4:買い物ならぬ物々交換
泣いてグチャグチャの顔を洗って、髪ももう一度手ぐしで整えたらマーチャさんと買い物だ。
店舗形態の店が開くには、まだ早いらしい。なら、マーチャさんには自転車のハブステップに乗る練習をしてもらおう。
服屋へは、家から北の方へ徒歩二十分くらい。
雑貨屋は、家から南の方へ徒歩小一時間くらい。
服屋からは、真っ直ぐ雑貨屋へ向かう方が早いらしい。
すぐ出かけられるように、転移してきた時に背負っていたリュックも台所の椅子へ持って来た。
そしてマーチャさんにメモ用紙にシャープペンを渡して、簡単な地図を描いてもらった。
目的地は"く"の字を書いて、始点が服屋。曲がった所がここ、ご夫妻の家。終点に雑貨屋が当て嵌る。
あ、マーチャさんは紙の質とシャープペンの書き心地に感動しいてた。
地球の、いわゆる先進国でも日本みたいな紙ではないそうだから、ここならそうなるよね。
ふむ。坂もあるんだろうけどさ。服屋と雑貨屋以外も回るなら、徒歩より自転車でしょ。路線バスの機能をするっぽい、乗り合いの馬車もあるらしいけど。うーん……。
荷物が余程重くならないなら、自転車でいいよね。店先まで行けるし。
◇
「っぎゃ……っ。ぎゃーっ、怖い怖いぃ」
とは、転けないギリギリのスピードで走る自転車のハブステップに乗ってもらっている、マーチャさんの絶叫。
そこそこ重量のある馬車が疾走しても壊れない、丈夫な素材で舗装された、でこぼこもほとんどない家の前の道。
スカートの裾を、ダブルクリップで二ヶ所止めてボトムスみたいにして。さらに、万が一足が見えないようにと寒さ対策に、ロングブーツを履いてもらった上でタンデムの練習を開始したんだけど……。
この綺麗に舗装された道で、ほとんどスピードも出てない初乗りでここまで怖がると、タンデムで買い物は無理かなぁ……。
かなり心配だったけど、しばらく走るとすっかり慣れたらしく、「暖かくなったら、風が気持ち良いでしょうね」と笑う余裕が出てきたので、買い物は自転車で行く事で決定。
少しスピード出しても、平気なまでになったしね。
九時前と、家を出るのにいい時間になったので、手袋をして鞄を持って出発ーっ。
したけど、練習の時はマーチャさんの絶叫で、多分、常よりなお人目をひいていたのが、自転車という見慣れない乗り物ってだけで目立っている!
滅茶苦茶見られている!
ベルを鳴らしながら上手く人を避けて運転したけど、なかなか苦労した。誤算だ。
そんなこんなで、どうにか服屋に到着。何か疲れた。
マーチャさんにはスカートに付けたダブルクリップを外してもらうと、店内へ入り、お店の人に頼んで自転車を店内へ入れさせてもらった。そして、早速服を選ぶ。
服に限らず、手作りの一点物の新品か中古を買うかになるそうだ。昔ってそうだよね。何か新鮮。
一枚も着替えがないので、多分綿素材の、手触りが良くて小綺麗なメンズ物から、長袖のロンT二枚。素材は羊毛かなぁ? 自信ないな、なジャケットを、一着チョイス。
この感じの時代だと、レディースでいいのかな? では、着丈も身幅も合わない。
マーチャさんが身長がちょっぴり高い方で、155センチあるかないか。小さい。
メンズでたまにいるのが175センチくらいらしいから、レディースでは無理。
私の身長は173センチある。レディースで探すより、メンズで探す方が早い。それでも袖が短そうなのは……。
ボトムスは、女性はスカート一択らしいけど、断固拒否!
逆ナンされる程の男顔でスカートとか、似合わないにも程がある。
が、レディースのボトムスはないので作るよ……。これも広く浅い趣味の一つ。
あー、ミシンあるのかな? ひいおばあちゃんとおじいちゃん夫婦が住んでいた家にあったような、足踏みミシンってタイプで充分だから……。
パジャマは男女とも、ワンピースタイプしかないらしい。
何故だ? そう思っても、ないものはしょうがないので、これもメンズ物で二着チョイス。
素材は分からないけど、かなり気持ち良い肌触りの物。
流石に肌着は新品だけど、新品だけどさ……。ブラジャーもパンツも作るよ……。
ブラジャーはそもそもない!
詳しくないから合っていないかもだけど、パンツはかぼちゃパンツとか、ズロースとかのデザインしかない!
はあ、作る物が増える。
作るなら、せめてゴムはあるんだろうか? お願いだからあってくれ。
靴下はあったーっ。新品で三足チョイス。
ゴムは使われてないっぽい。ゴムはないのかも。
デザインは置いておいて、買いたい物はどれも縫製はまだしっかりしているし、擦りきれとかの傷みもないわねと、マーチャさんのお眼鏡に叶ったので良かった。
だだ、「オオシロと買い物してるのかと思うくらい、男性みたいな買い方で残念」と言われたよ。ははは。
これ可愛い~、とか、こっちとこっち、どっちが良い? みたいな買い方は出来ないもので……。
なんで、日本でも女友達と買い物は楽しみがないって言われたもんだ。
さて、支払いの段になり、店主さんにこれで支払いの足しになりませんかと相談。
出したのは100均で買った五本組のボールペンのうちの一本と、大き目のダブルクリップ二個と中くらいのダブルクリップ三個。後はクリアファイル二枚。
各一袋しかないから、ちょっとずつね。
店主さん、ボールペンに感動。インクを付けなくても、すらすら書ける! と。
ダブルクリップも、何て画期的な洗濯ばさみだ! と。いや、違うから。
クリアファイルは、この材料はなんだ? ガラスじゃないのに透けて向こうが見える! しかもくにゃくにゃ曲がる! と。
それぞれ水はダメとか、落下で書けなくなることもあるとか、これは火に弱いとかの説明をして……。
結果、一式もう一組欲しい! 生地でも何でも、ある物から何でも選んで良いから譲ってくれと、肩をガクガクするほど揺すぶられた。
そんな訳で、ボトムス作るのに、フレアスカートが作れそうな大きさの生地を三種類チョイス。
生地だから、服などの形にした手間暇がかかってないため、かなりの量を確保できた。
肌着に使えそうな生地も、フレアスカートが一着半作れそうなサイズをチョイス。
ゴムはなかったが、毛糸はあるとの事。
毛糸も文具とまだ交換出来る範囲内か確認した。珍しいものを交換してもらえるから、おまけしてくれるというありがたいお申し出に感謝しつつ、ベージュ系の毛糸を一玉。
自転車を奥へ入れさせてもらったお礼に、ポケットに入っていた飴を差し上げつつ、対応に本当にありがとうございましたと何度も頭を下げて店を出る。
店を出て、重い生地はかごへ入れて落ちないように適当に固定して、他のは肩から上手く袋を提げる。マーチャさんにはまたハブステップに乗ってもらい、家を目指す。
思ったより色々買えて、荷物が多くなったから。無理せず置きに帰るよ。
家に着き、荷物を置きに家に入ると、マーチャさんから一言。
「優。オオシロは、かなり稼ぎがいいの。お金の心配はいらないから、良いもの、好きな物を選んで」
この言葉に、また涙が溢れそうになる。
「ありがとう、マーチャさん。
食事や部屋、何より形として見えないものできっと沢山お世話になるから…………。金銭面では可能な範囲で、負担は減らしたいなって。そう思うんだ」
涙が溢れそうなのを押さえ、くしゃっとしたぎこちない笑顔を向ける。
すると、ハグをされながら、
「いつか、そんなの気にせず甘えてね?
親戚のおじさんとおばさんに甘えるつもりで、何も考えずにね」
良いご夫妻に拾われたなと、また泣けてしまった。
お読み下さってありがとうございます。
【 貨幣レート 】
銅貨一枚:十円
↓
鉄貨一枚:百円
↓
銀貨一枚:千円
↓大きさと厚みによりこの設定
大銀貨一枚:五千円
↓
金貨一枚:一万円
↓大きさと厚みによりこの設定
大金貨一枚:一万五千円
服屋さんでの買い物の対価としての文具は安いですが、珍しいものに対して価値を見い出した結果として、物々交換が成立したとしています。
ゆる設定で流して下さいな。
一番価値があったのはきっと飴(笑)
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