12:異世界でも日本食は人気
午前九時半ごろには来たと思われる魔道具ギルド。
お昼ご飯も出して頂く羽目になり、ややげんなり。
それでも設備のアイディアを出しあったり詰めたり、何だかんだでニ時を回ったところで何とか一区切りついた。
良かった、帰れる。
「すっかり足止めをしてしまって、申し訳ございません」
「こちらこそ、申し訳ありません。
皆さんのお仕事の邪魔をしたのではないですか?」
すみませんと頭を下げ合い、また下げ合い、ようやく魔道具ギルドを後にした。
家に帰り、帰りがけに買ってきたさっぱりした果実水をゆっくり飲む。
思ったより喉が渇いていたようで、飲み干してしまった。
ふうっと深い息を一つ吐くと立ち上がり、洗濯物を取り込んで、編み籠ごとご夫婦の部屋へ運ぶ。
鍵をかけると、マーチャさんの実家、"金の大鷲亭"へ向かう。
家からあまり遠くはないらしいので元々歩いて行くつもりだったが、朝からずっと魔道具ギルドにいたため、散策を兼ねてゆっくり歩いて向かう。
この町は旧王都、サリーアという町だ。
旧王都と付くのは百年ほど前に遷都があり、王都は別にあるからだ。
戦争がほとんどなくなり、防衛重視でなくても良くなった事が一つ。
新王都は同じ王領だった土地の中でも、この旧王都から近い。
そこは麦などもよく取れ、新王都に運ぶなら輸送費が下がり、値段もいくらか安く供給できる利点を取って遷都が実施されたそうだ。
そんなわけでここは王都ではなくなったって。
それでも、周りを囲む山々からは良質な魔石が豊富に産出されている事。
連綿と受け継がれてきた、腕の良い職人さんの工房が多く集まっている事。
働き口も多く、未だ活気溢れる町となっている。
町並みの景観は板か石、板と石で建てられた薄い色調で統一されていて清潔さを感じさつつ、どこか昔のヨーロッパを思わせるんだ。
難点を挙げるなら防衛のため、道が曲がりくねっている事と細い道が多い事だろうか。
そんな異世界の異国情緒溢れる町をきょろきょろしながら歩いていたら、見事に迷った。
旧王城に一番近い主防壁、内防壁、外防壁の三重に町に防壁が張り巡らされているのだが……。
少し先に、内防壁がしっかり見えている。
建物の上からはそれなりにチラチラ見えているのだが、上から下まで見えると、どこかで道を間違えていると聞いている。
その内防壁がばーんっと見えるという事は、迷子になったに他ならない。
辺りの建物の看板を見て、メモに描いた簡単な地図と見比べて確認していると、横に人が立ち止まった気配がする。
それと同時に、
「最近来た転移者さん? 案内しようか?」
元気で明るい少女の声で、そう声をかけられた。
返事をする前に、彼女は私の手元のメモを見て、「"金の大鷲亭"なら通り道よ。ついて来て」と、さっさと歩き始める。
時々こっちを振り返り振り返り、先を歩いて行く。
ついて来ているか心配してというより、興味でかな? 何回も見られるから落ち着かない。
いくつか角を曲がると、「着いたわ。ここよ。またね!」とあっという間に去って行った。
お礼も何も言う暇もないが、離れた背中に「ありがとう!」と叫んだ。
親切だけど、変わった子だったなと思いつつ、宿へと入る。
そこは戦場だった。
いや、外に列が伸びていて、薄々嫌な予感はした。
入って左手が食堂になっている宿は、外から直接入れるドアと、恐らく宿泊客が中から食堂へ行けるようにだろう。
宿と食堂を分ける機能を持たせているらしい、広目の廊下の左手にも開放されたドアがある。
その開放されたドアから見える光景が戦場なのだ。
「優! 来たのね!
私と代わって!」
会計を担当しているマーチャさんが、お客さんを捌きながら呼んでいるカウンターまで慌てて駆け寄る。
その時、ちらっと奥を見ると、厨房もテンパっていた。
「日本人はみんな計算ができるって聞いているわ。できる?」
「大丈夫です」
「三足す六足す四足す四足す三は……、九の十三の」
「二十です」
「銅貨二十枚か、鉄貨二枚になります」
会計コーナーの反対の細長いカウンターからトレーを取って。
「おう、これで」
横にスライドしながら、必要なカトラリーとほしいお皿を取りながら進んで。
「鉄貨一枚と銅貨が……、十枚。
ちょうどですね。ありがとうございます」
うん、この方式、知っている。
お金は日本円で十倍にはならないけれど、銅貨千枚=鉄貨百枚=銀貨十枚=金貨一枚って教わった。
「これでいくらになる?」
返却もセルフで返却口へ。
「この子に説明しながらですみません。
優、メインのお皿は一つ銅貨六枚。副菜はどれでも一つ銅貨四枚。パンとスープは、一皿銅貨三枚。
こちらのお客さまは」
「こちら、銅貨七枚になります」
「お、おう。早いな」
「ありがとうございます」
営業用スマーイル。
「七枚っと」
「確かに。ありがとうございます」
「優、ここ任せて大丈夫かしら?」
「困ったら呼びますよ」
「そうね、それでお願い」
「はい。ここ、頑張りますね」
ええ、頑張ります。頑張りましたとも。
料理担当の大城さん、マーチャさんのお父さん。お皿洗いの女の子二人。お皿を拭いて片付けている女の子が一人。マーチャさんは、手の足りないところのヘルプ。
みんな頑張っていた。
メニューは、パン以外はだいたい日本食でかためてあるっぽい。
メインが唐揚げとおでん。副菜が肉じゃが、ほうれん草の卵とじ、名前分からないけど、ハーフカットの玉ねぎの肉あんかけ、最後は角切りのポテトサラダかな? スープは味噌汁と白菜とベーコンが入った洋風スープ。
唐揚げに集中しつつ、作りおきが出来る感じのラインナップかな?
バタバタしていたけど、休憩が何回かもらえた。
マーチャさんのお母さんであり女将さんであるマリガリットさんと、宿の業務担当の女の子は、そちらの仕事の合間にちょくちょくヘルプに入ってくれて助かった。
水分摂ったりトイレすませたり、ちょっと座れたり。
幸いだったのは、食堂は居酒屋はしていなかった事。おかげで、八時で閉店だったのは助かった。
ご飯を頂いて帰って、三人とも帰宅するなりバッタんキューしたのは仕方ないよね。
追記:この日の帰り道、マーチャさんにはECOモードのLEDライトで驚いてもらう機会に恵まれた。ふふふ。
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