24:今日 集まったのは?
運び込まれた箱から服を取り出し、ハンガーにかけてクローゼットにしまう。うん、スッカスカ~。
クローゼットの下の引き出しに肌着をしまう。こっちもスッカスカ~。
引っ越しが早く終わった要因の一つだな。
自分の引っ越しの荷解きが終わり、多目的ルームへ戻るが、まだ誰もいない。
え、まだ語ってるの?
お茶がすっかり冷めているので、一度全て下げてしまう。
洗い物が終わっても、まだ戻って来ないお父さんとギルドの人達。何かあったのか、結構時間も経ってるし、様子を覗きに行ってみようか。
◇
「少し高い位置に桶があるだけで、腰の負担が減りますね」
「立ったまま作業できるだけで、これほどとは……」
手洗い鉢の話のようだなと思いながら脱衣所を覗いてみると、そこに皆さんが固まっている。
「何とか取り入れる方法があれば……」
「あっ」
あ、注目を集めちゃった。お父さんと目が合う。
「優、何か思い付いたか」
「うん。折り畳みできる、幅広脚立かテーブル。
テーブルは、耐荷重大丈夫なのかな?で、揺れにも強い物なら使えるよね?
どっちも天板は、洗い桶が乗せれる物。やっぱり四角がいいかな」
「幅広の脚立の、そんな使い方の発想がなかったよ」
「幅広脚立とかおしゃれな梯子をインテリアに組み込んでいる人がいて、それで」
「思い付いた、か」
二人だけで納得するなという事で、幅広脚立が仕事場にあるというお父さんに連れられ、みんなで幅広脚立の見学ツアーへ。
天板が洗い桶が乗る大きさでも、洗い場を洗い桶に入ってお風呂として使う時は折り畳んで、壁に寄せるなり立てかけるなりすれば邪魔にならないと採用になった。
お父さんは「こんな道具を見せてもらった事がない」とお小言を、商業者ギルドのお二人からもらっていた。南無。
「こちらがギルド製の試作品ですわ。お確かめ下さいませ」
下に下りてきたので、ついでにと馬車に積んであったカート各種の試作を見せてもらった。
馬車に積んであったって、やっぱりギルドで話をする心算がなかったのは確定だな。うん。
試作は組み立て前の物と、完成品があった。
「とても軽くて丈夫な素材みたいですね」
「はい、こちらの素材は柳です。籐も素材の候補に挙がりましたが、今回は柳に軍配が上がりました。
こちらは補強がしてあり、強度はどれも充分で軽さもあります。部品が揃えば、子供でも組み立てられます。
子供に組み立ててもらったどの種類のカートもギルドで試しましたが、大変評判が良かったです」
柳に籐?!それ、高級品では……?
「妊婦さんやご老人でも、買い物を運ぶのが楽になりますね。
心配なのが、素材が高級品のような気がするのですが?」
「いえ、全く。こちらの世界では成長が早く、安価な材料の一つです。場合によっては、見向きもされませんよ」
世界が変われば、価値がずいぶん変わるもんだな。
「ほほう、これはシンプルで使い勝手が良さそうですな。
販売が楽しみですな」
「この二種類は、生産の目処も立てております。後は優さまと最後の詰めで問題がなければ、近々お手にして頂けますわ」
こちらは教会へ参りましょうねと、アマンダさんが微笑んでくれた。
「はい、宜しくお願いします!」
丸投げだけど、ちょっとずつ進んでいるのは嬉しい。
こちらの事に明るい方達が、思った物をベストな形に仕上げてくれる。しばらくはこんな連携も良いのかもしれない。
「あ!手動洗濯機と、仕切り付き食器兼トレー!
今日はそのために時間を合わせて頂いていたのに、まだ話していない!」
ふと思い出したが、今日の本来の件には触れてすらいないが、もう夕方だ。
皆さんも、あっと小さな声をもらしている。
しかし、お父さんの非情な一言が降って来た。
「就業時間と休日は守れ」
ギルドの就業時間は、商業者ギルドや錬金術師ギルドのような、朝九時から夕方六時まで営業しているタイプと、冒険者ギルドのような、二十四時間営業で三交代勤務のタイプがあるそうだ。
お父さんが「体を休めなきゃ体を壊す!」と、口を酸っぱくして浸透させたそうだ。残業もダラダラいつまでもするのは禁止と、なかなか厳しく指導しているって。
やや早口で、食器の機能のあるトレーで、両端は持ちやすいように羽部分があり、食器機能の部分は板を彫って区切りを作り、料理を分けて入れられる部分と、丸く彫ってグラスとカップに入ったスープが乗せられる部分がある事。
彫って作る理由は、裏側が平らだと拭く部分が減り、これを使う数が増えると如実に拭くのに使うタオルが減る事をプレゼン。
こちらは王城など、人が集まるところで有用と採用。
手動洗濯機は、蓋付きの桶の中に編み目になっているパーツを組み込み、蓋をしてハンドルを回す事で水が入っている時は洗いと濯ぎが、水の入っていない時は脱水の作業ができる事をプレゼン。
シーツなど大物を洗えるタイプは、ハンドルの代わりにペダルで作れれば可能かと提案。
こっちは重くて傾けるのも困難だろうから、排水機能がいるだろう事も提案。
こっちは何がなんでも作ると採用。
どちらのギルドがどうするかは、ギルド同士で話し合う事で決める。主に洗濯機。
質問があったり答えたりしていたので、五分ほど時間をオーバー。
ちらっとお父さんの顔色を窺ってみる。まあ、良いだろう、良くやったと褒められた。
「今日はありがとうございました。
お気をつけてお帰り下さい」
お父さんと馬車を見送る。みなさん、窓の中で手を振ってくれている。今日もバタバタだったけど、充実していたなとほっとする。
「楽しいか?」
「うん。先でもっと楽しくするつもりだけどね!」
楽しい事に天井はいらないなと笑われたけれど、実際そうだよね。
俺は仕事場の方へ行くから、先に上がっていろと、仕事場へお父さんは向かう。
私は二階の自宅へ戻り、家事でもしよう。便利な物もあるけど、まだまだ一人で家事をするのは大変なところだ。
お母さんがリビングで、大量のタオルを畳んでいる。
「お母さん、私、ご飯作ろうか?
洗濯畳むの代わった方が良い?」
タオルといっても、パイルタオルではない。平織りの生地を二枚重ねて四辺と、生地がずれないように何ヵ所か簡単に縫われた物のため、何とか乾いたようで良かった。
「ありがとう、助かるわ~。
ご飯お願いできる?私が作るより、美味しい物ができそう」
お母さんは、新たなニホンショクとの出会いでも探しているのだろうか。期待に満ち満ちた目で見られても困る。
「お父さんってビー……、エール飲む?」
仕事の後に飲むタイプかなと聞いてみる。
「飲む日は飲むって言うわね。言わない日は飲まないわ」
「そっか、適当に作るね」
お願い~と言うと、お母さんは洗濯を畳む作業に戻った。
お風呂へ行ってからキッチンへ入り、旧宅からきた冷蔵箱と、こちらに設置されていた冷蔵箱を覗いて、棚の下の野菜入れを覗く。
こっちの世界では卵の種類が色々あって、とても安いのでたくさん買い置きがある。使うか。
白菜とキャベツが、暖かいキッチンに常温保管されているからかしんなりしている。これは使おう。
他は……、ドライソーセージを食べてみよ、そうしよう。
じゃが芋もたくさんあるからじゃが芋も使って、ほうれん草が微妙にあるのも使うか。 キノコも微妙にあるな。これもっと。
何度か冷蔵箱と常温保管してる野菜の入った箱を覗き、使う材料を揃え、調味料が入った場所から調味料も出しておく。
そうこうしているとお母さんが対面キッチンの向こうのイスに腰かけ、にこにこ見ている。
その後お父さんが戻り、お風呂にお湯張ってあるよと言うや否や、お風呂へ。楽しみだったんだねー。
「お風呂って、日本人はそんなに好きなの?」
「一般的には好きかな。天然のお風呂、温泉巡りしたり、お風呂屋さん巡りする人もいたよ」
お母さんはそんな人もいるの?お風呂好きが多いのね、と驚いていた。
「おおー!豪華だな!」
「色々作れるのね~」
「簡単な物だよ?」
堅パン、玉ねぎと人参の味噌汁、キャベツと白菜のとんぺい焼き、ドライソーセージ、ほうれん草とキノコの炒め物、粉ふきじゃが芋。以上。
「我儘言っていいなら、一日に一食、米が食べたい」
というお父さんの希望は、この後、叶えられるのだった。
「お父さん、丁寧なしゃべり方で統一して」というお願いを叶えてもらっているし、米が食べたいのも分かるからね。それに、私もお米食べたいしさ。
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