追放宣言に対して満面の笑みと涙と感謝の言葉を持って僕は答える事しか出来ない
冒険者として栄光を手に入れた。
成功者として財産を手に入れた。
英雄として名誉を手に入れた。
ドラゴンだって討伐してみせる新進気鋭の超一流チームの治療魔術師だ。
十代の頃に組んで十年は戦い続けて二十代前半には最高クラスの栄誉を手に入れて、三十代を待たずして冒険譚すら作られて吟遊詩人に歌われるほどだ。
様々な国や組織から貴族の地位や何かしらの高い地位を用意されてもその全てを蹴り飛ばして僕達は同じチームで戦い続ける道を選び続けた固い絆で結ばれた仲間達だ。
「悪いがルキウスには本日限りでチームを抜けて貰う」
最初に突き付けてきたのはチームリーダーだった。
当時無名のただの治癒魔法の使い手だった僕に目を付けて熱心に勧誘してくれた恩人だ。
どんなに辛い敵との戦いだってリーダーが「やれる・勝てる」と言ってくれるだけでどんな敵にも立ち向かう勇気が湧いてきた。
その背中がどんなに頼もしくて、力強くて、ついて行こうと思わせるカリスマを持っているかを後衛の僕は誰よりも知っている。
「ここ最近のお前は駄目すぎる、お前の所為でどれだけ仕事に手間取ったと思う」
睨みつけながら次に言ってきたのはエルフの盾使いだ。
エルフには珍しい弓をメインにしない彼はどんな攻撃からも逃げずに突き進んではあらゆる攻撃をいなして僕達を守ってくれた。
華奢な身体から想像出来ない筋力で扱う巨大な盾と魔術の盾の合わせ技はドラゴンブレスすら跳ね除けて詠唱時間を稼いでくれる。
彼は自分の知識を惜しみなく教えくれなければ強い魔法なんて使えず学ぶ時間のない僕はここまで成長することは出来なかっただろう。
「悪いけどアタシももう限界だよ、これ以上はアンタを庇わないよ?」
いつも僕を庇ってくれていたドワーフの弓使いが顔を背けている。
彼女とは後衛同士ということでとりわけ親しくしてきたつもりだ。
盾使いから学んだ魔術を装備に応用する方法を一緒に考えてくれたり碌な料理一つできずに皆を苦労させていた僕に料理に関して色々と指導してくれたのも彼女だ。
何かの失敗をしてもその仲間の味方を臆さずついてはその失敗を繰り返さないようにアレコレと考えてり特訓につきあってくれる優しい女性だ。
彼女がいなければ僕はどこかで成長が遅い事や物事が上手くいかない現実に挫けて今の栄光を手に入れることはなかっただろう。
そんな仲間達からのキツイ言葉に何も言い返せない、それだけ情けない事をしてしまっていた。
ここ最近の僕はどうしようもない失敗をしてばかりだ。
チームの新人達からも本当に栄光の魔術師なのかと疑われ、かつて向けられていた尊敬の眼差しはもうない。
だから解雇通告をされている、固い絆で結ばれていると思っていたが現実はこうなってしまった。
三人が新人達からの厳しい言葉から庇ってくれていたから僕はこのチームの一員でなんとかいられただけなのだ。
そう思うと涙が出てきた。
そして涙と一緒に自然と言葉が出てきた。
「うん、僕はチームの一員を辞めるよ」
自分でも驚くほどにすんなりと出てきた。
「おっおい、そこ粘るべきだろ!?」
「いいや、僕はチームの一員を辞める」
涙が止まらないのに言葉に嗚咽が混じらない事が悲しいどころか嬉しい。
「後悔するぞ?」
「僕は後悔はしない」
仲間の言葉が全く胸に突き刺さらない、別れるという現実に痛みを感じない。
「どうしてそんなあっさり言えるんだよ……私達の絆はそんなものなのかい?」
違う、違うんだよ。
「僕の中の冒険者が死んだんだ、あのドラゴンとの戦いで僕達のチームだけが犠牲者なしで乗り越えることが出来たのは皆が強いからだったのは間違いない
でも他のチームが犠牲者が出たのは弱いからじゃない、彼だって一流チームだったけどただ本当に少しだけ運が足りなかっただけなんだよ
黒こげになった死体を見て、食い殺されて内臓をまき散らした死体を見て僕はこうなるのが自分になるんじゃないかって思ったんだ」
それからはもう駄目だった。
どれだけリーダーの背中を見ても足が動かない。
どれだけ盾使いの言葉に耳を傾けても心が奮い立たない。
どれだけ弓使いの顔を見ても震えが止まらない。
どんな敵を見ても、その向こう側にあった筈の栄光の光が見えなくなった。
どんな敵を倒しても、手に入れる財宝や報酬に魅力を感じなくなった。
どんな敵を知っても、苦しんでいる人達の事を思いやれなくなった。
「僕はチームから追放される事が嬉しいんだ、皆といる事よりも離れる事で危険から逃げられる事が嬉しいんだ、逃げ出して恐ろしい敵と戦う英雄として見られなくなっていくであろう未来が来ることが嬉しいんだ」
恐怖に突き進む仲間から逃げ出すのが嬉しい。
英雄として期待される視線から目を背けられる事が嬉しい。
弱い僕に仲間達のような力を求められなくなめのが嬉しい。
「……どうにもならないのか?」
「……あの戦いで冒険者としての僕は死んだんだよ」
だからリーダーがそんな悲しそうにする必要はないんだ。
盾使いの貴方が何も言えない事を辛そうにする必要なんてないんだ。
弓使いの君が泣く必要なんてないんだ。
悪いのは弱い僕なんだ、追放される現実を受け入れている僕なんだ。
意気地なしになってしまった僕にはもう君達に向き合う勇気はないんだ。
もし少しでも強さが残っていたなら反論の一つでも出来たかも知れない。
チームや何かに執着することが出来たなら復讐の一つでも思いついたかも知れない。
でも駄目なんだ。
この満面の笑顔を止めることが出来ない。
この嬉し涙を止めることが出来ない。
全身から重荷が抜け落ちる実感を否定できない。
「さよなら、本当にさよなら、皆との冒険の日々は本当に楽しかった、僕の代わりを務める子はきっといるから」
笑いながら僕はチームの屋敷を躊躇うことなく飛び出す。
引き留める者はいない、引き留める声もない。
身にまとう装備がこんなに軽く感じるのはいつぶりだろう?
街の喧騒がこんなにも近く感じるのはいつぶりだろう?
大空をこんなにも遠くに見えるのはいつぶりだろう?
「ハハハハハハハハハハはははははははあははははハハハハハ!」
僕はもう自由だ!
栄光のチームを追放されたと笑えば良いさ!
不名誉な冒険者として馬鹿にすれば良いさ!
情けない英雄譚で締めくくられると侮辱すれば良いさ!
立ち向かう勇気もない、復讐も出来ない負け犬と笑えば良いさ!
それが僕の英雄譚の終わりに相応しい!
僕の物語はここで終わりで良いんだ!
復讐なんかするよりもずっと僕は幸せなんだから!
「……悲しくない事が悲しい」
あぁ僕にとって仲間との絆なんて簡単に捨てられる程度のモノだったのか。
固執する価値もなく、深く刻む理由もなく、握りしめても零れ落ちる程度のモノ。
だからここで終わってしまうんだと……全てを実感したのは故郷の誰もいない家に戻ってからだった。
追放する側がどうしようもないクズなら始まっただろう
追放される側に報復する強さがあれば始まっただろう。
報復するという選択肢以前に国元に帰るまで仲間との思い出すら描くことのなかった主人公。
そしてそこから何か大きな行動する事もなく静かに暮らし続けて描くこともない人生を終えた。
始まる前に終わった一人の英雄の惨めな物語。