2:ご飯は当たりか外れか
うんーあー……?
ここ、どこ、だっ……け……?
見慣れない天井と、見慣れない室内に首を傾げる。
体を起こし、また首を傾げる。
ああ、そうだ。異世界転移なんて空想の産物と思っていたのに、体現したんだっけ……。それで、大城さんに拾われて。商業者ギルドで身分証を作り、その後大城さんのお宅にお邪魔して……。一回休むかとのご提案に頷き、客間のベッドで寝たのを思い出した。
コンコンコン。
もしまだ眠っていたら起こさないようにだろう。小さなノック音が響いた。
「はい、起きてます」
そう答えるとそっと扉が開き、女性が一人入って来た。
多分、大城さんの奥さんだろう。
「初めまして、私はマーチャ。
オオシロの妻です。
気分はどう? どこか痛いところや具合の悪いところはないかしら?」
大城さんの奥さんで合っていた女性、マーチャさんはそう声を掛けてくれながら、心配そうに見つめてくる。
「初めまして、芦屋優です。
飲ませて頂いたポーションのおかげか、どこも痛くありません。ご心配、ありがとうございます」
にこっと笑って見せると、マーチャさんは安心したようだ。少し表情が柔らかくなったのが見てとれた。
ゆるくウェーブした明るめの金髪を、後ろで一つにまとめているだろう長い髪。面長よりは丸顔よりの愛らしい輪郭の顔立ちに、柔らかな弧を描いた眉。優しい温かな光を宿した、薄いブルーの瞳。それらが織り成す優しい表情に、癒やされる気がする。
しばらくお互いににこにこと見つめ合っていると、「おーい、マーチャ? 彼女起きているか?」とドアの外から声がかかる。
この声は大城さんだ。
マーチャさんが「起きてるわ」と告げると、「入るなー」と一声掛けて大城さんが部屋に入って来た。
「そろそろ晩ご飯の時間なんだが、起きて台所で食えそうか? それともここで食うか?」
「ニホンショクに近い料理なのよ」
「マーチャの作るニホンショクは、なかなか美味いぞ」
「ニホンショク? あ、和食が食べれるんですか?!」
「おう。統計がないからな。どんだけの期間でどんだけ異世界転移があるか分かんねーが、俺以前にも、何人か日本人が来たみたいでな。
醤油や味噌とか、和食に欠かせない調味料はいくらかあんだよ。
そのお陰で、和食みたいなメシと日本の洋風メシ、総称してニホンショクがあんだよ」
異世界転移して来た日本人の先達さん達、ありがとう!
まるっきり現代の日本の食事とはいかずとも、嬉しい誤算だ。ぐーうぅとお腹もなるさっ。
「ふふっ。私達も今日は遅目の夕食で、お腹ペコペコ。実はお腹がなりそうなのよ。温かいうちに食べましょう」
マーチャさん、優しい女性だ。
案内された台所には四人がけのテーブルがあり、テーブルにはパンとご飯、オムレツ、サラダ、何やらスープが並べられていた。
本当に美味しそうだ。
ちなみに自転車の前かごに入れていた買い物、野菜のサンドイッチと菓子パン、ミネラルウォーターも並んでいる。
冷蔵庫というか、冷蔵箱なる物があり、そこへしまって下さっていたそうで、傷んではないだろうとの事。
私の持って来た食料は、みんな三等分して三人で食べる事にした。
大城さんには懐かしい日本の味を、マーチャさんには大城さんや私が食べていた味を知ってもらいたくてそう決めた。
「頂きます」
驚いた事にマーチャさんも日本の食前の挨拶をすると、食事が始まった。
まずはスープを一口。玉葱? と人参? 何か豆の入った洋風? の味だ。何か物足りない気もするが、充分美味しい。
ご飯を一口ぱくり。うーん……。日本米じゃないから、こんなものなのかな? 食べれるけど、これじゃない感が拭えない。
オムレツをぱくっ。ミンチ大きいけど、気になる程ではない。玉葱? に、じゃが芋? 、後は椎茸ではなくキノコ? かな? が入っている。
しかし、卵が硬め~。
味は日本の一般的なものより、味がしっかりしていて美味しいんだけど。
ケチャップはないようで、代わりにトマトのソースを煮詰めたようなものがかけられている。
なかなか美味。
最後にサラダをもしゃっ。レタス? みたいな葉物野菜、豆が二種類、じゃが芋? を潰した感じの物をマヨネーズで和えてあるが、これが一番美味しい!
野菜がどれもこれも美味しくて、病み付きになりそう!
パンは堅パンだったけど、美味しかった。ハードタイプも好きだから、堅さが気にならなかったからかも。
私がん? とか美味! とか思いながら食べている間に、大城さんご夫妻はサンドイッチ他を食べ、「懐かしい~っ! 美味い!」を大城さんが。
マーチャさんは「美味しい、美味しい! 柔らかい!」を、それぞれ連発していた事を付記しておく。
同じ日本人の大城さんにも初めからある程度食べれた食事のためか、少し食べ進めるまで静かに食べていた。
私が全種類食べたのを見計らったのか、そのタイミングで会話が生まれた。
「色々ない物もあるから完全再現はできてないが、ニホンショクなかなか美味いだろ?」
「そうですね。野菜はこちらの方が、絶対美味しいと思いましたよ」
「日本の食べ物の味付けが、もう最高だわ!」
「うちは他所ん家より、メシは美味いと思うぜ。拙い俺のレクチャーで、マーチャがニホンショクの飯を頑張って作ってくれているからな」
「うふふ、ありがとう。
さっき食べた異世界のものには敵わないけど、私のご飯を美味しいと思ってもらえているなら嬉しいわ」
「美味いよ。それに、感謝している」
「本物を知らず、足りない調味料があっても食材が違っていても、これだけ作れれば凄いですよ。美味しいです!」
「二人とも、ありがとう」
こうして、食事が終わっても生卵や半生は日本だから食べれるんだとか、品種改良は魔改造だとか、魚は〆方が違うのか今一だとか、タレがあればあれが食べたいとか。
やっぱり日本人は異世界に来ても食へのこだわりが凄いんだな、を、実感する話が続いた。
そして食後。上下水道は何となく普及しているそうだが、蛇口を捻るとお湯が出るまでの技術はないそうだ。
マーチャさんが申し訳なさそうに、今日はお湯で体を拭いて我慢してねと、お風呂兼、洗濯場へ案内してくれた。ありがたく体を拭かせてもらったよ。
着替えはマーチャさんのものをお借りする。
小柄なマーチャさんの服はきっと小さいが、他に女性のものがないのでありがたくお借りした。
シャンプーやコンディショナーはないが、石鹸はある。かなり嬉しい。しかも私は石鹸派。本当に嬉しい。
こうして怒涛の一日は過ぎ、晩ご飯前まで寝ていた部屋で、夜も寝かせて頂いた。
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