2.多数決アタック
ホームルームは終了した。
俺は晴れて防衛係となった。
そして同時に決定した防衛係の権能強化により、学校を占拠したアホ共をぶっ飛ばしに乗り出すことにもなった。
「着任早々の仕事になるけれど」
委員長は切れ長の目をわずかに緩ませながら言う。
「頑張ってね。無理せずに」
「はい、委員長閣下、必ずや任務を完遂して帰ってまいります!」
俺は感涙をなんとか堪えて敬礼した。
「大袈裟ね。でも、グッドラック」
トン、と委員長の拳が俺の胸を叩く。
それですべてだった。
余計な言葉はいらない。
強者にはそれで通じる。
「待ってケンくん!」
だが皆が皆強者でいられるわけでもない。
そういう時には言葉も必要になる。
俺は教室の外に向けかけた足を止めた。
振り向くと幼馴染がそこに立っている。
「なんだ綾香、祝いの言葉ならさっき聞いたぞ」
「違うの、そうじゃないの……気を付けてって言いたくて」
「何を気を付けることがある。テロリストを片付けるだけだ。何も心配はいらない」
「それは知ってる」
あっさりと綾香はうなずいた。
俺は訝しむ。
テロリストは脅威ではない。俺の体調は万全だ。
だったら気はどう付ければいい?
「うまくは言えないけど……」
肩越しに振り向くようにして彼女は言う。
その視線の先ではクラスメイトたちがめいめいくつろいだ様子で自由時間としゃれこんでいる。
こちらを見る者はいない。
いや、いた。上野だ。
「なんか、怖いの。変な感じがするの」
「なるほど、春だ。そういうこともある。が、杞憂だ。問題はないぞ」
「…………」
それでも何か言いたそうな綾香だったが、俺が頭をなでてやるとあきらめたように一歩下がった。
「油断、しちゃだめだよ……?」
「おう」
強者でない者を強者の言葉で納得させることは難しい。
それを痛いほどに噛みしめながら、俺は教室に背を向け、歩き出した。
◆◇◆
教室を出るとまず、俺は頭の横につけたカメラのスイッチを入れた。
そのまま壁に沿って歩き、隣のB組を覗き込む。
「おとなしくしろよ……痛い目に遭いたくなかったらなあ!」
ここでもテロリストが銃を振り上げ威勢のいい声を上げていた。
「…………」
俺は無言でスマホを取り出す。
画面を見るとすでに多数決は始まっていた。
結果、CQC三票、裸締め五票、詠春拳九票、跳び蹴り十三票。
飛び蹴り可決。
「うらあああああああ!」
俺は早速駆け込んで行って飛び蹴りでテロリストの意識を奪った。
拘束して無力化する。
「ふう」
息をついて制服をはたく。
無論、この程度で汚れなどしないが。
目を丸くしているB組の生徒たちを見回し、無事を確かめてすぐに次へと向かう。
『さすがね』
スマホから声がする。
委員長だ。
「大したことじゃないさ。あれくらい上野でもできる」
『あら対抗心』
呆れたような声がするが、事実だ。
多数決で決まったオーダーで敵を叩く。
A組の生徒なら誰でもできる。否、できねば困る。
なぜなら俺たちは超民主主義の教室なのだから。
俺の頭のカメラはその映像をA組全員のスマホに送っている。
そしてその映像を見ながら提出された議案をもとに多数決を行って、テロリストを排除する。
そのためのアプリを急遽組み上げたのはその方面に詳しい陰キャラだ。
俺たちA組に死角はない。
その後も正拳突き、ジャーマンスープレックス、凶器攻撃、因縁の有刺鉄線電流爆破デスマッチと多数決で決まったオーダーに従ってG組までを救い、二階、つまり二年生の階をとりあえずすべて解放した。
「フン、口ほどにもない奴らめ」
このままでは一時間とたたずに制圧が終わってしまう。
少しは楽しめそうな奴はいないのか。
『それは趣旨が違うわね』
「まあ確かに」
しぶしぶ同意してスマホを見る。
画面には次の行動に関しての議案が提示されている。
多数決の結果、向かう先は……放送室?
俺はよく分からず首をかしげたが、さりとて大きく疑問も持たずに指定の方向へと足を向けた。