3:ありがとう
ちゅんちゅん。
ピーチチッ。
みたいな鳴き声ではないけど、鳥の声が目覚ましの清々しい朝。
昨日は午後丸々寝ていたから、夜は寝れないかもと思っていた。精神的に疲れていたからか、夜もしっかり眠れた。
ベッドは畳ベッドみたいな感じで、割りと寝心地は良かったのは有難い。
敷布団は敷布団って感じで、可もなく不可もない。掛け布団は……。保温性が足りない。
日本の季節に当て嵌めるなら、多分今は、三月の終わりか四月の初めくらいの春。住んでいたのが関西のあまり雪の降らない地域で、その四季しか知らないけどね。
末端冷え性はあるけど、基本的に寒がりではない。むしろ暑がりで困るくらいだが、ちょっと冷えた。
大きな物音を立てないように気を付けながら一階のトイレを目指す。
洋式の便器なのと、一応水洗で匂いがないので快適だ。
そろっと一階へ降りると、もうマーチャさんが台所に立っていた。
「おはようございます」
「おはよう、優。まだ寝てて良いわよ」
「ありがとうございます。昨日は午後はご飯の時くらいしか起きていなかったから、寝過ぎてダルくなる寸前。
身支度が終わったら、手伝いをさせてもらえれば嬉しいです」
「そうなの? じゃあお願いしようかしら」
「はい、また直ぐ来ますね」
トイレを済ませ、お風呂の脇にある洗面所で顔を洗い、部屋に戻って日本の服に着替え、台所のマーチャさんの所へ戻る。
手伝いといっても、調味料や台所の勝手が分からない。野菜を切ったり、出た洗い物を出たそばから洗ったりしながら色々教えてもらったり、日本ではこんな風だったよなどと話ながら料理を作りあげて行く。
出来た料理をテーブルに運んでいると、大城さんがボサボサ頭のままやって来た。
「おはようございます」
「おはよう、早いな」
「こっちの世界に来てから、起きているより寝ている時間の方が長かったんで、流石に目が冴えました」
「そりゃそうか」
「さあ、席に着いて! 優も手伝ってくれたのよ。ご飯にしましょ」
席に着いて朝食となった間に分かった事、決まった事。
ご夫妻はお二人で、建築と針仕事メインの何でも屋的な事をしているそうな。
今の家は大城さんがこっちに来て住み始めたこちらの技術の家で、日本の設備とか再現できたものも取り入れた家を今建てているんだそうだ。
なんと、床暖房とシャワーもあるそうだ。ハイテクだ!
断熱材も入っているらしい。
細々したものはぼちぼち手掛けていたそうだが、断熱材になりそうなものを探したり改良したり。床暖房も同じく、システムを開発したり改良したり。
自宅の建築に漕ぎ着けるまで、技術的なものや資金面で時間がかかったそうだ。
日本では建築に携わり、趣味であれこれしていたのも幸いして、何とか納得のいく物ができそうだと、新築に踏み切ったとも。
マーチャさんは元々、お針子をしていたそうだ。それを結婚を機に辞め、大城さんの着ていたものやスマホのデータで見れたものを参考に服屋をしつつ、大城さんの事務員みたいな事もこなしているらしい。
この世界では類を見ない週休二日制を取り入れており、その内の一日は、マーチャさんの実家の宿屋の厨房で料理を作ってもいるそうだ。
この町だけにとどまらず、あちらこちらから「ニホンショクーっ!」と言われに言われ、その妥協案なのだとか。
「それでな、優ちゃんの今後の事なんだが……。
マーチャとも話したんだがな」
「はい」
「優ちゃんの生活基盤が出来るまで、俺達で面倒をみようと思うんだ」
「え……っ?!」
出会ったばかりのどこの馬の骨とも知れない私の面倒をみてくれる? そう思うと、驚きの声しか出なかった。
「いや、もちろん優ちゃんさえ良ければだが……。
歳も離れてりゃ性別も違うが、それでも同じ2000年代を生きていた者同志。
同志だから、いくらか安心も出来るだろ。
何せここは魔物もいるような世界だ。今日を生き抜かなきゃ明日はない。
同じ転移者だ。いくらか気持ちも分かりゃ、分かってやれる事もあんだろさ。
何より優ちゃんの年頃なら、安心出来る寄る辺がないと、まだまだ不安だろ?」
私は俯いた。有り難くて嬉しくて、涙が零れて仕方なかったから。
マーチャさんがタオルを差し出しながら、そっと横から抱き締めてくれた。涙腺は完全に崩壊した。
タオルに顔を擦り付けながら、わんわん泣いた。
「ねえ、優。
知り合ったばかりで、私達の事を信用も信頼も出来ないかもしれない。
それでも、私達はあなたを一人で放り出したくないわ。だから私達のためにここに居てくれないかしら?」
マーチャさんに背中をさすられながら一頻り泣いた。
「あ、りがと、う、ござい、ます。
お世話になりっ、なります」
そう言うのが精一杯だった。
こうして、大城さんご夫妻のお蔭で、かなり色んな問題がなくなった。
本当にありがたい。
お世話になりながら生活基盤を固める。
それが最初の目標になった。
その後大城さんは仕事に出かけ、マーチャさんは私と服や日用品などを買いに連れて行ってくれる事は今日する決定事項。
転移した時に背負っていたリュックを、背負って行こうと思う。
持っている物は換金とかして、少しでもお二人の出費を抑えるのが、私の決定事項だ。
大城さん、顔洗っていないって?
ご飯食べて、着替えてから洗面を済ますタイプと後に判明。
この日も朝ご飯食べて、着替えてから身だしなみを整えてたんでご心配なく。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなどお気楽に、下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね!
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます!