30: 暖かな家を
シュバツェル16年4月9日(土)
今週も土曜日がやってきた。
今週は通常営業だといいなぁ。
今日はお父さん達と一緒に、お母さんの実家の宿屋"金の大鷲亭"へ向かう。
前の家からは近かったが、新しいこの家からは距離があるため馬車で向かう。
夜道の帰り道は特に危ないって話だし、距離もある事から馬車を使う事にしたそうだ。
「ヴー。車酔いはした事がなかったけど、馬車は酔いそう」
「この馬車には単純なサスペンションは入ってて、かなりましなんだよ」
えぇ~、これでましなの?
頑張って良いサスペンション作るから、我慢しろなんて言われた。
後に魔道具ギルドから、この世界の人が作ったサスペンションが販売となるのは、少し先の事だ。
「やあ、優。先週はありがとう。
仕事中は忙しくて話もできず、閉店後の賄いの時はぐったりしていて、挨拶どころではなかったから残念だったよ。
ワシはダーナと呼んでくれ」
「本当にありがとうね。計算が早くて驚いたわ。
私はマルガリットと呼んでちょうだいね」
「お義父さん、お義母さん、紹介します」
「私達の娘、芦屋大城優よ」
お父さんは"芦屋"の姓を残してくれた。
芦屋夫婦の娘で、今は大城の娘といって。ありがとうね、お父さん。
「芦屋大城優です。
こちらこそ、いきなり入ってすみませんでした。
ダーナおじいちゃん、マルガリットおばあちゃん、宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げて挨拶する。何か、照れるね。
おじいちゃん、おばあちゃんって。
「で、こっちが兄夫婦。
先週は他の町に働きに出てる子どもが大きな病気をしたって連絡があって、看病に行ってていなかったの」
「やあ、初めまして。マーチャの兄のダンズだ。
普段は調理場を担当している」
「私はダンズの妻でキエール、宿の担当よ。宜しくね。
とっても格好良いって聞いていたけど、本当にそうねっ」
男っぽい外見の事を、あからさまに言われたのは初だな。
「さあ、昼に間に合わなくなる。
仕事にとりかかろう」
そうしてみんな動き出した。おじいちゃんも伯父さんも何となく、これとこれがあればあれが作れるくらいの感覚はあるそうだ。お父さんのニホンショクの食材は、それを元に仕入れているらしい。
今日は豚のしょうが焼き、豚と野菜の炒め物、厚焼き卵、根菜の煮物、じゃが芋の肉あんかけ、味噌汁の以上に決まった。
そして皮剥きから取りかかり、いくらか剥けると煮物、じゃが芋の肉あんかけから煮込み始める。
六時で帰るのが困難と判断して、相談の結果、サイラさんは十一時と決めたより少し早目に出勤。
お母さんも時間まで皮剥き。終わらせるぞ~。
今日はサイラさんがレジ係、お母さんは手の足りないところのサポート、横並びに作られたコンロの一つで、私は豚のしょうが焼き担当。
お父さんは豚のしょうが焼き、伯父さんは豚の炒め物、おじいちゃんは厚焼き卵をそれぞれ担当。
煮物とじゃが芋の肉あんかけは、ちょっと離れたところにある、昔、追加で買ったという一口コンロを二台使って煮込んでいる。
お父さんがここでニホンショクを作り始めた頃に買った物らしい、年季モノだそうだ。
十二時の、お父さんのニホンショク食堂開店を前にトイレをすませたり水分を摂ったりして、洗い場とお皿拭きの女の子達も揃って、いざ、開店!
◇
うーっ。腕が、足が……。
有難い事に、今日も大繁盛だったよ。
毎回らしいが、食材が足りるか確認に来てもらったお肉屋さんに豚の追加注文をして、夜の分を確保したくらいの大繁盛だった。
野菜も見に来てくれたのだが、今回は足りていたので追加はなし。
「サイラさん、大変だったでしょう? ご苦労様でした」
「立ちっぱなしは、意外と疲れるんですね」
「ちょっと動ける方が楽ですね」
もっと暇なはずだったんだが、おかしいなとお父さんとおじいちゃん。
「賄いを食べていって下さいね」
伯父さん、ありがとう。
「ありがとうございます。
夫がそろそろ迎えにきますし、家で義両親が子ども達をみてくれていますが、子ども達も待っていますから、これで失礼します」
「えっ?! 既婚者だったの?!」
「これでも結婚は遅かったんですよ?
それでも良いご縁がありましたから、結婚しました」
既婚者だったとは。これからは、遅くならないように気をつけよう。
引き留めるのはかえって申し訳ないので、お父さんと伯父さんは鍋にしょうが焼きと厚焼き卵を詰めてサイラさんに持たせてくれた。
ありがとう、ありがとう。
あれ? 通勤に使うって言っていた馬車は?
昨日の帰りに故障してしまって、代えが用意できなかったと。
出勤は徒歩で、帰りは旦那さんにお迎えを頼んでいたと。
お父さんの馬車を出してもらったよ。ご飯食べているから、しばらく使わないし。
「お子さん……、従兄のご病気はもういいんですか?」
「心配してくれてありがとう。
もう病院も出たし、大丈夫だよ」
「暖かくなったり寒くなって寒さが続いたりして風邪が酷くなったみたいだけど、もう心配ないって言われて帰って来たの」
「元気になって良かったですね」
風邪はバカにできない。死ぬ事もある病気だ。
「裏の父さん達の家で休めたら、もっと早く良くなったかもね」
「裏の家?」
「ツヨシが父さん達に建てた家があるんだ。
何度かあっちで寝たけど、あっちの家に入ると冬は出たくなくなるよ」
およ? 床暖房があるのかな?
「マーチャから、靴を脱いで上がる家も素晴らしいと聞いたよ。
ワシらに建ててくれた家は、靴のまま入れて床暖房もしてくれているが、あれは新しい金の大鷲亭にもしたいなあ」
「隙間風がないから、ヒーターだけでも暖かいけどねぇ」
おお? 建て替えの話になりそう?
「我が家は風呂以外は床暖房にしてありますが、宿の主人の寝室だけとか、決まった場所だけ床暖房にもできますよ。
宿全体にしても、部屋毎にスイッチを作っておけば、必要なところで必要な時だけ使う事もできます」
「……泊まれる者がいなくなる高級宿ではなく、ワシらにも建て替えられる宿を頼めるのかい?」
「ちょっと高級な、良い宿くらいならどうです?」
「ツヨシがニホンショクを作るようになってからずいぶん蓄えができたから、頑張るよ。
足りなければ働きながら返すよ」
「床暖房は入れずに、ヒーターで過ごすならかなり安くなりますよ。ヒーターを有料の貸し出しにすれば、宿代は抑えられます。
冒険者や商人が泊まって遠方に宣伝もしてくれるでしょうから、その分も引きますよ」
「そうね、こっちでは暖炉に火を入れる寒い夜でも、あっちはヒーターも使わなくても過ごせたし、それもいいかもねぇ」
宿の朝は早いので、後日伯父さんとお父さんで話し合って建て替える事が決まった。
◇
「これで兄さん達も暖かな家に住めそうだわ。良かった……」
「ああ、長らく頑張ったあの宿は、手を入れてもそろそろ建て替える方が安全になったと思うし、お義父さんの気持ちが立て替えに傾いてくれて良かったな」
「両親にはあの家を建ててくれて、寒さで凍え死ぬ心配をしなくてよくなった事も感謝しているのよ。
本当にありがとう、オオシロ」
安全で暖かな家を知ったら、大切な人にはそんな家に住んでほしいよね。良かったね、お母さん。
帰りの馬車の中では寝たふりをして、両親のそんなやりとりを子守唄にして聞いていた。
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