16:手際が良い
「おと……大城さん」
「お、優、今日はいきなりすまんな。で、どうした?」
「ううん、良いよ。
本当は交流の時間にするのが正しいと思うんだけど、休憩終わるまで部屋にいても良いかな?」
「気疲れしたか? 時間になったら呼ぶ。それまで部屋で休むと良い」
「ありがとう、ちょっと休むね」
お父さんはお盆がなくて持ち切れない物を持って、部屋まで運んでくれた。
ドアも閉めて、ベッドのヘッドボードにご飯やカップを並べる。机は廊下に動かしてあるからね。
「お父さん、ありがとう。助かった」
「たいした事ないさ。
でな、優、養子の手続きが終わるまで、対外的には今まで通り名前で呼んでくれ。
多分、言っていなかったが、さっきは名前で呼んでくれて助かった、ありがとう」
何となくお父さんと呼ぶのは避けた方が良さそうだと思ったのは、合っていたようだ。
お父さんが出るのにドアが開いた時には廊下からの声がそれなりに聞こえたのが、ドアが閉まるとかなり静かになった。防音の技術も使われているらしい。
静かな部屋の、ベッドのすぐ横の壁にもたれて食事を摂る。万が一、何か落として新しいベッドを汚すのは避けたい。
ご飯を見ながら、それにしても手際がいいなと、キッチンとダイニングでの様子を思い出す。
ダイニングの家具は配置が変えられ、マーチャさんの実家の宿のように横にスライドしながらカトラリーや食べたい物を取り分けて進み、最後はドアの前に来るようになっていた。
奥にある丸テーブルでまずお皿を取る。作業スペースとシンクにカバーをして作られたスペースに、大皿に盛って並べられていた屋台料理から、好きな物を添えられていたトングを使って皿に取る。
パンは買ってきたままの堅パンと、マーチャさんがその堅パンを使って作ったバーガーがあった。
スープは一種類。これはマーチャさんの手作りみたいだ。
スープの入った鍋と果実水の前にカップが積まれていて、カップに鍋からスープか、ピッチャーから果実水を注いだらキッチンから広い廊下に出るドアがすぐそこになる。
料理を取り終わった人はそのドアから出て行き、料理を取るのに並ぶ人はダイニングのドアの方にいる列の最後の人の後ろに並んで待つ。
ずっと同じ方向へ進むだけなので、整然としている。
マーチャさんはスープとバーガーの、屋台料理は私と同じくらいの歳の男の子がそれぞれ補充していた。
キッチン側のマーチャさんの実家の宿の手伝いで慣れたマーチャさんと、あの方式に慣れたダイニング側の人たちのお陰だろうか。
喉が痛くて、スープと果実水の両方をカップに注いだ物を持とうとしたところでお父さんが、大容量の食器棚の横の引戸から入って来て、部屋まで運ぶのを手伝ってくれて今にいたる。
果実水で喉を湿らせてから、水分が多くて柔らかそうな物をチョイスしたお昼ご飯を食べる。
食べ終わると食器は後で下げる事にして、窓を少し開け、リュックからマスクを取り出して付ける。
表はクッキングペーパー、真ん中は花粉や菌を通さない加工のされたフィルターが二枚。裏は、前はキッチンペーパーを使っていたけど、今はクッキングペーパーを使った手作り。
この四枚を重ねた部分の何ヵ所かを適当に、ホッチキスの芯の先が表になるようにして止めている。
その両端をそれぞれ二回折り返してホッチキスで止めて、マスクの大きさになるように注意しながら好みの蛇腹の折り方で折る。
ゴムの部分は伸縮性のあるものを使うと耳が痛くなるので、ある100均で見付けた、中に綿の入った太い紐を愛用。
適度な同じ長さに切った紐を二本用意。一本の紐の先の片方に大きな結び目を作り、同じ紐のもう片方の紐の先と、私の場合そこから五センチほど離れたところにもとても緩い結び目を作る。
大きな結び目を緩い結び目の先端側から二つとも通して、大きな結び目が抜けない程度に緩い方の結び目の位置と締め具合を調整しながら締めれば完成。これをもう一本にもすれば両耳分が完成。
これをさっき作った本体の端に、大きな結び目が顎になる方へセットして巻き込んでホッチキスで止める。
端の方の緩い結び目を摘まんで大きな結び目を引っ張ると、長さ調節ができるマスクの完成となる。
私のはさらに一手間加え、鼻の方にする折り返しの部分の真ん中を引き出す様にして鼻の部分を作って折り目を付け、小鼻の辺りでさらに折るとなかなかフィットするマスクができる。
紐の部分は、網目二段か三段の毛糸とかでも伸び縮みして良いぞ。
みんなは色々検索出来るだろうから、適当に検索してくれ。
マスクを付けて入ったベッドは、持ち上げた掛け布団は上側が毛布で下側が感動モノの羽毛布団の二種。マットの代わりの敷き布団は、何か動物の毛皮の敷きパットが付けられている。
枕は、筒状のタオル生地のカバーが付けられた硬めで低いものが置かれていた。
お父さん、頑張ったんだなーと思いつつ横になり、目を閉じた。
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