21:手動洗濯機とバディ
遅く寝たらしいマーチャさんは、あまりの快適さのせいか爆睡してしまって、九時くらいになって起きてきた。
マーチャさんの分に取っておいた朝ご飯を出して、ご飯を食べてもらう。
ごめんね、ごめんねと謝っていたが、昨日は昼前から夜遅くまでバタバタだったから疲れていておかしくないんだ。気にしないでほしい。
「日本だと、母の日とかにこうしてお父さんと子どもが並んで洗い物したりする事もあるから、お母さんは気にせずゆっくり食べて」
かちゃんっと音を立てて、マーチャさんの手からスプーンが落ちた。どうかした?
「あー、その……。
まだ言っていなかったが、優が俺達の子どもになってくれるって……」
お皿を拭いていたお父さんは、照れてポリポリ頬をかいている。
そういえばお父さんとその話をした後、その話をマーチャさんとする状況じゃなかったから話せていなかったね。
「お母さん。大きな子どもですが、宜しくお願いします」
カウンター越しになってしまったが、マーチャさんに向かって頭を下げる。
何もリアクションがないので、不安になって顔を上げる。
「むすめ……。娘ができた……」
しばし見付めていると、きゃーっ、私に娘ができたわーって、しばらくお母さんは大変な事になっていた。
ご飯そっちのけで、私の娘! って、はしゃいで抱きついて飛び跳ねて。
こんなに歓迎されるなんて、ちょっと驚いた。
でもね、私もお母さんの、そしてお父さんの娘にしてもらえて幸せだよ!
ご飯を食べ終わったお母さんも加わり、三人で並んで片付けを急ぐ。
「食器が意外といるな。味を混ぜたくない時は、皿を二枚使ったりしていたな」
「そうね、カップもグラスも少し足りなかったわね。
お皿とカップとグラスを同時に運べないから、やっぱりトレーも必要なんじゃないかしら?」
またあんな集まりするの?!
「タオルもまだまだいるな。こうして食器を拭くにも手を拭くにも、何を拭くにも使うからなぁ……」
タオルの端に、使う目的別で色を変えた刺繍糸で目印を付けてある。
今はまだ目印を付けてない、ストックとして用意していた新しいタオルを、食器拭き用におろして拭いている。
「それを洗うのがまた大変。丈夫な生地の物が大量にある時は大きな桶に入れて、棒でかき混ぜるようにして洗って絞って……。
気が遠くなるわ」
んん? 桶の中身を棒でかき混ぜる……。
「お父さーんっ! お母さーんっ!」
「うあっ、優っ。大声を出すな。
後、濡れた手で服を掴むな」
「優ったら、もう。
驚いて食器落としたら大変」
「ごめんね、でも聞いてーっ。けほごほっ」
「このパターンは……。もしかして、またか?」
うんうん、そう。聞いてー。
洗っていない食器が汚れたまま乾くと後が大変だから、洗い物を済ませてから話す事になった。
パソの充電がまだ残っていて、使っても良いなら今日もパソ談でな、とも。
◇
キッチンのテーブルを元の位置に戻し、お茶の用意をしてから三人でテーブルに着く。
パソの画面が見られるように、私の両側にお父さんとお母さんが付いているので狭い。
「さて。今度は何を思い付いたんだ?」
とは、私の左に付いているお父さん。
カタカタ『食器と洗濯機』
そう、キャンプで使ってる人や、ネットサーフィンで見た物を思い出したのだ。
「洗濯機! もう思い付いたの?」
洗濯機の単語に、表情を明るくして喜ぶお母さん。ごめん、自動じゃないんだ。
「とにかく、詳しく話してくれないか?」
カタカタ『うん、あのね、“食器とトレーが一体になった食器”が一つ目。
お父さんは分かると思うんだけど、お子さまランチのお皿って、仕切りがついていて、乗せるものを区切れるでしょ?
トレーの中に、あれを四角で、大きさも二種類作って、カップとスープを置く丸い区切りもつけるの。
只、スープがカップにしか入れられないけど。
裏はフラットのままにしておけば、拭く面積が小さくなるのと、立て掛けて長めに水切りすれば、使うタオルが減らないかな?』
名前を知らないけど、そんな食器を見たぞ。
「万人向けじゃねーが、一定の需要はありそうだな」
うん、万人向けじゃないね。それはそれでオッケー。言ってみたけど、私もどこに需要があるか図りかねる。失敗かな……。
頭に軽い重みを感じる。お父さんが頭をポンポンとしてくれたのだ。
「作ってみて、本当に必要な人に届けば良いんだよ」
優しいなぁ。ありがとう。
お母さんも、にこにこしている。
カタカタ『次に行くね。
洗濯機だけど、自動じゃなくて手動。
バケツにザルみたいなのが嵌まってて、蓋してハンドル回したら使える洗濯機はどうかな?
大きいのは、ペダルでハンドルの代わりになる機構を付ければ、ハンドル回すより楽だと思うんだけど?』
お父さんは「そういえばそんなのあったな。懐かしいな」と感心し、お母さんは「分かんない、え? うん?」と小首を傾げている。
「魔石を使うタイプも、もしできても高価だろうからな。魔石を使わないタイプなら買える人もいるだろうし、魔石を使うタイプができるまでの繋ぎにも良いんじゃないか。
もしかしたら、魔石使うタイプを作るのに参考になるかもしれんしな」
魔石付きと付いてない物は値段が違っていて、魔石の付いた物を買えない人もいるんだ。
魔石を使わないタイプや、魔石を使っても、廉価版も考えれるだけ考えてみよ。
「ところで優」
「はい、何?」
さっきまでと違って、表情も改まっている。それにちょっと言いにくそうにしている、何だろう?
「エバーソンからな、優にバディを付けないかと言われているんだ」
「バディ?」
お巡りさんとか、スキューバの時とかに一緒に行動している、あのバディ?
「俺が一番ポンポンあれこれ思い付いていた頃に、『あっちこっちに行っている時間がもったいない』って言ったことがあんだ。
そしたら統括ギルドから人が来て、しばらくずっと一緒に生活してな。ギルドの使い方や規則の事。それに、俺が普通に生活してて、こっちとの生活の違いに気付かなくて、一人なら上げないような事を向こうから聞いてくれたり、思い付いた物の書類を作って担当ギルドの専属担当に書類を届けてくれたりする人だ。
バディが付いた方が時短になったし、色々案が上がって好評だったもんで、優にもどうかってだな……」
監視とは微妙に違うけど、ずっと人が張り付いてるのは苦痛だ。
それが分かっているし、元がお父さんの発案だったものだから言いにくそうにしていたんだろう。
とはいえ、利点もある。お父さんが言ったように、仕事を持っているお父さんやお母さんを呼ばなくても、話せば良い人が決まる。
うん、利点を取ってポジティブにいこう!
「お父さん、バディさんほしい」
お父さんはちょっとほっとしたようだ。明るい表情で、伝えておくと言ってくれた。
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