31:デイキャンプと仔犬
シュバツェル16年4月10日(日)
晴れだ。暖かい。おでかけ日和だ!
たまには自ら自然の中へ行って過ごしたい。
「お父さん、日帰りキャンプ行ってきても良い?」
「お? 何だ? そんなキャンプがあるのか?」
あるんです。
「うん、たまに日本でしてた」
「ローニーは一緒に行くんだよな?」
「もちろんです」
考えるお父さん。行きたいよう。
「腕っぷしは? 魔物や盗賊から娘を守れるくらいの腕はあるかい?」
うえ? それ必要だった。
「護衛術も修めていますから、それなりには」
自信はあるようなローニーさん、何やらお父さんに耳打ちしている。
『優嬢にも護衛が付いていますので、ご安心を』
お父さんは一つ頷くと、許可してくれた。嬉しいな、ありがとう。
「ローニーさん、外防壁より外の森の近くで、魔物が出ない、人目につかない焚き火ができるような場所ってありますか?」
行くにしても、なるべく安全な場所にしよう。人に迷惑かけてまでする事ではない趣味だ。
「ありますよ。
外防壁に魔物が嫌がる臭いの蔓草が這っていますし、他の種類の忌避に効果のある植物もぐるりと植えています。
それが種を飛ばして、群生地になった場所が森の中にもいくつかありますよ」
やった、あるんだ! ゆっくりはできなくても、ちょっと息抜きくらいはできそうかな?
「変な場所へ行きたがってすみません。
日本には昼に野営のような時間を過ごす娯楽があって、それをしたいんですが良いですか?」
「前にもお伝えしましたが、やりたいようにして大丈夫ですよ」
それでも、危険の中へ自ら飛び込むのは考えものでしょ?
「ありがとうございます。
ちょっとだけ、デイキャンプに付き合って下さい」
もちろん、お供しますよと笑うローニーさん。頭ごなしにダメとは言わない、良い人だあ。
「じゃあ準備して、明るいうちに行って帰ってこよう。
お父さん、日除けに使えそうな布ってあるかな?」
「材木のカバーに使っている物の予備ならあるが、大きいか?」
「探していると時間がなくなるから、それ借りて良い?」
下に敷ける物も出しておくわ、とお父さんが下へ降りて行った。ありがとう。
手早くアヒージョの作れそうな小さな鍋やオリーブオイル、野菜、ペティナイフ、塩、コショウをかき集める。入る物は鍋に入れて隙間を作らない。パンも持たないと。
ナイフの刃を板で挟んでから布でしっかり巻き、安全対策。カッティングボードも持って、これで忘れ物はないかな?
寒いかもしれないからと、膝掛けを持たされた。
それらをお母さんが出してくれた鞄に詰め込んで、膝掛けは材木のカバーと一緒に馬に縛りつけよう。
お母さんに行ってきますと言い、まだ階下にいるお父さんのところへ向かう。
ロープも何本かあるかなと聞く前に、ロープと金槌を用意してくれていた。ありがとーうっ。
ローニーさんに馬車で移動と言われたが、常歩と速歩くらいの馬には乗れる。馬で行こう。鐙があるから多分平気。
ローニーさんは道具をうまく馬に積んで用意してくれた。
助かります。ありがとう。
「あ、そうだ。
お父さん、帰ったら野菜コロッケ作るから、じゃが芋だけ茹でて潰すのをお願いしても良い?」
「コロッケ?! やっとく!
ミンチはいらないのか?」
「あったら入れる」
「分かった、用意しておく!
気を付けて楽しんでこいな」
「ありがとう、行ってきます」
お父さんが変なテンションになっていたけど、知らないふりしよ。
道すがら、鶏肉を少し買い、ローニーさんの案内で目的地へ。
すぐそこに川も流れていて、気持ちが良い。
野草や薬になる植物を採取してる人をここに来るまでに見かけたので、それなりに安全らしくて安心した。
◇
お、斧持って来るの忘れた。
「斧ならありますよ。
ツヨシさまに渡されました」
万が一には武器にもなるし、焚き火の薪を作るのにもいると思う、とか。武器にはならなければ良いな。
お父さん、あれこれありがとう。
適当な場所を見つけ、斧でポールの代わりを作って、"レ"の形した枝を拾って、ロープを用意して……。
馬から下ろした材木のカバーを、レクタタープの要領で張る。
専用の物ではないから手こずったしちょっと頼りない張り具合だが、何時間かは保つ。だろう。たぶん。
馬の世話を終えたローニーさんが、驚いていた。
「器用なものですね。
これなら、しばらくの日除けには十分ですね」
タープの周りをくるくる回って眺めている。
長方形の紙を縦長に半分に折ったような形を浮かせたような物だから、見て回っても大した事はないんだよ?
「これならハンモックを事前に用意して、持って来た方が早かったかも。もっと日陰なら、タープなくても良いから」
ハンモック? と、ローニーさんが首を傾げる。
ハンモックの事はとりあえず黙っていよう。
また聞かれるかと思ったのだが、しかし、ローニーさんは空気が読めた。スルーしてくれた。ほ。
◇
「油を良く含んだ、乾燥した小さい丸太ってありそうですか?」
あればスウェーデントーチにして、薪をくべる手間を省いて楽をするつもり。
ローニーさんが辺りを探してくれるのについて回る。
ちょっと使うのに良さそうなサイズがなかったので、他の焚き火方法だ。
かまどを組み、松ぼっくりを入れティーピー型焚き火を組む。ファットウッドっぽい枝でフェザースティックを作って、と。
……ローニーさんにフェザースティックに火をつけてもらって、ティーピー型焚き火に投入。かなり念には念を入れたが、おかげで一回で火が焚き火に回った。
「ほあー、準備は入念にされてましたが、こんなに上手く焚き火をする人を初めて見ました」
「適当にやってなかなか火が大きくならなくて火が消えて、何回もするならちゃんと準備して、一回で焚き火ができた方が気持ちが良いでしょ?」
そのために色々動画を見て、実際にやってみて経験を積んだ。
すんなり焚き火を起こして、気持ち良く焚き火にあたれるように。
「そうですね、スムーズというのは気持ち良いですね」
火が安定すると、じゃが芋、人参、マッシュルームみたいなキノコ、ベーコン、鶏肉をカット。
軽く塩胡椒を振り、ニンニクを炒め、オリーブオイルを温めていた鍋に火の通りにくい野菜から投入。
蓋をして、ダッチオーブン風でオイルは少な目、極力オイルも残らないようにする。
「んー、この料理もなかなかですね!」
「はい。こうして外で食べると、格別美味しいです」
ピクニックにしろキャンプにしろ、外で食べるご飯は美味しい。
「パンにオイルを吸わせて食べるのも、意外と美味しいですね」
「色んな味がオイルに染み出してますから」
今日のはほとんど残りそうにないオリーブオイルの処理に、パンに付けて食べきる事が目的だったのはナイショだ。
簡単に布で拭って鍋や包丁などを持ち運べるようにしておく。ちょっとオリーブオイルを摂り過ぎて気持ち悪いな……。
「少し寝ても良いですか?」
このまま馬に乗るのはキツそうだ。
「かまいませんよ。ゆっくり休んで下さい」
お言葉に甘えて、三十分ほど寝る事にしよう。
◇
タープの下、マットはないが柔らかな土の上に敷いた材木のカバーの上。膝掛けを被り、寝ころんで目を閉じれば日本にいるんじゃないかと錯覚する。眠りに落ちる頃には、目尻に涙が溜まっていた。
何だかお腹が温かいな。むしろ暑い。
なんじゃ、これ?
「……野犬?」
私のお腹にくっついて丸まって寝ている、ブサカワ月齢真っ盛りの仔犬らしき生き物がニ匹。
親が来たらローニーさんは多分気付いただろうから、仔犬の迷い子?
「ローニーさーん、何か仔犬が……。どうしましょう?」
「お目覚めでしたか。
仔犬、ですか? 野犬はいますが……」
「ほら、これ。いつの間にか、私のお腹にくっついて寝てました」
ローニーさんをタープの下、寝ころんだままの敷物へ呼んで見てもらう。
やや痩せた二匹は、しばらく餌にはありつけていないのだろう。
「やけ……ん??? 狼っぽい気もしますね。
どちらにしろ、人の匂いがついた仔犬は、親が嫌がって育てないでしょう。はぐれたなら、生き残れるか否かはこの仔犬達次第です」
じゃあこの仔犬達は助かるよ。私を選んだんだから!
手早く辺りを片付ける。荷物を積んで、かまどをくず……。
「優嬢?! かまどを崩しちゃダメです」
「え? 日本ではかまどを崩して、使った薪の炭は持ち帰るのがマナーですが、こっちは違うんですか?」
そう、日本では焚き火のやり逃げはマナー違反だ。今、そんなマナー違反が増えている。
炭は自然に還らない。だから、ちゃんと人の手で持ち帰って処理しなくてはいけないのだ。
「はい、こちらでは"この辺りは安全だ"と知らせるため、焚き火の後はそのまま残します」
そうなのか。うーん、ちょっともやもやするけど、こっちのルールなら従うのが良いよね。
「……携帯コンロ作ろ……」
焚き火は楽しめなくなるが、料理はできる。それで折り合いを付けよう。あるいは庭キャンかな。
帰り道では、ハンモックやら油の多い木を探して使った事や、色々聞かれた。もちろん、携帯コンロもね。
仔犬達はおとなしくしている。膝掛けとロープで作った抱っこ紐みたいな物の中から、辺りを見ながらおとなしくしている。
膝掛けの両端をロープで縛り、首にかけれる部分と背中に回す部分を作ったから、ただぶら下げるより揺れないようにしているので、それも良いのかも。
餌は何が良いかな。
「毎日与えるのであれば、オーク肉が手頃かと。
多分、その子達の親も食べていたはずですから、豚や鶏肉より馴染みがあると思いますよ」
「オーク肉……。それにします」
食べたら美味しいかも知れないが、私は食べたくないな。
え? エバーソンさんが呼んだ屋台にもあったと聞いている? ……食べたかも。やけに美味しい豚串を食べたが、もしかして……?!
◇
「お父さん、お願いっ」
白い方の仔犬を、お父さんの目の高さでぶらーんとしてお願いしている。
ぷるぷる震える丸っこい、仔犬特有の体。潤んだつぶらな瞳。きゃふんという、弱々しい鳴き声。
鳴き声につられ、潤んだつぶらな瞳を見たお父さんは、あえなく陥落しましたとさ。
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