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3話 神々のブラック・ボックス

 

「ボクのスキル、【顕在化】を使ってみようじゃないか!」


 ボクは興奮した勢いのまま、そう言った。


「ちょ、ちょっと待って!」


 だが、あっさり断られた。


「な、何故?気にならないのか?」


「いや、僕も気になるよ?でも、そのスキルで何かしら事故が起こったら、大変じゃない?」


 アッシュは僕の目を見ながら言ってくる。

 彼の表情には心配の色が浮かんでいた


「う、うむ…。確かに…」


 つい好奇心が暴走しかけた。


「一旦冷静になろう?エフ」


 アッシュの言う通り、冷静さが欠けていた。


「そうだな。冷静になろう。…ふぅ、落ち着けボク。冷静沈着、クールな普段のボクに戻るんだ」


「普段のエフが冷静沈着…?むしろ、大胆不敵っていうか…」


 まさかまさか、ボクが大胆不敵だなんてことはない…ない…は、ず…。


 自分の今日の行いを振り返ると、冷静さがかけらもないことに気がついた。


「うっ、うるさいっ。やめたまえ。…そうだな、冷静になったことだし、一旦ステータスでも確認するか。さて、【顕在化】は発現しているのかな…」


 天与の儀でギフトを受け取ってから、一度もステータスを確認してなかった。ちゃんと反映されているか見なければ。


「ステータスオープン」


 ……………………。

 …………………。

 ………………。


「…あれ、出てこないな。どういうことだ?」


 ステータス画面が現れなかった。おかしい、いつもなら瞬時に現れるのに。


「エフ、どうかしたの?」


 アッシュが尋ねてくる。


「ああ、何故か…」


 ボクが口を開けた、その直後。










『スキル【顕在化】の獲得に伴い、ステータス画面の更新を行います。…現在処理中。スキル【生物融合】の影響により、追加で特殊更新を行います。…経験値出力の不足を確認。…検証中。スキル【精査】を代用します。スキル【精査】がレベル4からレベル1に降格しました。…

 処理が完了しました』







「…は?」


 脳内に直接声が響いた。抑揚のない、棒読みのような声だった。声の主は、男性とも女性とも思えない、人間なのかも分からなかった。気味の悪い現象、しかし、間違いなく聞こえたのだ。


「だ、誰だ?誰の声なんだ……?」


 ボクは頭上を、空を見上げる。


「エフ?」


 アッシュには聞こえていないようだ。

 ボクは、空を見上げたまま、どこからかきた目眩と頭痛をビリリと感じ、身体が宇宙に近づくような錯覚を覚えた。



「ま、まさか、神なのか?神の声なのか?神サマがボクに話しかけてきたのか?…なあ、応えてくれ。どうしてこんなオカシなことをするんだ?なんでボクはずっとレベル1なんだ?何故アッシュにはギフトがない?理不尽、理不尽にも程があるんじゃないか?その上、スキルの降格ってなんだ、そんなものは聞いたことがない。運命を操っているのは、神よ、あなたなんでしょう?どうか教えてください、神よ、お前のせいでボクたちはぁ…!、せめて理由ぐらい教えてくれたっていいじゃないか、なぁ、どうなんだ、なぁぁああああ!!応えろおおぉぉおおお!!!」



「エフ!落ち着け!!」


 アッシュの声でハッとする。我に返る。顔を正面に向けると、アッシュが僕の両肩を掴んでいた。


「エフ、何が起こったんだ?」


「分からない、けど、誰かの声が脳内に響いて…。それで、ステータス画面の更新が行われたみたいなんだ。しかも、スキル【精査】のレベルが下がった…、らしい」


「ステータスの更新!?それにスキルレベルが下がったって…」


 ありのままを話す。


「ああ。しかも、人の言葉なのに、人の声には聞こえなくて。…もしかしたら、神なのかと思ったんだけど」


「神って、ニアジース教の?」


 アッシュの質問に対し、首を横に振る。


「いいや。前にも言ったが、ボクは宗教の神なんてものは信じない。きっと人の妄想が生み出したものだ。

 そうではなく、本当の神だ。人の妄想ではない、本当の神のような気がするんだ」


「本当の、神…。一体何者なんだろう…」


 実際に声を聞いていない彼に、理解しろと言うのは難しいだろう。




 であれば。





「ステータスをまずは確認してみる。その上で可視化してみよう」


 ボクがそう言うと、彼は顔を真っ赤にした。


「え、エフ、別にそこまでしなくても、僕は信じるよ?」


「いや、いいんだ。君になら見られても…、じゃ、じゃなくて、ふ、古い習慣に囚われちゃいけない!ボクはそう思う!うん、きっとそうだ。そうに違いない…」


 言い出しっぺのボクまで顔が赤くなってしまった。言葉の最後の方は独り言みたいになった。




 ーーー実は、この世界には、「ステータスを無闇に他人に見せてはいけない」というしきたりがある。

 ステータス画面は普段他者には見えないが、「ステータス・ビジュアライゼーション」と唱える、もしくは強く念じると、ステータスを可視化することができる。


 しかし、このステータスの可視化には大きな問題があった。ステータスを可視化すると、どういうわけか、自分の身体の背中に文字として浮かび上がるのである。

 つまり、ステータスを他者に見せたいのであれば、剥き出しの背中を見せなければならないのである。男でも女でも。


 それ故にステータスを見せるという行為は、特に仲の親しい者同士、配偶者や恋人同士でもないとやらない。


 なんなら同性の親友同士でも、「無闇に他人に見せるな」の範疇に入ってしまう。それほど、昔から根強く残るしきたりなのだがーーー





「習慣だとか、しきたりだとか、気にしなくていい!」


「えっと、僕も習慣とかには縛られたくはないけど、そ、そうじゃなくてエフのせ、せ、背な…」


「うううるさいっ!ステータスオープン!!!」


 ーーーーーーーーーー

 名前:エフ

 レベル:1

 状態:通常

 総合身体力:14

 総合精神力:19

 総合魔力:75

 融合度:68/100 (新項目)

 →出力:31/68 (新項目)

 成長率:0(新項目)

 スキル

【生物融合】ー 【顕在化】ー 【精査】1

【氷魔法】1 【毒耐性】1

 ーーーーーーーーーー


 …本当だ、本当にステータス画面が変わっている。顕在化が増えたのはもちろん、融合度、融合度の下の出力や成長率といったものが増えている。一体、何を表すステータスなのか。

 ちっ、よく見たら【精査】のスキルレベルがしっかり下がってるじゃないか。苦労して上げたのに。

 というか成長率0?ボクのレベルが上がらない原因か?ひょっとして。


「アッシュ、ステータスに融合度だとかいう項目が追加されている。確認して欲しい。…ステータス・ビジュアライゼーション」


 ボクがそう声に出すと、ステータス画面がパッと消える。

 多分もうすでに背中に出ているだろう。


 ボクはアッシュに背中を向けて、両腕を横に大きく広げる。


「…さあ、早くしてくれ」


「え、あの、心の準備が」


「安心しろ、誰にも見られていない!」


「そ、そうじゃなくて」


「いいからめくってくれ!こっちも恥ずかしくなるだろ!ステータスの文字は時間経過で消えるんだ!」


「わ、分かった!やる、やるよ!」


 アッシュが恐る恐るといった感じで後ろの裾に手をかける感触。

 意を決したのか、ガバッとめくり上げ…


「ば、ばかっ!!そんなに勢いよくめくるな!!前の方までめくれるところだっただろ!?」


 思わず両手で前の裾を押さえてしまった。


「ご、ごごごめんっ!?」


「い、いいから確認してくれ…」


 顔が熱い。どうしてこんなこと言い出しちゃったんだろう。ボクは変態なのか?いやそんなわけない!

 大体、そんな上の方にまで上げたら、まだブラジャーしてないのもバレるっていうか、こ、子供っぽいって思われてないかな?



「…本当だ、融合度に、出力に、成長率…」


 アッシュが驚いた感じで言うが、


「よし確認したな!もう充分だ離したまえ!」


 超早口で終わらせてしまう。


「う、うん!」


 アッシュが手を離すと同時に、彼に向き直る。


 と、向き直ったはいいが、彼の上半身は裸のままだった。


「…な、なんで服を着ていないんだ!?!?」


「ええっ!?今更!?」


 即座に手で顔を覆い隠す。

 そうだ、ボクが彼に服を脱がせたんだった。


「アッシュが無駄に初心(うぶ)なのが悪いんだからな!」


「えぇ…」


「……ま、まあいい。ついでだし君のステータスも見ておこう」


 冷静さを取り繕いつつ提案する。


「そ、そうだね。ステータスオープン。…ステータス・ビジュアライゼーション」


 ボクはアッシュの背中に表示されたステータスを見る


 ーーーーーーーーーー

 名前:アッシュ

 レベル:4

 状態:通常

 総合身体力:16

 総合精神力:15

 総合魔力:8

 スキル

【馬術】3

 ーーーーーーーーーー


「ふむ、アッシュのステータス画面には融合度とかが表示されないのか」


「そうだね」


「もしかしたら、ボクの【顕在化】を使えば表示されるかもしれない」


「うーん…。でも大丈夫かなぁ?」


「やっぱり不安か?」


 アッシュは少し思案した後、


「…いや、もうなんか吹っ切れたし、いいよ。エフの好きにしてくれ」


 どうやら彼の考えは変わったらしい。

 ボクの好きにしろというのに何か意味を感じたが、あまり考えないことにする。


「分かった。では、使ってみよう。…【顕在化】」


 アッシュの背中に向かって、スキルを使うイメージを強く念じた。すると、


「う、うわあぁぁあっ…!な、なんだ、ろう、身体がっ…!」


 アッシュは蹲ってしまう。


「アッシュ、大丈夫か!」


「…うん、大丈夫。悪い感じじゃない。むしろ、何かが湧き上がってくるような…」


 彼は立ち上がり、自身の身体を確認するようにあちこち触った。


 さらにその直後。


「え、エフ!脳内に声が聞こえた!『ステータス画面を更新する』って!」


「本当か!君にも聞こえたのか!」


 良かった、これで自分だけじゃない。

 なんだかホッとする。


「よし、ならばステータスをもう一度確認してみよう。背中の文字はまだ残って…い…る…」


 ステータスを見て思考が停止した。


「ん?どうしたの、エフ?変な項目が増えてた?」


「ああ、いや、追加された項目はボクと同じなんだが…」


 見間違いかな?と思ったので、目をこすってもう一度見てみる。見間違いではなかった。


「ははは…これほどとはな…」


 呆れて、乾いた笑いが出てしまった。


「アッシュ、素晴らしいよ。予想以上だ。古龍の眼に適合した…、君の身体がようやく真価を発揮したらしい」









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