36:鰹節は必需品
シュバツェル16年4月17日(日)
朝ご飯を食べ、キナル第二王子殿下は旧王城へとお帰りになられた。
「次は、"さま"付けで呼んでもらえれば嬉しいよ。
また、会おう」
などと言い残され。
いや、私のいない日にお越し下さい。
◇
その後、家族そろって買い物へ出掛けると、丸投げで色んな方にお世話になりっぱしで形になっているアイテムの一つ、カートがちらほら見受けられる。
「これ、最初の納品分は、すぐ売り切れるんじゃないか?」
「そんなに売れるかな?」
見かけてはいるが、売り切れるほどとは思えない。
お父さんもお母さんも「売り切れるほどだろ」って言っている。
お父さんとお母さんの間で、サーラちゃんは両方から手を繋いでもらう形で前に三人が。その後ろに、カートL字型(小)をひきながら、私とサイラさんが並ぶ。
ローニーさんは今日はお休みだ。
「徒歩の間に使える、こういった品はありませんでしたからね。
我が家も買いましたよ。義母が大変喜んでました」
「うあ?! 照れるな。ありがとうございます」
おお、市場の端でカート売っているよ。そして、買われていっているよ。
カートL字型(小)を、市場で売りたいと言ったのは孤児院の子ども達だ。どこで売れば売れそうかを考えてくれて良かった。
「おはよう。売れ行きは順調?」
「あ、おはようございます、優さま!
二十個作って来たんだけど、お昼までに売り切れるかも!」
「よく売れてるんだね。
あ、うちにも持って来てくれてありがとう。早速使ってるよ」
そう、使っているカートは、子ども達が持ってきてくれた物だ。麻袋を乗せて、ハンドルの左右に取り付けて荷物が落ちない工夫をしてあるが。
箱だと重いし、当たると痛い。麻袋ごと荷物を縛るロープもつけている。
「色々工夫すれば良いって、そういうのなんだね!」
「そう。使いやすくすれば良い。最初からかごが付いてると邪魔になる事もあるからさ」
「あ、やっと見つけた。あったあった」
ん? この声は……。
「あれ? 優嬢? みなさんお揃いで……」
「ローニーさん。あ、ご家族のみなさんですか?」
「夫がいつもお世話になっております」
「こちらこそ、お世話になってます。
いえ、お世話になってばかりかも」
ちょっと世間話をしてローニーさん一家と別れ、そのタイミングで子ども達の邪魔にもなるのでその場を離れた。
話している間に、お父さんがおじいちゃん家用に一台買ってた。
「子どもが大ききくなると、食べる量も増えるからな。じゃが芋だのを大量に買って帰るのも、そりゃ大変になるんだ」
さすがに実感がこもっているな。
何にせよ、必要な人のお役に立てばそれで良い。
「エバーソンが自宅に早くほしくて試作を急がせていたから、下手したら、もう井戸に実験分の巻き取りドラムが設置されてるんじゃないか?」
「それはショッケンランヨウ……」
「開発急がせるのは仕事だろ。寄越せと言えばそうなるだろうが、あいつはそれは嫌うからな」
そんな事を話しながらじゃが芋だ、人参だ、玉ねぎだのを買い回る。
家族でうろうろしていると、サーラちゃんの服を見ている人もいる。
今日は、私の作ったガウチョパンツとロンティーだ。
ロンTの方が、特に人目をひいているっぽいな。元々王都だったお土地柄なのか、目新しい物にも敏感なのかも。
サーラちゃんは気恥ずかしそうではあるが、それ以上に楽しそうにしている。
オニューの服だもんね。みんなと一緒のお出かけだしね。
「お母さんの店は、いつオープンするの?」
「二十五日の月曜よ。まだみんなミシンはゆっくりだけどずいぶん慣れて、開店には予定の数の服を揃えられそうで安心してるの」
「開店の時には、サーラちゃんの着てる服も並びそう?」
「もちろんよ! 大人の物も作るの」
宣伝くらいしておこう。お店、繁盛すると良いね。
「それにしても、大きな市場だね」
「はい、毎週日曜だけは特別な規模で、少し遠くの農村や港からも商品が集まりますから」
「へぇ、そうなんだ。
お父さん、魚介の乾物扱っている店があったら見たい」
「それなら、ちょっと前に一軒通り過ぎたな。戻るか」
「うん、お願い」
来た道を戻り、乾物屋を覗いてみる。
「見た事ある感じの物も多いね」
「お、鮭トバがある。これは買いだな」
「こっちはサンマ? 一夜干しとかかな?」
「いらっしゃい、そっちは鮭トバ、それはサンマの一夜干しで合ってるよ!」
「お父さん、サンマ買って。あ、ちりめんじゃこ? もある」
「詳しいね! ちりめんじゃこも合ってるよ!」
「ありがとう。
おじさん、削る前の鰹節、あれば削り節は扱ってる?
名前合ってるかな?」
ほしいのは削り節だ。これを手に入れたいのだ。
「鰹を加工した物で、出汁とるやつかい?」
「うんそう、それ!」
「今日は、生利節の良いのだけだね」
「そっか、残念……」
削り器はあるとの事で、それも併せてお父さんに買ってもらった。
削り節、せめて削る前の鰹節、荒節がほしい。
「お父さん、全部の乾物屋の確認しながら進む?」
「そうするか」
二人でせっせと乾物屋を見て回る。
最後の最後に干物屋に行きあたり、目当ての荒節を手に入れられた。
ついでにいりこも手に入れた。
◇
「はあ~、鰹節……」
「出汁香るうどん……」
「お好み焼きの上で踊る鰹節……」
「ちょっと、もう二人ともっ。怖いわよっ。
サーラちゃんが怯えてるじゃないの!」
削り節に思いを馳せ過ぎていたようだ。サーラちゃんは怯え、サイラさんは引いている。いかんいかん。
「ごめん、ごめん。出汁に必要な鰹節が見付かったから、つい……」
「すまん。俺も、つい……」
お父さんはサーラちゃんの頭をなでて、目線を合わせてごめんなと謝り、私はごめんねと目を合わせて謝った後、ハグしてからもう一度謝った。
「お二人がそんなに夢中になる、『鰹節』という出汁が気になるところではありますね」
「出汁の種類を料理によって使い分けたり、二種類の出汁を合わせたりして使い分けるものなんだ。
出汁は鰹と昆布がないと困る」
「後は出汁じゃないが、日本酒と酢がほしいなぁ」
私たちは、それを作るとは言わない。自分達の手には余るからだ。だが、あれば良いなとは願ってしまう。
そして、私は知らない。削る前の鰹節を削るには、なかなかの技術が必要だという事を。
「ニホンショクには、色んな出汁が必要なのね」
そして、母も知らない。ニホンショクには、色んなソースが必要だという事を。
「マーチャさんのご実家の宿で食べられるのを、楽しみにしております」
いつかもっと調味料が揃えば良いなと、思う私だった。
◇
「あっれ? 日本のおばあちゃんはスムーズに削ってたんだけど? 塊が落ちるだけだ」
早速削り節を使うべく削ってみるが、どうも上手く行かない。
「削る向きとか変えてみたらどうだ?」
サーラちゃんが踊る鰹節に興味を持ったようなので、遅くなったがお昼ご飯に豚玉を焼こうと用意しているお父さん。絶対にうきうきしている。
「それでも上手くいかないんだよー」
荒節が日本の物とそんなに違うのか、それとも削り器の刃かと二つをまじまじ見てみる。
「どれ、ちょっと代わってみよう」
……鰹節を削るのは、お父さんにお任せしよう。
出来上がった豚玉の上でゆらゆら動く削り節を、サーラちゃんは不思議そうに眺めていた。
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