41:お宅拝見
シュバツェル16年4月22日(金)
きょろきょろと辺りを見回してしまう。お父さん達が住んでいた旧宅とも、やっぱりちょっと違うな。
ここは義兄夫婦の家だ。普通の生活が知りたいと言った件。それを知り「なら、うちに来れば?」と、ローリエさんが言ってくれたのだ。ありがとう。
お言葉に甘えて、サーラちゃんとローニーさんとお邪魔している。
お宅があるのは外防壁に近い、若い人が買いやすい価格帯の家が多い一角だ。
外観はこじんまりした木の家で、瓦も木でできている。
中は良く磨かれてはいるが、窓も小さくちょっと暗い。
間取りは2Kで、洗濯する洗い場が屋内にあるタイプ。
体も洗うスペースだから、これを風呂と呼ぶなら風呂、トイレ付きの2Kだろうか? プラス、小さいながら食料保存庫の地下室も付いている。
ここは何かあった時の避難場所にもなるそうで、たいていの家にあるそうだ。
「窓って、こんなに小さいものなんですね」
中世のお城の窓みたいに小さい。網戸はないよ。
「最近はガラスもずいぶん安くなって、ガラス瓶なんかも庶民でも買えるようになったけどさ。ちょっと前までは、ガラスを使った窓があるだけで高い家になってたから。
この家は、そんな頃の建物になるんだ」
なるほど。磨きこまれた艶のある床が歴史を物語っているのは、この国の諸々に詳しくない私でも分かる。
前の住人は家を大切にする人物だったんだろうな。
「キッチンのシンクは石なんですね。
昔の日本の家にもありそうかも」
「それはかなり昔からそうみたい」
シンク下は石の煉瓦で組まれ、上に石のシンクが載っている。
モルタルのような物で煉瓦同士も、煉瓦とシンクも固定されている。
「コンロもその頃のものかな? かなり古そうですね」
横長の薪ストーブのような作りで、たぶん鍋を嵌めるのだろう穴が、上に二ヶ所開いた感じだ。
五徳やそれに該当する物は見当たらない。
火加減は左と右で火力が違っていて、鍋を移動させる感じなのかな?
鍋を入れる穴を使わない時は、専用の蓋をするようだ。
煙突があるが、恐ろしく暑そうな環境だなぁ。
「薪オーブンが現役の家も多いから、これでも新しい方なんだよ」
薪オーブンってなんだ? 聞いてみると、石窯みたいな作りだと思う。
中を薪で温めて、炭をよけて金属の鍋を入れ煮炊きするそうだ。ピザの代わりに鍋を入れるイメージで良いのだろうか???
「水はどうしてるんですか?」
「井戸まで行って汲むのは大変だから、それは奮発して水の魔石を買ったよー」
ローリエさんは「ほら」っと言って、スポンジ置きみたいな所に置いてあった魔石から水を出してくれた。
「これでどこかに貯めるんでしょうか?」
「うううん。水が腐る事もあるから、必要な時に出して使うんだよ」
オウっ。衛生的だが不便だろ。
「魔石をセットして使える、オンオフの機能のある蛇口とかはないんですか?」
それくらいはありそうだが、ないのか?
「あるよー。お義父さんもお義母さんも、うちの両親も嫁入り道具に買うって言ってくれたんだけど、ダンナと自分たちで買い揃えようって決めてて断ったんだ。
しばらく昔ながらの生活したら、魔道具のありがたみが身に染みるよねって。
若い間ならそんな不便も、体力と力でカバーできるしさって話したんだよ」
しっかりした考えを持っているんだな。そう笑うローリエさんは私より年下だったはずだが、ひどく大人びて見えた。
「お義父さんが壁と床に断熱材入れてくれて、屋根も葺き替えてくれたから、見た目やなんかより良い家なんだよ」
とも。屋根も何かしていたらしい。
断熱材入れていなくて、外気温と変わらない室温なんて凍死できる!
それは入れさせてもらえてて良かった。
キッチンには、他は冷蔵箱やカートL字型(小)など、見慣れた物や食器棚とテーブルセットが置いてあった。
キッチンを見終わると、他の部屋も見せて下さる。
「夏に虫は入って来ないんですか?」
それはお父さんが『蚊帳』をくれたそうだ。テーブルで使う、食卓カバーと一緒に。
蚊は病原菌の媒介をしたり、ハエは菌の運搬をする事がある。
病気の治療が未発達なこの世界では、それらの虫に気を付けるにこした事はないな。
家具は他にタンスがあった程度。
見聞きせてもらった限り、お父さんは最低限の事はしているみたい。さすが、お父さん。
◇
さーて、お昼。
キッチンをお借りして、料理の腕を振るう。
薪ストーブのコンロに火を入れ、鶏肉の厚みを包丁を入れて均す。塩胡椒で下味を。
片栗粉がなかったので、代わりに軽く小麦粉をつける。小麦粉は片栗粉より焦げやすいから、焦がさないように注意。フライパンが温まったら、スライスしたガーリックを投入。
オリーブオイルも少し入れて、香りが出たら鶏肉を投入。ガーリックが焦げそうだったので、一旦取り出しておく。
皮目から焼き、焼き色が付いたらひっくり返す。焼き色も、小麦粉を使うと濃くなるのがまた美味しそう。
少し水を入れて蒸し焼きにして仕上げる。
横では別の鍋で玉ねぎに軽く塩を振って軽く炒め、しんなりしたところで水を入れて煮ている。
少しのバターと胡椒も入れる。
鶏肉のソテーした鍋に残っている油などに、トマトソースを入れて煮詰めてソースは完成。
ソースと言っているが、トマトの水煮の事だ。最初は戸惑ったが、もう慣れた。
これで火が通ったら、鶏肉のガーリックソテーとオニオンスープのできあがり。
スープは出汁がないので、ローリエさんに味見してもらって調整をお願いした。
◇
「えっ、なんで鶏肉がこんなに美味しいの?
良い鶏肉買って来てくれたの?」
「普通のですよ。肉の厚みを均等にしたら、火の通りにムラがなくなるんですよ。たぶん、それでです」
真似しよ、とは、ローリエさんとなぜかローニーさん。
「美味しい? サーラちゃん」
うんっと元気に食べるサーラちゃん。かなりカトラリーの使い方が上手になっていて、口のまわりも割ときれいだ。
サラダなんかも好き嫌いせず、ちゃんと食べる。今日出したサラダもちゃんと食べている。お利口さん。
「んーっ!!!
マヨネーズもお義父さんのとちょっと違うけど、美味しい~!」
「お父さんのは季節の柑橘類の果汁が少し入ってて、酸味が強目だよね」
「スープもバターが少し入ると、味が変わるものですね」
「コクが出るんだよ」
食事が終わってもあれこれ話し込んで、結局夕方近くまでお邪魔してしまった。
◇
帰りの馬車の中。ローニーさんにどうでしたと聞かれた。
「家は断熱材だけでも入れたら違うみたいだね。お父さんの旧宅、もっと風が入ったし、寒かったよ」
「ああ、暖炉があっても暖炉の周りしか温かくないですし、ツヨシさまが普及に取り組んでいらっしゃいますね」
断熱材、重要だね。お父さん、頑張って普及させてね。
ローニーさんのお宅は、寝室だけ断熱材を入れるリフォームをしたそうだ。寝室だけでも、施工は重要だね。
あるのとないのでは、全然違う。
「寝袋も良いかと思ったよ。リフォームより安いと思うし、工事もいらないから」
ファスナーの代わりをどうするかとか、安くて保温性の高い物を探さなきゃな。そんな事も付け加えて、寝袋の説明をする。
「明かりも天井から下げれたり、テーブルに置けたり手持ちもできたりする形状で作りたいな。
天井に固定だと部屋ごとに明かりが必要だけど、持ち運べたら、一個でも便利にならないかな?」
今はランタンと室内で固定して使う物に別れつつあるらしいが、ちょっと時代に逆らってみようと思う。
形は持つところが短い懐中電灯が良さそうかも。
究極形は、裸電球だろうか……。
見た目はアレですが、価格は一番安くなりそうだと言ってくれても微妙だよね。じゃあキャンドル型? いや、もういっそ懐中電灯型のままで良いような……。
まあ、納得するものをゆっくり考えよう。
「夏に部屋が暑くならないように、薪ストーブの煙突の熱を防ぐ物もほしいね。
シンクも錆びない合金とかで作るか、使ってる物を合金でコーティングした方が衛生的になるんじゃないかな?」
そんな事をあれやこれやと話ながら、家に帰り着くまで話したのだった。
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