15:二人目のお父さん
「優ちゃん、そろそろ思考は回復するか?」
どこくらい固まっていたのか。大城さんに呼びかけられるくらい、固まっていたようだ。
「す、すみません。
この世界でこれだけ立派な部屋を頂けるなんて思ってなかったので、すっかり驚いてしまって」
「……俺な。こっちへ来た当時、日本に嫁も二人の子供もいたんだよ……」
大城さんはポツリと、僅かに語った。
日本に息子さんと娘さんが一人ずつ。
血は繋がっていなくても、マーチャさんと結婚して、息子さんができて嬉しかった事。
できれば娘も持って、実の娘にしてやりたかった事、それ以上の事をしてやりたいのだと。
……。大切だったんだな。今でもきっと、変わらず大切なんだろう。
どれだけ想っても、もうどうにかする術がなくて、でもどうにかしたくて……。
私もいつか、そんな風にどうにかしてでも気持ちの整理をつけたくなる日が来るのかも知れない。
「ありがとう、お父さん」
「……っ。ああ、好きに使え!」
お父さんと、そう呼んでみよう。
こっちの世界の日本人のお父さんにありがとうと言う時、地球の日本人の本当のお父さんに幸せに暮らせているって思いだけでも届くように。
こっちの世界のこの世界のお母さんにありがとうと言う時、地球の日本人のお母さんに幸せに暮らせているって想いだけでも届くように。
あ、そうだ。お願いするならこのタイミングだ。
前々から思っていた、"ちゃん"付け呼びは恥ずかしいので、呼び捨てにしてくれるようお願いした。
最後に、もらった部屋の右隣、大城さん改めお父さん達の部屋を見て、問題なかったので事務所へ移動した。
そこで色々話し込んだ。
「二階部分は、日本と変わりませんね。
床暖房は、さすが大好評でしたね」
「ホットカーペットも考えたんだが、専門外だからか想像力が乏しいからか、再現できなかったんだ。
ホットカーペットが再現できれば応用で、電気毛布も再現して普及させたかったんだがね」
「重さ無視するなら、冬の間、ベッドに設置しっぱなしの敷パットサイズの湯たんぽとか? 物凄く膨らんで寝にくいかな?
温かい空気のエアマットを敷く方が寝心地は良いかも。保温シートも効果ありそう。
上は、掛け布団の間に、布団乾燥機みたいな物を挟んでみるのはどうだろう?
毛布の種類を変えたり、普通に分厚いカバーも良さげ」
「!!?」
何か閃いたらしいお父さん。良かった良かった。
ベッドの縦半分のサイズの湯たんぽとか、お温入りの抱き枕がとか。豆たんこたつもいけるかとか、ぶつぶつ言いながらトリップしたね。
お茶飲んでるから、ゆっくり考えて。
ぶつぶつ独り言が終わったと思ったら、
「おーいっ、アージヨ!
魔導具ギルド行って来る!
ああ、いや。ここに来てもらう方が快適か?」
お父さーんっ、ヤダヤダーッ。大工仕事見てるの好きなのに、大工仕事見れない上に、あの緊張感を二日続けてはイヤーッ。
◇
イヤイヤという心の声が届くことはなく、続々と人が集まりましたよ。
皆さんが集まるまでに、お父さん達の部屋や私の部屋、客間から入れ子の机を廊下に運んで並べて、背の高い方の入れ子の机にはイスも。
ヒーターも集めて。
念のため、ハーフケットもあっただけの六枚を用意。どこからか四角くて平たいクッションもかなり集まってた。
下から、お父さんと私の分のイスを借りる。
お父さんに、みなさん床に座るのが慣れなくて疲れないかな? と言うと、リビングからソファーも運び出した。
玄関と勝手口側に、それぞれひとつずつ配置して準備完了。
ふう。てか、こんな事がしょっちゅうあるから、この本間間っていう、一番大きな畳を基準にしたってどや顔した廊下があるの?!
玄関から裏口へ向かうまっすぐなこの廊下。約ニ十七畳の廊下って、お城の廊下かと突っ込んだよ!
一番最初に来たのはマーチャさん。お母さんとは後で落ち着いてから呼ぶので、今はまだマーチャさん。
マーチャさんは人が着くたびに、靴を脱いでスリッパに履き替えて頂くまで対応する係。
お父さんはどの部屋にも入るな、今日は新築のお披露目じゃないんだ、仕事だーって。あちらこちら見たくてそわそわしてる方々をねじ伏せる係。
私は、お茶とお茶請けを配膳する担当。
和膳と洋膳で配置が違うし、国でも違うけど、この国はどっちにお茶? マーチャさーんっ。右がお茶ね、ありがとう。
ん? 昨日もギルドで出されたでしょって? 緊張で、お茶の味も分からなかったのに覚えてないって。
各ギルド、ギルドから来れるのは四人までと決めてあった四人ずつ来られた。
商業者ギルド、魔導具ギルド、錬金術師ギルド、鍛冶職人ギルド、冒険者ギルド、仕立物師ギルド、魔石ギルドの計七ギルドから総勢ニ十八人集まっている!
建築関係のギルドは、お父さんがギルマスだった。ひえっ。
存在も知らなけれは、ご挨拶にも伺っていないギルドも多!
お父さん、思い付きで一大プロジェクトでも立ち上げるの?
内装をしていた職人さん達は、切りのいい所で下へ行って頂いていたので、会議が始まる。
「みんな、いきなりの呼び出しにも関わらず集まってくれてありがとう。感謝する」
「この家のお披露目かと思ったが、今日はどういった用件か?」
「完成はまだだ。お披露目は改めて。
初の試みで、今日この様な形で集まってもらったのは他でもない。新しい転移者が来た事で、多岐に渡る話し合いが出来そうだから、こうして一堂に会してもらった」
「再現できた技術の集大成を駆使して建てるんだと言っとったこの家も気になるが、そちらも気になるな」
「どんな物ができそうかしら?」
「まず、優ちゃ……、優と話してる時に彼女の口から出た『湯たんぽ』だ。使う時に湯を入れて、繰り返し使える。
硬い素材でできた物から、柔らかな素材でできた物まで様々な素材の物がある。形もいくつかある。
絶対に守るのが、熱湯が溢れない入れ物と、注ぎ口の栓と、栓と湯たんぽを簡単に明け閉めできて、でも栓が外れない事。
用途は『湯たんぽ』と呼ばれる入れ物に熱湯を入れ、タオルなんかでくるんで火傷しないようにして寝具に入れておけば、かなりの時間、寝具の中で暖が取れる物になる」
「専用のカバーもありました。カバーを工夫すれば、朝までかなり温かい温度を保てるようになるかも知れません。
こちらに来たばかりで魔石などに詳しくないのですが……。栓をしめきった湯たんぽの中で、温度を保たせる魔石か技術があればさらに良いかと思います。
仕事中の冷え対策に使う人もいましたし、子供に使わせても火を使っていないので安心です」
「使う人も使う場所も広そうですわね?」
「水を使うので少し重いですが、いろんなアイデアで用途は広がると思います」
多くの人がほう、とか、なるほどって感じで頷いている。
「これを発展させたのが、もっと大きくして、ベッドサイズにしてはという案だ。
ここまで大きくしなくてもいいはずだ。
どんな大きさなら体全体が温まるのか? これは試すしかない」
「では、すぐできそうな、冬場に使う寝具で何か他にアイデアをお持ちでしょうか?」
「思い出せるのは『二枚合わせ毛布』、『綿入り毛布』、『スリーパー』かな?
薄手の、毛布のような生地で作ったカバーを使うのも有効かと」
「『カバー』とは何でしょう?」
カバーがないのか……。
手織りの機織り機しかないなら、カバーが作れるほど布が量産できないのか、汚れ避けの観念かないのか……。
カバーの説明を終えたところでマーチャさんが、
「みなさま、お疲れ様です。
お昼にしましょう」と声がかけられた。
「もうそんな時間か。
みなさん、お疲れ様です。休憩にしましょう。
キッチンと続きのダイニングルーム、隣のリビングルーム、玄関を出た左手のルーフバルコニーをお使い下さい」
ここまでにこやかだったお父さんだが、ルーフバルコニーへ出る時は靴に履き替えて、中へ戻る時はスリッパにくれぐれも履き替えろと脅……、ごほ。厳しく説明して、休憩が始まったのだった。
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