぐっすり眠り、起きた時には気分も体も回復していた。
いつかのバーベキューの後に設置されたテーブルセットで、お茶にしようという時にお父さんが戻った。
◇
「いや、待たせて申し訳ない。
戻るのが予定よりずいぶん早いが、何があったんだ?」
馬を飛ばして来たお父さんは額の汗を拭いながら、紅き剣のリーダー、アカザさんに声をかける。
お父さんはアカザさん始め、紅き剣のメンバーとサイラさんから詳細を聞き、最後に私で視線を止めた。
「優、お前はどうしたい? これから先も、まだ町の外へ行きたいか?
本心としては、危ない目に遭ってほしくないから出てほしくない。だが、お前が覚悟を決めていて決断しているなら、それを尊重するよ」
ありがとう、お父さん。
私が親なら、きっとせめて、極力町の外へ行くなくらいは言うだろう。たぶん、お父さんもそう言いたいだろうに、言わないんだね。
「生き物を狩る事を目的には出ない。キャンプは、どうしてもしたいから出るよ。
危険な目に遭う可能性が高くても、やっぱりそれは私の楽しみなんだ。
今まではサイラさん達が帰ってから、たまに冒険者ギルドで稽古をつけてもらってた。これからは、本気で戦いの術を身に付けて、ちゃんと生きてここへ帰る」
お父さんの目を、真っ直ぐ見ながら答える。そしてそのまましばらくお互いの目を見合った後、お父さんは深く吸った息を吐いた。
「それが、お前がお前らしくあるためなら、認めるしかないな」
そうして、必ず自分を守る術を身に付ける約束もした。
てんで身を守れないのと守れるのでは、まるで違うからだ。
話が終わると、お父さんは依頼書に依頼達成のサインをし、おじいちゃんの宿へ帰って行った。
アカザさん達はサインをもらうと、「また頼むよ。またな!」と、冒険者ギルドへ向けて庭から出て行った。
サイラさんも早目に帰ってゆっくりして、体調を整える時間に充ててもらう事にしたよ。
◇
さて、さくら号の掃除をしようか。
さくら号を洗うから、男手があると助かるんだけど。
うん? 塀の隙間から覗いている、見覚えのある顔と目が合った。
……。一人は、教会でカート作る時や、市場で売ってる時にもいた子だったかな?
もう一人は、宿泊施設"アルブル"へ案内した子ども達の中にいた、一番年上っぽい子だったはず。
「おーい、時間があるなら、賃雇い頼めるかな?
出来るなら、門へ回って」
二人へ向けて声をかけたら驚いていたが、分かったと門へ向かう。
私も門へ向かって、門衛さんに二人を中へ入れてくれるようにお願いする。
◇
「カールくんとモリスくんだね。宜しくね。
仕事は、一緒にこのキャンピングカーをきれいにしてほしいんだ。頼める?」
カールくんは教会の孤児院の子で、カートのお願いの時や、市場でカートを売っていた時にいた子で合っていて十三歳。
モリスくんは教会から宿泊施設"アルブル"まで一緒に歩いた時にいた、あの中で一番年上だろう子で十六歳。
「はい、やります!」
元気なのはカールくんだ。
「どうやってきれいにしたら良いですか?」
内容を聞いてくるのはモリスくん。
クーとルーを家に入れると、まずキャンピングカーの中身でここへは置いておかない荷物をサーラちゃん、カールくん、モリスくんの四人で玄関先まで上げてしまう。
毛布なんかは一度洗って、改めてソファーベッドへ収納するので玄関先へ。
残った食材も、もちろん自宅へ。食器なんかの、一度きれいに洗いたい物もだ。
二人は驚きつつも、手を動かしてくれるので助かったよ。
私がシンク周りを磨いている間に、サーラちゃんはお風呂を。カールくんはトイレをお願いし、モリスくんは床を掃いて水拭きをお願いした。
中の掃除が終わると、外の掃除だ。
その時に色々しゃべった。中の時は、二人とも掃除をしながらあちこち見るのに忙しかったからね。
「カールくん、カートの売れ行きはどう?」
ギルドから聞いてはいるが、生の声を聞いておきたい。
「すっごく売れてるんだ!
みんな慣れたし、作るのも早くなってるけど、ちょっと作るのはギリギリかも」
そのうち落ち着くから、極端な対応はしない方向だがなんとかなるかな……?
「ギルドの人も初めだからすっごく忙しいけれど、今すぐほしい人が減れば落ち着くって言ってたしさ。
それまでみんなで頑張るんだ!」
現状は、何とかなりそうって話通りって事だな。
まあ、他の孤児院でも作っているしね。
「そっか、しばらく頼むね。
他に頼む仕事ができたらまたお願いする心算だけど、ご飯は前と変わった?」
心配なのはそこだ。ちゃんと子ども達に還元されているのか?
「古くないパンが出るようになったし、おかずも良くなったよ!」
カールくんは、本当に嬉しそうに話してくれた。服も、前より早目のタイミングで変えてもらえた子どももいるらしい。
良かった、ちゃんと子ども達に還元してくれる組織で。
「モリスくんは、あれからアルブルには泊まってる?」
今度はモリスくんから、アルブルの事を聞こう。
「泊まってるよ。夜食べるのを少し減らせば朝も食べられるし、誘拐とかの心配せずに朝まで良いベッドで寝れるしね。
おかげで、ちょっと調子が悪かった弟が元気になって来てるんだ。
その……、……、オレ達が泊まれる宿を、作ってくれてありがとう」
お礼を言われるために作ったわけでも、私一人の力で運営しているわけでもないので、何とも面映ゆい。
「喜んでもらえたら充分だよ」
そう答えるも、ちょっと照れてしまったさ。
「たださ、ちょっと問題があるんだ」
えっ?! タイガさんからは、何も問題はあがってきてないんだけど?!
「何か問題点があった?」
何があるんだろうか?
「泊まりたい人が増えててさ、泊まれなくなる日が出るかもしれないんだ」
「あー、そっか。聞いていたより泊まれる人が多いのか。
んー、施設を増やせるか掛け合ってみるよ」
これは、把握しきれていなかったミスだな。後々はカプセルホテルとして運用するとして、増やせるかは掛け合おう。
冬までにはどうにかしたい。夏より、冬を越すのが辛いだろう。
こうして色々話を聞けて、とても楽しい掃除の時間となった。
二人には仕事の報酬に、銀貨二枚を渡したら、「多過ぎだろ?!」と言われた。一時間銀貨一枚は多いのか?
まだまだ一般常識に疎い事も実感した。
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